それは、ごく最近の某日
ウルトラマン商店街のど真ん中で起きた
あるオバサンが自転車で走っていた
バサバサと鳥の羽ばたきが聞こえた
近くにいた買い物客が「キャッー」と声を上げた
オバサンは「?」と周りを見た
皆 自分を見ている
フッと店の硝子に映る“自分”が目に入った
硝子に映る“自分”は、大きな黒い帽子を被っていた
その黒い大きな帽子には黒いクチバシがある
カラスだ
カラスが自分の頭に乗っていたのだ
オバサンはパニックに陥った
獣のような大声を張り上げながら
頭をメチャメチャに振った
と…オバサンの髪を掴んでいた
カラスの爪に力が加わり
オバサンの頭皮に食い込んだ
それでもオバサンは頭を振り続け
遠心力で振り払おうとでも考えたのか
乗っていた自転車のハンドルを切り
同じ所をグルグル回り始めた
オバサンの頭のカラスは
そんなこと屁でもないという感じで
皆の注目を集めるなか グルグル回るのを
むしろ楽しんでいるように見えた
「カァ~」と楽しげに鳴いたりもした
懸命にグルグル回るオバサンの頭から
タラーッと鮮血が流れ始めた
それはそれは 壮絶な光景だった
八墓村よりも恐かった
やがてオバサンは力尽き
自転車ごと バタッと倒れた
同時にカラスは飛び去った
皆は飛び去るカラスを眼で追い
次いで 倒れたオバサンを見た
オバサンはヒクヒクと痙攣していた
その事件は ほんの数十秒のことだった
皆は いま眼前で起こったことが
現実のように思えなくて
しばらくボーッと痙攣するオバサンを見ていた
その人々の頭上から
呑気な鳴き声が聞こえていた
「カァ~…」
その事件から二日後
オバサンは何処かに
引っ越していった…