スラムのディレーラーのお話です。
こうやって動画で比較するとよく分かります。
MTB界でのスラムはもうよほどのことがないかぎり、その牙城が崩れることはないでしょう。でもそれはシマノが胡座をかいてばかりいたということだけが理由ではないのです。
実際、メンテナンススタンドでスラムとシマノの変速を比べれば、明らかにシマノが滑らかで速いです。
これは
シングルテンションと
ダブルテンションの決定的な差です。この速さはロードコンポの巨人、カンパニョーロですら追随せざるを得ませんでした(縦型シングルテンションから、横型ダブルテンションへ)。
これはひとえに二カ所の駆動部分による、追随性の良さによるものです。ディレーラーのスラント角だけに依存しない、より曲線的な動きでチェーンとプーリーとスプロケットの間隔を狭め、稼働にロスがないようにしたのです。
シマノのダブルテンションの追従性、反応性の良さはオフロードだと仇になり、チェーン暴れが酷く、外部からのヒットが増え、ディレーラーのヒットも増えるのです。
スラムは良い意味で鈍いのです。だからチェーンが暴れない。
要するにシマノは純変速機なのですが、スラムは変速機兼チェーンデバイス(チェーンテンショナー)と言うことが出来るでしょう。もちろんあくまで比重の例えなので、両ブランドとも両方の機能を備えています。
むかああし、DHライダーヤナギが型遅れのショートケージのデオーレXTを使っていたのを覚えている人もいるかと思います。あれはチェーンデバイスのイイ製品が無い時代の策でした。それはケージが短いことによることと、あともう一つ、スプリングテンションの強さが秘密でした。
確かあの次の世代から、リヤディレーラーのパンタグラフ部のスプリングはコイル式になったのです。今ではすっかり標準品ですが、当時は斬新だったのです。このメリットはトップからローまでほぼ均一な引きで済むこと。それまでのスプリングは板式というか、ゼムクリップのような感じだったのです。これによりシフトは劇的に軽くなりました。
しかし!
当時も今もリヤディレーラーに担わされた機能は変速以外にもう一つあります。それはチェーンテンショナーです。素直に動くと言うことは、外部からの力にも敏感に反応してしまうと言うことでもあります。
ヤナギはそれを見越して、旧型を使っていました。そしてさらに一工夫していました。
それは
リヤディレーラーのテンションスプリングの隠し機能ともいえるテンション力の切り替えです。これを強い方に設定することでシフトはちょっと重いけど、あまり過敏に動かないディレーラーにしていたんです。この機能は今のシマノディレーラーにも付いています。
シャドーは変速スピードが速くないと文句を言う人がいます。もちろんかなりの部分は今までのシマノとは違うセッティングであることを理解していないためなのですが、ノーマルディレーラーと比べると上記のスラムに倣い、敢えて鈍くしてあるのです。そう考えるとセイントがシャドーしかラインナップにないのは納得してもらえると思います。
更に突っ込むと、シマノ史上最も軽く動くリヤディレーラーはローノーマルタイプです。それと比べた場合、かなり重く感じることもまた事実です。
この鈍さは変速が上手くない人にも有効です。悪路の上り下りでチェーンは暴れます。その時スラムなら落ち着いた挙動で変速してくれます。
スラムを試したことがない人は、ちょっと試してみては? インパルスシフトだけが美点ではないんですよ。