Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

根津美術館『KORIN展 国宝「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」』

2012年05月19日 | 美術鑑賞・展覧会
ゴールデンウィーク中の話になりますが、根津美術館で5月20日まで開催されている
『KORIN展 国宝「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」』に行ってきました。



今回の「KORIN展」では、タイトルどおり、尾形光琳が描いた「燕子花図屏風」と「八橋図屏風」が、
約百年ぶりに揃って展示されています。

実はこの二作品、昨年のこの時期に揃って展示される予定でしたが、ご存知のとおり開催直前に
東日本大震災が発生。
その後すぐに翌年への延期が告知され、それから実に1年後、ようやくこの展示が実現したものです。

一年待つのは長かったけど、今こうして無事に2作がそろって見られたのは何よりうれしいし、
あれからもう一年経ったんだな・・・という思いも加わって、普通に見るよりもありがたみが増したように
感じました。

ミニ屏風が欲しかったのですが、グッズ売り場になかったので、チラシを使って作成してみました。

燕子花図屏風(根津美術館所蔵)

二つの屏風は、どちらも平安時代に書かれた「伊勢物語」を主題としており、主人公の在原業平が
三河国の八橋に至った際の場面を描いたとされています。
しかし先に描かれたと言われる「燕子花図屏風」では、地名の由来となった八橋は画面内に無く、
燕子花の花の群生しか描かれていません。

江戸時代、これらの作品を所有していた富裕層には古典の知識が不可欠だったので、「燕子花」とくれば
「伊勢物語」と結びつけるのが当然だったとか、あるいは花の群生が八つあるのを八橋に見立てている、
といった解釈もあるとか。

まあそれはともかく、この絵の魅力は「燕子花」の鮮やかな色とユニークな形を最大限に活かしつつ、
自然な「風景」として描いたところにあると思います。

燕子花そのものは簡略化されていますが、いかにも高級そうな顔料によって強烈に発色し、
これが金屏風の下地と合わさって豪華な画面を作り出しています。
でもこの金色を「水面の反射」に見立てると、意外に素直な風景画にも見える・・・というのが、
この絵が持つ別のおもしろさ。

光琳はこの光の具合によって、描いていない水や群生の奥行きまで表現しようとしたのでしょうか。
だとすれば、そこには若冲や応挙のような超絶描写とはまた違った「発想の斬新さ」という個性が
光り輝いているようにも思えます。

そして「燕子花図屏風」より十数年後の作品と言われる「八橋図屏風」では、名前にもあるとおり、
とうとう「八橋」が登場しました。
そしてこの八橋がまた強烈で、燕子花の花を上まわるほどに個性的な形をしています。

こちらもチラシを流用して、ミニ屏風を作りました。

八橋図屏風(メトロポリタン美術館所蔵)

橋というよりも、まるで画面の中を稲妻が走り抜けたみたい・・・むっ、もしやこのデザインには、
さりげなく「風神雷神図屏風」のモチーフが託されているのかも!(笑)

さすがに風神雷神はオーバーでしょうけど、やはりこの橋には単なるデザインだけでない、
もうひとつの意図が秘められているような気もします。
それは屏風絵という形式のみが可能とする、一種の「立体視効果」をさらに高めるための、
視覚的なトリックではないか…というもの。

文章では説明しにくいので、せっかく作ったミニ屏風を使って検証してみましょう。

屏風を折らずに見ると、やや平べったく見えます。


これを半分だけ屏風状に折り曲げると、折った側だけ立体感があるように見えてきます。


そして全部を屏風状にすると、燕子花に囲まれた橋が手前から奥へと伸びている感じになりました。


さらに板の厚みや橋桁の位置なども考慮すると、右隻と左隻の中心よりもやや左に寄って見たほうが、
より奥行き感が感じられるように思います。


「燕子花図屏風」では“描かないことで奥行きを出してみせた”光琳ですが、「八橋図屏風」では
しっかりと橋を描きつつ、屏風の角度と直線的な橋をジグザグに組み合わせたデザインによって、
新たな立体表現に挑んだようにも見えます。
また燕子花の花も以前より細密な描写になっており、絵全体がより現実の光景へと近づいたようにも
感じました。

文学作品を扱いながら、その中に光琳なりのリアリズムを持ち込もうとした実験精神の成果こそ、
この「八橋図屏風」である、と解釈することもできそうですね。

これは私の主観なので、実際に見たときにどう見えるかはその人次第でしょう。
ただし「こういう見方もあるなあ」と思いながら見てもらると、そんな気になるかもしれません。

こうやっていろいろと見立てができるのも、光琳が作中に主題となる人物などをはっきりと
描きこまなかったおかげだし、それによって初めて可能な「遊び」ではないかとも思います。
なにしろ燕子花の絵を「伊勢物語」に見立てること自体が、もともと遊びみたいなものですしね。

そして咲き誇る燕子花を眺めながら、目の前に伸びる八橋を見据えるとき、私たちは自らが
在原業平となり、彼が見ていた風景を目にしていることになるのだと思います。

二つの燕子花図を横並びで見られる展覧会が、次にいつ開かれるのはいつのことか。
・・・もしかすると、また百年待たなければならないかもしれません。
両者を見比べるためにも、この絶好の機会をお見逃し無く。

庭園では五月の節句にふさわしく、本物の燕子花が見ごろを迎えていました。





この花の色と形、そして垂直に伸びた葉の形・・・確かに光琳の描いたとおりです!
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