私の町 吉備津

藤井高尚って知っている??今、彼の著書[歌のしるべ]を紹介しております。

小雪物語―鳴竈会

2012-08-17 07:29:48 | Weblog

  宿の主、大阪屋のお粂も、時々、そんなお須香のことが心配になったのか、顔を覗けます。
 「お須香さん、一寸代わりましょう。そんなに根をつめると、今度は、あなたの方が倒れるわ」
 「いえ、大丈夫」
 といって代わろうともしません。
 小雪は、相変わらず眠り続けています。
 翌日に、梁石先生が小雪の容態を見に来てくれましたが、「薬がこなくてね」とおっしゃって、何か難しそうな顔をなさりながら、小雪の手を握られたりしながら、「このまま見ていてくださいな。またくるからな」と、だけ言われて、帰って行かれます。その次の日にも、又、たずねてきたのですが、いつもと同じように、何にもおっしゃらないで、手をとって暫らく小雪の寝息を確かめるかのようにしていたのですが、ふーっと大きな息をひとつして、何も言わないで、帰って行かれます。
 そんな小雪を見つめながらお須賀は
 「なんてかわいらしいお顔でしょう。はやく目を開けて、私がしっかりと守ってあげるから」
 と、何も言わない小雪に話しかけるのでした。

 小雪が舞台に倒れて3日が経ちました。『鳴竈会』が終わり、前代未聞の大賑わいを見せた宮内の街も、大勢の各地の親分さん方が帰国されると、それまでの数日間の賑わいが本当に嘘のように、また、あの平生の片田舎の男たちの欲望の街に戻します。
 「この会で、熊五郎大親分の懐もだいぶ楽になったようだぜ。なにせ、何万両と言う利益が上がったというからなあ。てえしたやつだで、熊五郎という親分は」
 と、これまた宮内雀の噂です。

 時は化政時代です。江戸期を通して一番の華美な庶民文化が展開した時代です。このような鄙の色街でもそれは例外ではありませんでした。


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