「へンくつ日記」

日常や社会全般の時事。
そして個人的思考のアレコレを
笑える話に…なるべく

さあ、舞台の幕は上がった!

2011年10月20日 14時37分12秒 | Weblog
 
オーディション番組での一場面。
色とりどりの電飾で飾られた華やかなステージ。期待
を膨らませ注目する大勢の観客。そこへ、全く場違い
な、小太りで見すぼらしいなりをした中年男が舞台袖
から姿を見せ、中央に進み出てきた。
観客は、一瞬、舞台スタッフが出てきたのかと思った
のだが、居心地悪そうにしながらも、舞台から外れよ
うとはしない中年男を見て、彼が番組の出場者である
ことを知る。観客は口元を押さえ、小さく苦笑した。

その中年男の動作を目で追い、怪訝な面持ちを浮かべ
ていた審査員長が声をかけた。
「君、何か用かね?」
会場から爆笑が起こる。まるで、堪えていたものが弾
けたような笑い声だ。
笑いの中、舞台の男は申し訳なさそうに口を開いた。
「歌を、やりにきたんです。旦那」
審査委員長は吹き出した。
「旦那、か!」
男は何故笑われているのか判らない態で、客席最前列
の審査委員長の顔色を不安気に窺っている。
「まあ、いい」審査委員長は言った。
「で、何を歌うんだね」
男はおずおずとタイトルを告げる。
「Canto Della Terra(大いなる世界)を…」
イタリアの盲目の歌手、アンドレア・ボッチェーリが
得意とする曲目だ。
「フン」審査委員長は鼻で笑い書類に目を落とした。
前奏曲が流れ始める。
審査委員長は隣に座る美人歌手の耳元に何やら囁く。
美人歌手は妖艶な笑みで審査委員長を見つめる。
素振りから、口説かれているのが判る。
中年男の静かで張りのある低音が響いてきた。
その第一声に、審査委員長の口説きの囁きが止まり、
美人歌手は驚いたように中年男を見た。
観客たちも唖然とした表情で歌う男を見ている。
サビの部分の歌い上げる高音に差し掛かると、心揺さ
ぶられた美人歌手の目から、一筋の涙が流れた…。

それは、聴く者の心を捉えて離さない、まるで奇跡の
様な歌いっぷりだった。
男の力強く、また情感たっぷりの歌が終わると、会場
を揺るがすような歓声が起こり、拍手が鳴り響いた。
なかには、泣きながら拍手をしている女性もいる。
その嵐のような拍手のなか、審査委員長を始め、審査
員全員が、呆然と舞台の男を見ていた。
舞台の男は、その審査員達の顔を不安気に見ている。
やがて、審査委員長が口を開いた。
「…あ、なんて言ったかね、君の名前は」
「田舎です。田舎…田吾作」
「タゴサク君…いや、田舎田吾作さん。今、この場で、
君と契約したい。もちろん、君さえ良ければだが」
会場から大拍手が巻き起こる…。

スター誕生の一場面。以前、このような海外のオーデ
ィション番組が紹介され、多くの人々に感動を与えた。
中年男の持つ“特別”な才能は、多くの人々が彼に抱
いた蔑みを尊敬へと変え、彼のその後の人生も変えた。


これは歌手のオーディション番組だが、歌の才能など
なくとも、全ての人間に、“特別”があり、それが舞
台の上の中年男のように多くの人々を感動させ、自ら
の人生をも“変革”させる力を持っている。

その“特別”とは、一人ひとりの心の中にある“清浄
で尊極な生命”だ。
『その生命は自由自在であり、晴ればれと開かれてい
る。生きとし生けるものへの慈しみに満ち、苦悩する
存在への同苦がみなぎっている。枯れることのない智
慧と精神力がほとばしり、尽きない生命力と福徳が湧
き出でている。さらに、自他の悪と戦う勇気が燃え、
何ものも恐れない』
その生命は、誰の心の奥底にもあるのだ。その生命力
を発揮した瞬間に、過去の自分は変革し、新しい自分
となって、人々から感動の拍手を持って迎え入れられる。
オーディションに臨んだ彼のように…。

自分の人生の舞台の主役たる自分は、古いベールを脱
ぎ、“尊極の生命”を持ったヒーローとして、今後の
人生の舞台を堂々と演じきっていくのだ。常に、感動
と賞賛の拍手を浴びながら…。

そう、種明かしをしよう。君が舞台で演じる君の人生のシ
ナリオは、実は君自身が書いたものだ。その台本を手に、
君は願って舞台に立っているのだ。君自身が望んだ波乱万丈、
時には絶体絶命のストーリーなのだ。
さあ、存分にヒーローを演じたまえ!
コメント
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