水の門

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歌集『カインの祈り』

澤本佳歩歌集『カインの祈り』
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短歌のあり方をめぐって

2015年06月01日 13時14分15秒 | 持病に寄せて
猫の短歌からちょっと離れますが、以前こんな歌を作ったんです。

  心病む人が取り沙汰されていて社適の事務所に身を硬くする

それを障害者文化展に出すために、作業所にボランティアでいらしている国語の先生(元中学教師)に見ていただいたんです。
そしたら、(1)他の歌(五首出していました)に比べて弱い印象、(2)心を病んでいる、というのが自分なのか、他の人なのか見えてこない、(3)社適とは何か全然分からない、という指摘をもらいました。

ある人のことが社会適応訓練の事務所で噂されている という状況を具体的に描けば、噂されている人も傷つけるし、噂している当人にも気まずい思いをさせかねません。(「障害者に差別的な発言を、障害者を雇っている事務所で滔々と述べていた、無神経極まりない人」が暴露されてしまうわけですから。)

それで、散々迷いつつも先生のご意見を踏まえて、

  心病む人への誹(そし)り聞き流すことも適応訓練のうち

という短歌に変えてみました。他の四首のうち先生の評価が芳しくなかったものは、やはりもっと具体的になるよう推敲しました。
そしたら、先生は私の家に電話をかけていらして、こういう短歌を作り続けていていいの?と尋ねてきました。短歌どうこうもさることながら、差別されたことに目くじらを立てて生きるより、健常者と歩み寄っていくべきではないのかという、生き方についての問いかけでした。

それで、さらに私は歌を作り直そうとして、二首ほど新たに詠んだんですが、何かスローガンのような、行儀が良くてインパクトが薄い歌しかできなくなってしまいました。
初稿の五首連作を結社の先輩にも併行して見せてあったので、後日 三稿目も見せて意見を求めると、「初稿の方が心の叫びが出ていて、訴えるものがあり、あなたらしい」とおっしゃいました。
私は結局、国語の先生に手紙を書いて、失礼とは承知しつつも初稿を通しました。

つまり、理路整然と明確に詠い過ぎない方が良いシチュエーションもあるわけです。そういう込み入った状況を詠まないくらいに人間が出来上がっていた方がいいのかもしれないですけど…。実際には、生活や人間関係の中で感じた葛藤を詠まずにいられない、そうして初めて昇華(消化)できるということも多いです。

長くなりました。どうも失礼しました。


*2012年6月6日 某掲示板にupしたものの転載。
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