京大植物園TODAY

京都市左京区の京都大学北部キャンパス内にひっそり佇む現代の杜、京都大学理学研究科附属植物園の日々の風景を紹介します。

「キャンパス・ミュージアム=campus museum.」構想(名古屋大学)。

2006年07月24日 22時35分29秒 | Weblog
以下、足立守名古屋大学博物館長(当時)による「あとがき」(「名古屋大学野外観察園の生物」所収)より引用。

『…名古屋大学東山キャンパスは約70万㎡の面積をもち、八事層・唐山層と呼ばれる粘土層や礫層の上にアベマキや松を中心とする植生が特徴的な東山丘陵の一角を占めています。キャンパス内には八事層の粘土を松の薪で焼いて須恵器を製造した窯跡のほか、大学に寄付された建物、記念碑、記念樹などが点在しています。これらをキャンパスの自然史あるいは大学の歴史的要素と位置づけ、実験圃場や地下鉄名古屋大学駅近くに建設予定の博物館新館と有機的にリンクさせ、さらにキャンパス東部の雑木林の中に歩行者専用の“思索の道”なども設置して、東山キャンパス全体を一つの魅力ある空間(キャンパス・ミュージアム=campus museumと仮称)として整備できないかと考えています。こうした構想が実現すれば、実験圃場はキャンパス・ミュージアムの中核施設の一つになり、魅力的で個性あるキャンパスに一歩近づくことができると思います。』(同書 p.79)

『博物館では平成15年度から博物館専任教官による学芸員資格取得に必要な「博物館実習」を開講します。この「博物館実習」の一環として、また博物館の地域連携事業として行う地元の中学生や高校生向けの野外観察会などに、圃場を有効活用する計画が立てられています。こうした野外実習や観察会を企画するのは、自然離れや“モノ”離れの著しい若者への「自然や“モノ”を見て考えることができる教育」が急務と考えるからです。昨今はヴァーチャルばやりですが、本物にまさるヴァーチャルはごくまれです。若者の理科離れや自然離れが進んでいる時代だからこそ、人間の五感をフルに発揮させて、本物(“モノ”)から何かを感じとり感性を磨くという次世代教育がとくに大事になります。これまでの大学では欠けていた「自然や“モノ”を見て考える教育」を野外で行う場所の一つが実験圃場になると思います。…』(同書 pp.79-80)

注: 現在では、「実験圃場」は、名古屋大学博物館野外観察園として運営管理され、この4月から一般公開されているそうです。

『名古屋大学野外観察園の生物』(名古屋大学博物館インフォメーションシリーズNo.1)

2006年07月24日 20時15分58秒 | Weblog
名古屋大学博物館から発行されている、『名古屋大学野外観察園の生物』(吉野奈津子・手塚修文著; 2003年3月名古屋大学博物館発行; 80pp.)という冊子を頂きました。

名古屋大学博物館には、約4000㎡と面積が小さいながら(京大植物園は、約20000㎡)、情報文化学部・人間情報学研究科から運営管理が移転された、「実験圃場」の森があるそうです。冊子には、生息する植物・昆虫・鳥類のリストが載っています。

(以下、同書第1章「情報文化学部・人間情報学研究科の実験圃場の歴史」より引用・抜粋)

『実験圃場は、圃場部分(2236㎡)と体育館南側の部分(1461㎡)に分かれており、合計3697㎡に及ぶ。体育館南側の敷地は、20数年前までは瓦礫が堆積し、草も生育しない区画と、セイタカアワダチソウ、クズ等が足を踏み入れるのをためらうほど密生した区画からなる荒地であった。そのため、時に付近の住民から苦情が出ることもあったが、松原輝男教授、広木詔三教授らが本部などの了解の下で種々の樹木の苗を植え込んだ結果、現在では多様な草本類を林床に伴う「雑木林」が発達している。特に西端の区域はブナ科樹木の見本林の景観を呈している。一時は圃場の木を伐採する計画もあったが、これも、当時の教養部生物学教室の先生方の働きにより抑えられ、現在に至っている。』(同書、p.4)
 
『当圃場では、よほどの害虫の大発生が予測されるとき以外は農薬の散布は控えることを方針としている。また圃場内の落ち葉、刈り草を積み込んで腐葉土や堆肥を作製し、それを再び土中に戻すことで土壌の改良及び有機化も図っている。その結果、多種多様な微生物や昆虫をはじめとする種々の無脊椎動物が生育できる環境が出来上がり、一つの生態系として成り立っている。よって現在では病気や害虫が発生したときでもそれほどの被害には及ばない。圃場内では毎年コウジタケ(Boletus fraternus)、アミガサタケ(Morchella esculenta)、キクラゲ(Auricularia curicula)、コガサタケ(Conocybe tenera)、キコガサタケ(Conocybe lactea)、ハタケキノコ(Agrocybe semiorbicularis)等のキノコの発生が見られるが、これもキノコが生育するのに最適な、安定した環境が作り上げられているために他ならない。リストに示したような鳥類も飛来し、運ばれた種子が発芽、成長して圃場は二次林として独自の発達をはじめつつある。』(同書p.4-5)