ホトトギスが、楓の枝を通り抜けて朝の光の中を、けたたましく鳴き響んでいます。
昨夜、遅くまで灯かり点いていたようだったおせんの部屋からは、初々しい初夏の朝光を浴びながら静かに物音一つ聞こえてきません。その余りにの静かさに母親のおよしはなんだか少々胸騒ぎを覚えます。
「呼ぶまで来んといてな」
という、おせんの言葉でしたが、今朝は、お園も一緒にいるのだからと、急いで部屋の戸を開けます。
と、そこには、おせんとお園とが重なり合うように倒れている姿が目に飛び込んできました。
「おせん」
大声を張り上げながらに、部屋の中に飛び込んでいきます。
その声で、はっと我に返ったのがお園です。おせんを抱きかかえるようにして眠ってしまっていたのです。
「昨夜、急に、おせんさんが私に寄りかかるように眠られてしまったものですから、そのまま私もつい眠ってしまったのです。・・・御寮ンさん、ちょっと見てください。こんなに安らかに眠っておられます。おせんさんが。なんって可愛らしいお顔でしょう。一人では支えきれないほどの大きい悩みを持ちながら、誰にも言わずに自分ひとりで今日まで懸命に戦ってこられたのです」
まだ眠りこけているおせんを抱いたまま、およしに語りかけます。
「お園さんがおせんを抱いて寝てくださったのどすか。まだ、よく眠っているようだす。お園さん、わてと代わってくれはりゃせんやろか。おせんが、今まで何か一人で悩んでいたのはわかっておったのどすが。何かわからんで・・・うちじゅうの者が皆で、御飯も喉も通らないほど心配しおっておったのどす。でもどうしてやることも出来しまへン。ただじっと見ているだけでおした、母親としてつろうおましたけど、どうしようもおまへんでした、じっとみるだけでおした」
と言うと、目にいっぱい涙をため、お園にかわって、おせんを抱きかかえます。おせんは、まだ、よほど疲れきっていたのでしょう、お園と母親のおよしが入れ替わったのも分らないのか、まだ昏々と安心しきったように眠ったままです。
おせんを抱いたまま、およしが、
「何年振りでしゃろ。おせんをこの腕の中に抱けるなんて。どうして何んにも言ってくれなかったのでしゃろか、私もこの子の母親でおす。どうして・・・」
涙が滝のように滴り落ちます。その涙の一滴が抱いているおせんの頬に落ちました。
昨夜、遅くまで灯かり点いていたようだったおせんの部屋からは、初々しい初夏の朝光を浴びながら静かに物音一つ聞こえてきません。その余りにの静かさに母親のおよしはなんだか少々胸騒ぎを覚えます。
「呼ぶまで来んといてな」
という、おせんの言葉でしたが、今朝は、お園も一緒にいるのだからと、急いで部屋の戸を開けます。
と、そこには、おせんとお園とが重なり合うように倒れている姿が目に飛び込んできました。
「おせん」
大声を張り上げながらに、部屋の中に飛び込んでいきます。
その声で、はっと我に返ったのがお園です。おせんを抱きかかえるようにして眠ってしまっていたのです。
「昨夜、急に、おせんさんが私に寄りかかるように眠られてしまったものですから、そのまま私もつい眠ってしまったのです。・・・御寮ンさん、ちょっと見てください。こんなに安らかに眠っておられます。おせんさんが。なんって可愛らしいお顔でしょう。一人では支えきれないほどの大きい悩みを持ちながら、誰にも言わずに自分ひとりで今日まで懸命に戦ってこられたのです」
まだ眠りこけているおせんを抱いたまま、およしに語りかけます。
「お園さんがおせんを抱いて寝てくださったのどすか。まだ、よく眠っているようだす。お園さん、わてと代わってくれはりゃせんやろか。おせんが、今まで何か一人で悩んでいたのはわかっておったのどすが。何かわからんで・・・うちじゅうの者が皆で、御飯も喉も通らないほど心配しおっておったのどす。でもどうしてやることも出来しまへン。ただじっと見ているだけでおした、母親としてつろうおましたけど、どうしようもおまへんでした、じっとみるだけでおした」
と言うと、目にいっぱい涙をため、お園にかわって、おせんを抱きかかえます。おせんは、まだ、よほど疲れきっていたのでしょう、お園と母親のおよしが入れ替わったのも分らないのか、まだ昏々と安心しきったように眠ったままです。
おせんを抱いたまま、およしが、
「何年振りでしゃろ。おせんをこの腕の中に抱けるなんて。どうして何んにも言ってくれなかったのでしゃろか、私もこの子の母親でおす。どうして・・・」
涙が滝のように滴り落ちます。その涙の一滴が抱いているおせんの頬に落ちました。