静岡県立美術館で9/18から開催中の「ロボットと美術」展を見てきました。

サブタイトルが「機械×身体のビジュアルイメージ」とされているとおり、今回の展示では
人型を模したロボット(ヒューマノイド)を鍵として、その文化史における意義と変遷を
「身体性」という概念から紐解いていく・・・といった内容です。
そしてメインテーマについては、本展のカタログでそのものズバリのコメントがありました。
「ロボットを通じて、子供文化のありようとか、メカに自己投影する欲望とか、身体をめぐる
シュルレアリストの美学とか、そういったものを読み込むことができる」
(カタログ収録の座談会にて、静岡県美の村上上席学芸員の発言)
そしてこの言葉どおり、「ロボットと美術」展では、ロボットというイメージの生成、そして
これが社会と大衆により受容、さらに需要されていく過程を、広範に見せていました。
最初のセクションでロボット以前の「ピノッキオ」と「フランク・リードと蒸気人間」を取り上げ、
以後にロボットの起源であるR.U.R.の出現から初音ミクに至るまでの流れを示すことで、
「ロボットと人間」あるいは「科学と芸術」の境界線が持つ本質的なあいまいさとか、
それが微妙に揺れつつも文化として定着していく様子を、うまく描き出したと思います。
セクション1では主にシュルレアリスムやロシア・アヴァンギャルドによって、ヒトの姿が
機械的・幾何学的に改変されていくスタイルを例示しています。
美術作品としてはエルンストやベルメール、リシツキーなどの作品を紹介。
やがてこれらは未来的なシンボルとして、そのイメージが映画・博覧会・広告美術へと
流用されることによって、大衆へと浸透していくわけです。
いわばこの時期が一番「ロボットがオシャレ」とされていた時代かもしれませんね。
ここではロボットの起源であるチャペックの「R.U.R.」各国語版のほかに、
映画「メトロポリス」の公開時パンフレットやポスター、そして作中に登場した
女性型ロボットの原点、マリアの復刻像なども飾られていました。
また「帝都物語」のファンとしては、東洋初のロボットである「学天則」の
復刻モデルも見逃せません。
これは稼動するはずなので、できれば動いている姿も見せて欲しかったけど・・・。
セクション2は、戦後におけるロボットイメージの受容について。
この時期は美術のモチーフとして引き続き「機械」が取り入れられる一方で、
戦後に大きく発達した各種のメディア、特にTV番組と子供文化の結びつきが
「ロボット」というアイコンを強く求めたことが示されます。
セクション冒頭では現代美術家の村岡三郎、中村宏らの作品が紹介されていますが、
その流れから派生した成田亨による「ウルトラマン」デザイン画は、現代美術の様式と
子供文化の重要な接点を示すものでしょう。
そして手塚治虫のマンガ「鉄腕アトム」や四谷シモンの人形といった仕事は、
ヤノベケンジの「イエロースーツ」や荒木博志の「Astroboy」と言った作品へと
そのモチーフが引き継がれていきます。
また文学面ではSF小説の普及により、ロボット文学ともいうべき新たなカテゴリーが
確立されますが、ここで主導的な役割を果たしたのが、真鍋博氏のイラストでした。
今回は真鍋氏のイラストと共に、掲載時のSFマガジンも展示されてます。
一方でTV番組の普及は、スポンサーである玩具メーカーの成長と表裏一体でした。
これを象徴するのが、超合金やジャンボマシンダーといったキャラクター玩具であり、
そしてガンプラを中心としたパッケージアートの隆盛です。
そんなわけで、展示会場には新旧の超合金やジャンボマシンダーから、ガンプラに
リボルテックにロボット魂といった立体玩具たちが展示され、さらに1/12スケールの
大型ガンプラや実物大のSAFS、人間大のテムジンも置かれています。
パッケージアートでは大河原邦男氏から最近の天神英貴氏までの作品が並べられ、
それぞれの作風の違いや画材の変遷などが一望できました。
さらにはSFアートの代表として、加藤直之氏の直筆原画も出展されてます。
ちなみに加藤氏のデザインに基づくM-doorのバーサーカーフィギュアも
今回はじめて見ましたが、やはりすばらしい。ヘッドだけでも欲しいな~。
ガンダム寄りの現代美術では、山口晃さんの作品が参戦しています。
ロボットの騎馬を描いた「厩図」に加えて、ガンダムエースのピンナップ用に
描き下ろした「メカごころ落書き帖 ガンダム編」の原画もあり。
山口ガンダムのナマ絵が見られるだけでも、うっとりしちゃいます。
会場外のロビーには、鳥居周平さん作の1/1鉄製パワードスーツもありました。
これの原型デザインは宮武一貴氏。ハインラインの「宇宙の戦士」に登場する
機動歩兵の武装であり、モビルスーツの基になったメカとしても有名です。

宮武デザインに忠実なフォルム、すばらしい!
場内の展示物は撮影禁止なのですが、これはロビーにあるので撮影OKでした。
またこれらの戦闘メカとは対象的な、相澤次郎氏の四角いロボットたちも展示されてます。
人に寄り添うロボットのイメージを確立した点で、これらの果たした役割は大きいですね。
最後のセクション3では、ロボット工学と現代美術におけるロボットの現状を紹介。
ロボット工学が人の外見を精巧に模したもの、身体構造や動きを研究するものと
いよいよ細分化を見せるのに対し、美術方面ではロボットの不気味さや違和感、
そして擬態性を人間の身体に組み込むという手法も相変わらず行われています。
そんな傾向の中で新しい方向性を見せたひとつの例が、本展のトリを努める
「初音ミク」でしょう。
音声サンプリングによるツールという機能に人型のイメージを付与することで
爆発的なヒットを見せたソフトであり、さらにその枠を超えて広がるイメージの
源泉ともなっているキャラクターです。
KEI氏によるデザイン画を見ると、人型の中にシンセサイザーのモチーフが
いくつも組み込まれており、「楽器=インターフェイス」をヒト型に展開するという
VOCALOID本来のテーマ性に沿ったデザインイメージが感じられます。
一方でこれを立体的に膨らませた浅井真紀によるフィギュア「初音ミク・アペンド」は、
もはやメカとしてのイメージを脱しつつ、新しい形での人工美女の姿を示したもであり
大衆化された電子の女神像を、細心の技術で具象化したものとも言えるでしょう。
その点では、メトロポリスのマリアの後継者としての姿に近づいた印象がありました。

・・・言い回しがちと大げさだったかな?
でもロボットイメージの拡張という意味においては、本展を締めるににふさわしい作品です。
ちなみに知る人ぞ知るとおり、浅井氏の造型は極めて繊細。
会場の暗さもあって、肉眼で細かいところを見るのはなかなか大変です。
ということで、持ってる人はぜひ単眼鏡を持参して、じっくりとご覧ください。
先入観抜きで見ると、彫刻作品と変わりない細工に驚かされます。
ひとつ惜しい点を挙げるとすれば、本展オリジナルアニメの完成度でしょうか。
意欲は汲みますが、シナリオが美術展という現実の設定に引っぱられすぎでは?
絵のクオリティが高いだけに、物語もあとひとがんばりして欲しかった。
・・・といいつつ、アニメDVDつき限定カタログを買ってしまった私ですけど(^^;。

静岡展のチラシより、ヒロインのユマと乗用ロボットのチャリ。
4分弱という短さはともかく、人とロボットが身近に関わる生活と、その結果として
必然的に生じてくる「ロボットの廃棄問題」に目をつけたテーマ設定については、
さすがに鋭いなぁと思いました。
これに対処するには、ボディだけでなく「知性のリサイクル」という視点の導入も
必要になってくるかもしれませんね。
できればアニメの展開でも、そこまで踏み込んだ描写が欲しかったのですが。
現在進行形のテーマを扱っているだけに、様々な社会現象との連動が見られるため、
本展だけですべてのロボット像が総括できるものでもありませんが、俯瞰図として
多くの発展性も含みつつ、展示としても楽しめる内容になっていたと思います。
今ならちょっと足を伸ばせば1/1ガンダムも見られるので、遠方の方も少しだけ
遠出をしてみてはいかがでしょう?
中の展示が撮影できなかったので、ショップ前の展示物を撮ってきました。

アッガイのポーズは、展示されていた開田裕治さんのパッケージアートを思わせます。
モデラーが美術館の有志というところが、また泣かせますな~。

サブタイトルが「機械×身体のビジュアルイメージ」とされているとおり、今回の展示では
人型を模したロボット(ヒューマノイド)を鍵として、その文化史における意義と変遷を
「身体性」という概念から紐解いていく・・・といった内容です。
そしてメインテーマについては、本展のカタログでそのものズバリのコメントがありました。
「ロボットを通じて、子供文化のありようとか、メカに自己投影する欲望とか、身体をめぐる
シュルレアリストの美学とか、そういったものを読み込むことができる」
(カタログ収録の座談会にて、静岡県美の村上上席学芸員の発言)
そしてこの言葉どおり、「ロボットと美術」展では、ロボットというイメージの生成、そして
これが社会と大衆により受容、さらに需要されていく過程を、広範に見せていました。
最初のセクションでロボット以前の「ピノッキオ」と「フランク・リードと蒸気人間」を取り上げ、
以後にロボットの起源であるR.U.R.の出現から初音ミクに至るまでの流れを示すことで、
「ロボットと人間」あるいは「科学と芸術」の境界線が持つ本質的なあいまいさとか、
それが微妙に揺れつつも文化として定着していく様子を、うまく描き出したと思います。
セクション1では主にシュルレアリスムやロシア・アヴァンギャルドによって、ヒトの姿が
機械的・幾何学的に改変されていくスタイルを例示しています。
美術作品としてはエルンストやベルメール、リシツキーなどの作品を紹介。
やがてこれらは未来的なシンボルとして、そのイメージが映画・博覧会・広告美術へと
流用されることによって、大衆へと浸透していくわけです。
いわばこの時期が一番「ロボットがオシャレ」とされていた時代かもしれませんね。
ここではロボットの起源であるチャペックの「R.U.R.」各国語版のほかに、
映画「メトロポリス」の公開時パンフレットやポスター、そして作中に登場した
女性型ロボットの原点、マリアの復刻像なども飾られていました。
また「帝都物語」のファンとしては、東洋初のロボットである「学天則」の
復刻モデルも見逃せません。
これは稼動するはずなので、できれば動いている姿も見せて欲しかったけど・・・。
セクション2は、戦後におけるロボットイメージの受容について。
この時期は美術のモチーフとして引き続き「機械」が取り入れられる一方で、
戦後に大きく発達した各種のメディア、特にTV番組と子供文化の結びつきが
「ロボット」というアイコンを強く求めたことが示されます。
セクション冒頭では現代美術家の村岡三郎、中村宏らの作品が紹介されていますが、
その流れから派生した成田亨による「ウルトラマン」デザイン画は、現代美術の様式と
子供文化の重要な接点を示すものでしょう。
そして手塚治虫のマンガ「鉄腕アトム」や四谷シモンの人形といった仕事は、
ヤノベケンジの「イエロースーツ」や荒木博志の「Astroboy」と言った作品へと
そのモチーフが引き継がれていきます。
また文学面ではSF小説の普及により、ロボット文学ともいうべき新たなカテゴリーが
確立されますが、ここで主導的な役割を果たしたのが、真鍋博氏のイラストでした。
今回は真鍋氏のイラストと共に、掲載時のSFマガジンも展示されてます。
一方でTV番組の普及は、スポンサーである玩具メーカーの成長と表裏一体でした。
これを象徴するのが、超合金やジャンボマシンダーといったキャラクター玩具であり、
そしてガンプラを中心としたパッケージアートの隆盛です。
そんなわけで、展示会場には新旧の超合金やジャンボマシンダーから、ガンプラに
リボルテックにロボット魂といった立体玩具たちが展示され、さらに1/12スケールの
大型ガンプラや実物大のSAFS、人間大のテムジンも置かれています。
パッケージアートでは大河原邦男氏から最近の天神英貴氏までの作品が並べられ、
それぞれの作風の違いや画材の変遷などが一望できました。
さらにはSFアートの代表として、加藤直之氏の直筆原画も出展されてます。
ちなみに加藤氏のデザインに基づくM-doorのバーサーカーフィギュアも
今回はじめて見ましたが、やはりすばらしい。ヘッドだけでも欲しいな~。
ガンダム寄りの現代美術では、山口晃さんの作品が参戦しています。
ロボットの騎馬を描いた「厩図」に加えて、ガンダムエースのピンナップ用に
描き下ろした「メカごころ落書き帖 ガンダム編」の原画もあり。
山口ガンダムのナマ絵が見られるだけでも、うっとりしちゃいます。
会場外のロビーには、鳥居周平さん作の1/1鉄製パワードスーツもありました。
これの原型デザインは宮武一貴氏。ハインラインの「宇宙の戦士」に登場する
機動歩兵の武装であり、モビルスーツの基になったメカとしても有名です。

宮武デザインに忠実なフォルム、すばらしい!
場内の展示物は撮影禁止なのですが、これはロビーにあるので撮影OKでした。
またこれらの戦闘メカとは対象的な、相澤次郎氏の四角いロボットたちも展示されてます。
人に寄り添うロボットのイメージを確立した点で、これらの果たした役割は大きいですね。
最後のセクション3では、ロボット工学と現代美術におけるロボットの現状を紹介。
ロボット工学が人の外見を精巧に模したもの、身体構造や動きを研究するものと
いよいよ細分化を見せるのに対し、美術方面ではロボットの不気味さや違和感、
そして擬態性を人間の身体に組み込むという手法も相変わらず行われています。
そんな傾向の中で新しい方向性を見せたひとつの例が、本展のトリを努める
「初音ミク」でしょう。
音声サンプリングによるツールという機能に人型のイメージを付与することで
爆発的なヒットを見せたソフトであり、さらにその枠を超えて広がるイメージの
源泉ともなっているキャラクターです。
KEI氏によるデザイン画を見ると、人型の中にシンセサイザーのモチーフが
いくつも組み込まれており、「楽器=インターフェイス」をヒト型に展開するという
VOCALOID本来のテーマ性に沿ったデザインイメージが感じられます。
一方でこれを立体的に膨らませた浅井真紀によるフィギュア「初音ミク・アペンド」は、
もはやメカとしてのイメージを脱しつつ、新しい形での人工美女の姿を示したもであり
大衆化された電子の女神像を、細心の技術で具象化したものとも言えるでしょう。
その点では、メトロポリスのマリアの後継者としての姿に近づいた印象がありました。

・・・言い回しがちと大げさだったかな?
でもロボットイメージの拡張という意味においては、本展を締めるににふさわしい作品です。
ちなみに知る人ぞ知るとおり、浅井氏の造型は極めて繊細。
会場の暗さもあって、肉眼で細かいところを見るのはなかなか大変です。
ということで、持ってる人はぜひ単眼鏡を持参して、じっくりとご覧ください。
先入観抜きで見ると、彫刻作品と変わりない細工に驚かされます。
ひとつ惜しい点を挙げるとすれば、本展オリジナルアニメの完成度でしょうか。
意欲は汲みますが、シナリオが美術展という現実の設定に引っぱられすぎでは?
絵のクオリティが高いだけに、物語もあとひとがんばりして欲しかった。
・・・といいつつ、アニメDVDつき限定カタログを買ってしまった私ですけど(^^;。

静岡展のチラシより、ヒロインのユマと乗用ロボットのチャリ。
4分弱という短さはともかく、人とロボットが身近に関わる生活と、その結果として
必然的に生じてくる「ロボットの廃棄問題」に目をつけたテーマ設定については、
さすがに鋭いなぁと思いました。
これに対処するには、ボディだけでなく「知性のリサイクル」という視点の導入も
必要になってくるかもしれませんね。
できればアニメの展開でも、そこまで踏み込んだ描写が欲しかったのですが。
現在進行形のテーマを扱っているだけに、様々な社会現象との連動が見られるため、
本展だけですべてのロボット像が総括できるものでもありませんが、俯瞰図として
多くの発展性も含みつつ、展示としても楽しめる内容になっていたと思います。
今ならちょっと足を伸ばせば1/1ガンダムも見られるので、遠方の方も少しだけ
遠出をしてみてはいかがでしょう?
中の展示が撮影できなかったので、ショップ前の展示物を撮ってきました。

アッガイのポーズは、展示されていた開田裕治さんのパッケージアートを思わせます。
モデラーが美術館の有志というところが、また泣かせますな~。
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