太った中年

日本男児たるもの

ワンユー物語

2011-04-21 | weblog

さて奥さん、マカロニ・バーで夜空を見上げる男ワンユー。人は彼をマニラのカリスマ理容師と呼ぶ、なーんてことはもちろんない。まず、ワンちゃんとの出会いは叔母さんから経営の思わしくない床屋を案内されたときだった。最初に見た印象は、「アリャマ、片岡鶴太郎に似ている」。また彼は下唇の真下に髭を伸ばしている(これはブルースマンのスタイル、有名どころではレイチャールズ、忌野清志郎)ので「ブルースマンなのかな」(ワンちゃんはそれを知らず、後日教えてあげるといたく感激した)、と思った。そして最初の出会いから2日後、彼に散髪してもらった。このとき衝撃が走った。ワンちゃんは錆びたハサミを手にするや嘗てのビートたけしよろしく目をパチパチ、肩をヒクヒクさせながら髪の毛を巧みに刈り出した。つまり片岡鶴太郎がビートたけしのモノマネをしながら散髪しているのだ。そりゃもう奥さん、夢を見ているような光景だった。

それから暫くして引っ越しが終わり、2階のリピングでドームスとミコちゃんが仲間を集めてウェルカムパーティーを開催してくれたとき、酔っ払ったドームスが下にいるワンちゃんを連れて来て「ワン、タガイ ナ タガイ」(酒飲め、ゴラァ)と言った。するとワンちゃんグラスにナミナミ注がれたウィスキーを一気に飲み干し、チェイサーのアイスティーを飲み終えると「メイロン トラバホ」(僕には仕事があるから)、そう言ってお客のいない下の床屋に戻った。このとき「なんか悪いことをした」つー日本人の感覚が働き、次の日、仕事を終えたワンちゃんを2階のリピングに誘い一緒に飲んだ。それがワンちゃんとの飲酒ライフの始まりだった。で、最初に聞いたのは凡そフィリピン人らしからぬ中国人名としか思えないワンユーつー名前の由来。ワンちゃんは答えた。「僕の本名はアンジェロ。僕が生まれたとき流行っていたカンフーTVドラマの主人公の名がワンユー、お爺さんがそれをニックネームとして付けてくれたんだ。」なーんだそうだったのか、ちょっと期待外れだった。

ではここでワンちゃんの簡単なプロフィールを紹介しよう。

本名:アンジェロ

ニックネーム:ワンユー

年齢:29

出身:ダバオ

職業:理容師

好きな食べ物:シーフード

好きなミュージシャン:ジミーペイジ、ボブマーレー、メタリカ、ウルフギャング

性癖:ノーマルだけど早撃ちマック

宗教:元モルモン教徒、現在はただのクリスチャン

ついでにプリンスの簡単なプロフィールも紹介しておこう。

ニックネーム:プリンス

別名:ナメプリ

年齢:50

出身:静岡県

職業:無職

好きな食べ物:カレー

好きなアーティスト:スクリッティポリッティ、ナムジュンパイク

性癖:ノーマルだけどブロッチャー(訳禁止)好きなんでナメプリ

宗教:特になし

こうしてワンちゃんとプリンスはマカロニ・バー或いは床屋2階の宴会場で酒を酌み交わしながら親交を深めていった。ワンちゃんは今でもそうだけど軽いホームシックで美しい自然のある故郷ダバオの話をよくする。彼の父親はツナ工場で働くワーカー、母親は酒好きの胃ガンで他界した。貧しい家庭に生まれた彼は夜間のハイスクールに通いながら昼間は床屋で働いた。そして将来、自分のお店を持つこと夢見てダバオの床屋を転々とし、グピット(散髪)の修行をした。しかしながら酒好きの母親の血を引いているせいなのか遊びが高じて無一文になり、一念発起して3年前マニラへ向かった。そこでまた床屋を転々としてワンちゃんと出会う10日前に叔母さんの床屋へやってきた。彼は田舎者にみられる内気で純朴な性格。叔母さんのお店では人気者なのだ。

 

酔っ払って床屋の床で椅子を股に挟み熟睡するの図。

マニラの片岡鶴太郎、ワンちゃんを廻るエピソードは数限りなくあれど、なかでも悲しい話を記しておこう。

それはある日のことだった。ワンちゃんの仕事仲間で顔のきたないバクラ(オカマ)のディンプルが去年のクリスマスを前に突然エスケープした。続いてやって来たのが43歳になる土人バクラのジャマイカ。このジャマイカとジャマイカの愛人バクラ、ワンちゃん、プリンスの4人は初対面の挨拶を兼ねて床屋2階の宴会場で酒を酌み交わした。ほどよく酔いが回ると愛人バクラはプリンスの背中を触りながらワンちゃんに恋人はいるのかと尋ねる。ワンちゃんがいないと答えるや2人はヒソヒソ話を始めた。そして今からワンちゃんが嘗て住んでいたバクラランつーところに行くという。聞けばそこに1発P300(600円)でヤラせる愛人バクラの友達がいるそうで、ホテル代込みでP500(1000円)。プリンスは虚しいからヤメとけとアドバイスしたが酔っ払ったワンちゃんは抑制が効かず、愛人バクラに連れられてバクラランへと向かうのであった。

それから待つこと1時間半、ワンちゃんは1人で帰ってきた。そして、「プリちゃん、僕は恋人と別れ、マニラに来てから3年間、ズーとバテバテ(センズリの意)をしていた。だからどうしてもソクソク(SEXの意)がしたかった。でもソクソクはスグに終わった。早いんだ僕は。お金を払うときとても嫌な思いをした。」そう言うと1人で黙々と酒を飲みそのままソファで寝てしまった。あーそうか、お金のないダバオの素朴な田舎者なんてマニラの女の子は相手にしないんだ、かわいそうだなーと思いつつ、予想通りの展開に正直笑えた。それにしてもワンちゃんはどんなネタでバテバテするのかな、これはまだ聞いていない。楽しみは残しておくものだ。

そうそうこんなこともあった。いつものようにマカロニ・バーで飲んでいると、その日のワンちゃんは泥酔した。普段、内気なヤツが酔っ払うと酒の力を借りて強気になるのはよくあることで、ワンちゃんもこのタイプ。ナニを思ったの突如としてマカロニを口説き始めたのだ。マカロニの彼氏が横にいるのにもかかわらず。最初、デートをしてくれから始まり、最後は、トマターヨ(ボッキした)、お願いだから1発ヤラしてくれ。ワンちゃんの豹変にニヤニヤ笑っていたマカロニもさすがに嫌よつーとワンちゃんはゲロを吐いた。おいおい、酔っていながらもマジだったのか。翌日、二日酔いのワンちゃんは言った。「プリちゃん、もう恥ずかしくてマカロニ・バーへは行けない。」、実際、口説き事件があってからワンちゃんは1ヶ月近くマカロニ・バーで飲むことはなかった。ワンちゃんは女にモテないタイプらしく他にもいろいろな話があるけどそれはまた機会を改めて。

最後に、ワンちゃんに教えたニホンゴで才能豊かな彼はある曲の替え歌を作った。

「アナタノー クリト○ス~ オイシイナ~ タベタイナ~♪」

今日もワンちゃんは替え歌を口ずさみならが散髪の仕事をするのだった。ではまた。