水の門

体内をながれるもの。ことば。音楽。飲みもの。スピリット。

歌集『カインの祈り』

澤本佳歩歌集『カインの祈り』
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#hitsujitanka

2014年09月30日 12時03分16秒 | 言葉に寄せて
来年の年賀状を考える頃になりました。母のはサクッと仕上げたのですけれど、私の方は図案は考えてありますが肝心の自作の《羊短歌》が納得いくものができていません。
Twitterで昨年の正月から「羊」「未」にまつわる歌をメモってあったのを、覚え書きとしてこちらにも掲載しておきます。


・夏が来る頃にはここを去つてゐる 未来完了で関はる職場/澤村斉美
・未知の未はつねに危ふくサンクトペテルブルグより雑誌「時代(ヴレーミヤ)」は出た/阪森郁代
・ビルを描かれたカードは再び配られて未だルールを知らされぬまま/中島裕介
・肩車に乗りて悟りぬ小柄なる父の背のひつじ雲に届くを/日置俊次
・未来とも過去とも見えてこの夕べ辻ごとに立つ喪章の男/高野公彦

・私が羊歯だったころ降っていた雨かも知れぬ今日降る雨は/柳澤桂子
・雨ふりてこの世はふかき水宇宙未生以前の四肢ひろげ臥す/玉井清弘
・歌舞伎町未明の火事あり見罷れるあまたの人のゆく秋の空/稲葉峯子
・青りんごはあの羊雲が過ぎるまであをいままです……そう、あと百年/日置俊次
・南より北に広がるひつじらのすきますきまに空の青の子/伊藤一彦

・言問はぬ冬田の上にひつじ雲また言問はずひろがりゐたり/伊藤一彦
・羊歯群の羊歯は切れ込みするどくて葉間(あひ)より間なく闇を産みゐる/真鍋美恵子
・作図して鶴亀算のひらめきは子のものいまだ世の中知らず/今野寿美
・赤らひく肌もふれつゝ河郎のいもせはいまだ眠りてをらむ/芥川龍之介
・ひつじぐさ咲くひるさがりたゆたへる夢とうつつとうつつと夢と/今野寿美

・身のほどを知るとは言へず大いなる会津身不知柿(あひづみしらず)いまだも知らず/今野寿美
・緬羊のやうな雲ゐる午下がりわれがわれなることの不可思議/小島ゆかり
・一日が短くなったと語りかけるのにはやはり歯朶類がいいな/高瀬一誌
・羊羹にぬつと刃を入れとりあへずまだ大丈夫なにかわからねど/小島ゆかり
・わが内のダフニスが山羊連れて出て部屋にのこされたる陽の埃(ほこり)/寺山修司

・鉄道が大きな境われとわが山羊と駈けいし青春の日の/寺山修司
・プールよりもどりて眠る子らのうへ未(ひつじ)の刻のひつじ雲をり/小島ゆかり
・麦の穂に光ながれてたゆたへば向うに山羊は啼きそめにけれ/斎藤茂吉
・さみどりの唯我論あり 羊歯類がからかふやうに胞子を飛ばす/田村元
・ベビーカーを押せる娘とゆくみちの空にほどける羊のむれは/紺野裕子

・追い込んで私が何かに届くなら散った羊を集めにかかろう/永田紅
・キャンパスの北のはしっこ道の果ていつもねむたい目の羊たち/永田紅
・思い出は羊のように群れなして道を塞いで動きてゆきぬ/永田紅
・この部屋を出ると世界はおそろしく羊歯のさみどり見つめるばかり/岸原さや
・銀色の釘さえ甘く匂いたつ羊歯の線画を壁に架ければ/岸原さや

・句読点の入力未だ覚えない父のメールはつるんとしてる/柴田瞳
・とざす鍵濡れて夜ごとに降る梅雨の野に青々し鬼羊歯の葉に/近藤芳美
・いつ過ぎし雨か鬼羊歯の門濡れて見て佇つたちまちに妻なきかげか/近藤芳美
・一九四九年夏世界の黄昏れに一ぴきの白い山羊が揺れている/浜田到
・ラウンジは昼の灯連ねぽつぽつとせせらぎ小路に未草咲く/伊藤淑子

・ひつじぐさ可憐に咲けばあまがへる見とれゐるらむ葉を立ち去らず/丹下美雪
・踏み入れば羊歯群深くそよめきて半夏の山に木洩れ日しげし/中山博
・鳳凰樹、羊蹄甲また風鈴花(ふうれいくわ) 花の匂ひに満ちゐる台湾/佐藤静子
・先輩の肩越しに日が暮れてゆく(夕焼けは羊飼いの喜び)/柴田瞳
・水仙と羊とジュークボックスに癒されてぼくがゐなくなる午後/荻原浩幸

・泣き面に仔山羊のひづめ ほろほろと春の野山を帰りゆくなり/石川美南
・空つぽの水筒持ちてみづうみに沈める羊雲盗りに行く/石川美南
・羊歯を知らぬ学生に羊歯を教へつつわが脳天を点つ雨滴音/小島ゆかり
・あとがきのように寂しいひつじ雲見上げてきみのそばにいる夏/大森静佳
・たいせつに飾ってあった五行詩を喰いたる山羊が見る月の夢/本川克幸

・山羊の毛のチークブラシが頬骨をNIKEのロゴの形に滑る/柴田瞳
・土佐の羊歯信濃の羊歯のひとときに萌えたる庭を見らくしたのし/木俣修
・獅子の肝(かん) 山羊の胆(たん)などもちたらば楽しかるらむ心(しん)は如何にせむ/内藤明
・目覚めぎは僕はひとつの約束を胸に浮かべたまま山羊となる/山田航
・星の灯を束ねる羊飼いのよう病の母のことばをつなぐ/高橋徹平

・羊のやうにありたる過去よわれもまた種痘(しゅとう)の痕を腕に遺して/杜澤光一郎
・ほどかれて羊の雲に浮かぶ身は大き欠伸をひとつなしたり/内藤明
・うちにある大きなものは父さんのふくれた腹と山羊のおっぱい/永井隆
・白バイがするする通るわた雲かひつじ雲かをあらそう横を/伴風花
・わが子とは感性でこそつながれとかく青ぐらく羊歯は繁りぬ/松野広美

・頼まれて友の耳翼に刺すピアス煉羊羹の手応へありぬ/桑原亮子
・たんぽぽの花に目線を合わせんとしゃがみこむとき傾く羊水/鶴田伊津
・羊歯の葉をグライダーにして飛ばしたね熊野の土の匂いの中で/鶴田伊津
・うんめいとウンメイと啼き羊らがぞろぞろぞろと羊舎に戻る/おのでらゆきお
・ゆるされて、あなたは皿の仔羊の肉によりそふ香草である/魚村晋太郎

・蝦夷松の林に咲ける雪花は羊蹄山の裾野のもよう/長住百合子
・草の道行けばたまさか出会うもの羚羊 山鳥 瓜坊の列/木島泉
・さくらばな空に極まる一瞬を児に羊水の海くらかりき/小池光
・糸満の家(や)むらに来れば、人はなし。家五つありて、山羊一つなけり/釈迢空
・走らない羚羊(かもしか)と猟をせぬ男わかり合いつつ目を外らすなり/佐佐木幸綱

・異国より届きし絵本ふわふわのぴんくのひつじ指に触れゆく/江戸雪
・彼女らはみんな乳癌患者といふ患者山羊ならず羊にもあらず/河野裕子
・羊雲群れをくづさず尖塔を空にのこして西へ移りぬ/横山未来子
・羊らはやさしき顔を並べをり大工ヨセフの庭の柵のうへ/横山未来子
・靴下をはいて眠るに羊水に包まれた猫の夢をまた見る/花輪成美

・穭田(ひつじだ)に座り込みたる猿の群れ穂を抜き食みて腹を充たせり/篠原俊子
・現はれし家の向かうの山肌に一番星否しろき山羊をり/本多稜
・羊歯の葉をわけてなぞればRegent Streetなり塹壕(トーチカ)の名は/本多稜
・羊膜の幾つかはまだ紅くしてひそとアシカのハーレムに入る/本多稜
・牧地消え針葉樹消え巨大なる羊歯のたぐひの目に付きはじむ/本多稜

・冬の羊歯に尾のさきふれてねずみの子あしたの庭に死にてをりけり/小池光
・ひつじぐも広がる空よ このたびも平常心に在ること大事/恒成美代子
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