歌舞伎の世界では女役の役者と立役の役者に分かれています、現在、最も有名な女形の役者は玉三郎です。なお、立役と云うのは女形にたいする男役の役者を云うのだそうですが、藤井高尚が宮内芝居に来ていた中村歌之介をその別荘「鶏頭樹園」に招いて芸談している中に、その女役と立役の二通りを演ずる事ついて尋ねております。
「梅玉(中村歌右衛門)も立役にて女形をし、近来はやるは、めずらしく気のかはるをよしとすることにや」
と、問いかけています。
高尚は言います。男と女の情、即ち、こころはどうしても夫々に違うものですから、女形と男形を一人の役者がするのは、余りほめられたものではないのではないか。それが珍しいからかえっていいのでしょうか???と質問しているのです。
芸談ですからあまりおもしろくも何もないのですか、高尚と云う人のその思いの幅がいかに大きく偉大であったかと云うことを知っていただくために大切な事だと思いますから、敢て、ここに取り上げます。
このような教養高き人がいたからこそ、当時の宮内の文化的な空気を一段と高所に引き上げてくれたのは確かです。これも後から取り上げますが、当時、日本でもほんの数か所でしか催されていないような「尚歯会」と云う会も、この宮内では開いていたのです。これも藤井高尚と云う特別に傑出した人物がいたからこそ出来たことなのです。一瞥頂けますと幸いに存じます。
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