朝、ベッドの横に置いてある携帯電話が鳴って目が覚めた。
電話に出るとしゃがれた男の声がした。
「もしもし、あのー、こちら警視庁生活安全課の××です」
「その携帯はS容疑者のモノですからすぐに近くの交番へ届けて下さい」
目を擦って携帯電話を見ると自分のモノではなかった。
するとまた鳴った。
やつれた女の声だった。
「クスリが欲しいの、早く持ってきて」
そう言って電話が切れた。
なにがどうなっているのかサッパリわからない。
気味が悪くなってすぐさま近くの交番へ行き、それを拾得物として届けた。
応対したのは愛想のいい若いお巡りさんだった。
携帯電話を手渡すと若いお巡りさんはピッピッピと操作して
「この携帯の自局番号は090-****-****、あなたのモノでしょう」
「えっ、まさか」
確かに自分の番号だからびっくりした。
さらに携帯電話をよく見ると紛れもなく自分のモノだった。
「変な日ですねぇ、今朝からあなたで5人目ですよ、同じことが」
薄ら笑いを浮かべる若いお巡りさんから携帯を返してもらい交番を出た。
狐につままれたようだった。
そして今度はメールを着信した。
見れば妻からだった。
「ハヤク カエッテ キテ」
嫌な予感がして大急ぎで自宅に戻った。
しかし、予感は外れてホッとした。
穏やかな朝の光が食卓に射し込んでいた。
何事もなかったかのように妻と朝食を食べながら奇妙な出来事を反芻していた。