Beyond Sports

スポーツと広報・PRに関わる記事を書いていきます

更に進化していた

2017-01-16 18:00:00 | スポーツマネジメントを掘り下げる

久々です。

年末年始の長期休暇を利用して、アメリカのサンフランシスコに行ってきました。留学から帰国して以来、実に4年半ぶりにアメリカを体験してきました。

スポーツPRの分野の仕事における貴重な参考として、サンフランシスコ周辺には是非とも今、見ておきたいチームや施設があったので、思い切って投資しました。シーズンとしてMLBはやっていませんが、NBA、NFL、NHLと3種類が見られるのも、よいタイミングです。4試合を見て、それぞれの現場で多くの発見がありましたが、ここでは全体として、4年半前と比べて、アメリカのプロスポーツのどの辺りが変化していると感じたのかを書き留めておきます。

 

最初に一言で言ってしまうと、「総合エンターテインメントとして、進化している」ということになります。

スタジアムやアリーナを訪れることは、テレビでは味わえない、五感を刺激するエンターテインメント体験です。そのすべての面で、さらなる投資を進め、さらに楽しめるようになっていました。

<視覚>

スクリーンの大型化。あと、明らかに数が増えています。テクノロジーの進化で、大きなスクリーンでも鮮明に映ります。

ただし、そこで行われていることに、大きな変化はありません。観客の反応を映すことでは、相変わらず、キスカム(映されたカップルはキスをする)、ダンスパフォーマンスコンテスト(子供や老人だと盛り上がる)などでした。もちろん、リプレーなど、試合に関するものもあります。以前と少し違うかもしれないのは、インプレー中は、試合のライブ映像が映しっぱなしで、フィールド上(コート上)ではなく、スクリーンで見て楽しんでいる人も少なからずいるということです。テレビ中継で慣れ親しんだ形の映像が、スタジアム(アリーナ)に来て、超大画面で楽しめるということです。

また、通路にも薄型スクリーンがそこかしこにあって、試合を見られるようにしているだけでなく、広告を出したりしています。また、新しいアリーナだとフードコーナーのメニューや価格の表示も全部スクリーンを使っています。加えて、観客の多くはスマホを持っているわけで、チームやアリーナ専用アプリで、見どころを読んだり、前日の監督インタビューを見たりできるほか、食事のオーダーを出して、席まで持ってきてくれるというサービスがあったりもしました。

 

<聴覚>

スタジアムDJが当たり前の存在になっていました。日本のスタジアムにいるような、どちらかというとMCのような役割を果たしている人ではなく、曲を選ぶことで会場の雰囲気をつくる本物のDJです。全体が見渡せるような場所にブースがあり、機材一式の前に立って、観客を盛り上げます。試合前には、DJを紹介する時間があって、スクラッチなどのテクニックを披露したりしています。

僕は音楽に明るい人間ではありませんが、それでもわかる以前との違いを言うと、その時に流行している曲をただ流しているだけではなくなった、ということです。留学中には何度も観戦旅行に出かけましたが、数日間に複数の会場に行くと、何度もかかる曲というのがあって、流行曲がすぐにわかりました。しかし、今回はちょっとわからなかったです。DJが専門知識や空気を感じ取るセンスを武器に、その日にちなんだ曲や観客のノリを見て変化させているのだと思います。バスケットボールだと、ホームチームがボールを持っている間は、ボリューム低めで音楽をかけることもありました。「ディー、フェンス」など昔からある掛け声を促すのも、使っている音が洗練されたものになっていました。

つまり、スポーツの現場なのに、クラブ並み、音楽専門並みの環境をつくっているということです。しかも、新しいスタジアムやアリーナはコンサート会場としても使われることを前提に、音響設備も新しいものを使っていて、質が高いです。

 

<嗅覚、味覚>

食べ物のチョイスが、劇的に増えています。留学当時だと、スタジアムで食べられるものと言えば、ハンバーガー、ホットドック、ポップコーン、ナチョス、フライドチキン、アイスクリーム、以上、という感じでした。まれにシーフードなどもありました。当時のことでよく覚えているのは、MLBニューヨークメッツの新球場にシェイクシャック(東京にも支店が出たおいしいハンバーガー屋さん)などが出店した、というのがスポーツマネジメント業界では大きな変化として捕えられていたことです。

今回見かけたのは、インド(タンドリーチキンなど)、韓国(プルコギ丼みたいな)、ドイツ(ソーセージパン的な)、英国パブ(フィッシュアンドチップスとビール)、ギリシャ(ピタパン的な)、それからビーガン(純粋菜食主義者向け)もありました。しかも、それらの分野の地元の人気店と見られる店がテナントに入っていたりもしました。ただし、今回行ったのは比較的新しい施設が多かったこと、また、サンフランシスコ周辺はIT業界でインド出身者が増えているなど移民が多い地理的な事情もあるかもしれません。ちなみに、値段も上がっています。素のハンバーガーで8ドルとか、上記のような珍しいものだと12~15ドルはしました。

 

五感の一つの触覚は、はっきりした変化はわかりませんでした。とは言え、食べ物の楽しみも増え、プレーが止まれば、すかさず映像や音楽で楽しませるというスポーツ以外の要素がてんこ盛りになっています。スポーツを、ホームチームをちゃんとまじめに見て下さい、と強調する方向ではなく、総合エンターテインメントとして会場での体験全体を楽しんで下さい、という方向に移ってきているというのが僕の印象です。 


障がい者スポーツを盛り上げる次の一手は?

2016-05-29 19:49:02 | スポーツマネジメントを掘り下げる

実に、2年ぶりのブログ投稿です。書いて記録に残さずにはいられなかったので。

2020年東京パラリンピックに向け、障がい者スポーツ関係のイベントを目にする機会が急増しています。

そんな流れの中で、僕も先週の「ジャパンパラ ウィルチェアーラグビー競技大会」と今週の「BNPパリバ ワールドチームカップ 車いすテニス世界国別選手権」の会場に行ってきました。その体験を通じて思いついた、障がい者スポーツを盛り上げる次の一手について書きます。

どちらの会場でも、目立ったのは2点。スポンサー企業が増えたことと、報道陣の多さです。

ウィルチェアラグビーの会場は「ジャパンパラ」というくくりにもスポンサーがついているため、こんな感じでした。

また、スポンサーシップアクテイベーションの一環だと思われますが、スポンサー企業の社員やその家族と見られる方々が集団観戦する姿もありました。車いすテニスの会場でも、保険会社と航空会社の方が、それぞれ揃いの格好で一角を占めていました。

それから、報道陣も30人くらいはいました。大きくはありませんが、新聞に記事が出たり、ニュースのスポーツコーナーで流されたりするのは当たり前になったと言えます。大手メディアにはここ数年で「障がい者スポーツ担当記者」というのが設けられました。また、以前から地道に障がい者スポーツを取り上げてきた専門メディアもあります。報道量の多さで、関心を持ち、会場に足を運んだ人は少なくないでしょう。


会場に集まる人たちは増えています。そこまではできつつあります。

この流れの中で、盛り上げるための次の一手とは、「観戦体験を楽しくする」ことだと僕は考えます。

メディアからつくられた人の流れの受け皿となるのが、競技会場であります。所謂リピーターを増やし、競技をもう少し深く知ってもらうこと、また、そんな人たちに口コミでさらに広めてもらうことが、競技を支える部分をしっかりすることにつながります。

では、どうするのか。3点あります。

(1)素人質問OKの環境づくり

競技を知ってもらおうと、会場では競技のルールや選手などを簡単に紹介したリーフレットが配布されています。また、ウィルチェアラグビーでは、場内放送でアナウンサーと解説者のやり取りが終始流されていて、初心者にもわかりやすく伝えようと努力していました。これらに加えるとすれば、競技を見ている人が思う「え、今の何?」というような質問にリアルタイムで答えてあげることでしょう。方法としては、ツイッターを使うこと。それから、正統派の実況・解説ではなく、副音声的なゆるい実況・解説を行うことが考えられます。場内FMラジオを使えば、競技進行のじゃまになりません。どの競技にも、話の分かりやすい人は一人くらいはいるものです。

(2)応援マナーをさらりと教える

車いすテニスに限らず、テニス観戦のマナーとして特徴的ものが2つあります。①スタンド内を移動するのは、選手がベンチにいる時(チェンジエンドの時など)に限る②選手がサーブの準備に入ったら、静かにする、です。テニス関係者にはごく当たり前のことすぎて、わざわざリーフレット等に書いていないんです。でも、初心者からすれば驚きですし、選手と観客の良好な関係づくりにも大事なことですので、徹底したいところです。日本人は特に、迷惑を掛けないというのに敏感ですから。

(3)応援している人たちに一体感をつくる

僕もウィルチェアラグビーは今回初めて生で見たのですが、点が入った時にパチパチと手を叩くだけで、応援体験そのものがちょっと楽しくなかったです。もっと盛り上がれる動きがあって、「また、やりたいな。あれ」というふうになれば、再び会場に足を運んでもらえる確率は上がるはず。車いすテニスの方は、テニスの団体戦の応援スタイルをリードする一団がスタンドの一角にいて、「ニッポン、チャチャチャ」のような比較的なじみのあるものを一緒にするよう促していました。そういう応援の型をつくると、参加している気持ちになりますし、一体感の醸成には大事です。もっと簡単なことだと、「日本代表を応援するので、赤い服を着て会場に来てください」でもいいと思います。一体感を味わうことがいかに大切かについては、過去にこのブログの記事の「フットボール初心者向け観戦会を開く(2)」で、しっかり書いていますので、そちらもご参照ください。

これらの考えをまとめていた時に、ふと友達から関連する話題が入ってきました。「ほぼ日刊イトイ新聞」という有名サイトのスポーツ観戦企画です。昨日、5月28日に「ものすごく気軽にラグビーを観にいこう」というのが実施されたようで、詳細はこちらです。言葉遣いやサイトのつくりからして、すごく初心者フレンドリーで、いいですよね。

 

あと一つ、障がい者スポーツに関心を持つ流れについて、気づいたことを補足します。僕はこれまで、テニス好き→車いすテニスに関心、というような流れかと思い込んでいたのですが、現場を見た限り、これ少数派かもしれません。一つの障がい者スポーツに関心→他の障がい者スポーツにも、という流れの方がより大きいようです。もし、前者なら上記(2)のようなことは必要ないはずですが、実際はそうではなかったので。

2020年東京オリンピック・パラリンピックが決まって、役所→企業→メディアの順番で変化が進んできている印象を持っています。次は、専門家や仕事で携わっているわけではない、一般の人の変化というフェーズに来ていると見ています。観戦が楽しかったという人が増えてくれば、障がい者スポーツ、そして障がい者への距離感が変わってくるはず。それは、パラリンピック後の大きなレガシーになること間違いありません。


スポーツ業界も垂直統合するのか。

2014-05-28 17:55:50 | スポーツマネジメントを掘り下げる

仕事柄、広報やPRが上手な会社というは、気になるものです。最近は広告費をどれだけかけるか、ではなく、広報力の巧拙がヒットするかどうかを左右するそうです。日経ヒット商品番付を見るとそれが如実に現れているとか。

 

広報力が気になる会社の一つに、地鶏などを提供する居酒屋「塚田農場」などを経営するAPカンパニーがあります。社長の存在感や芯の通ったメッセージ、農家の方の表情、店舗でのお客さんの喜ばせ方、総合力が高く、すごく伝わっているなと感じます。やっていることそのものがユニークという強みもあります。

その社長が「6次産業」というキーワードを必ず使っています。1次(農業)+2次(加工業)+3次(サービス業)で、6次です。原材料の供給から、生産加工、そして販売までを自社で手がけている。卸売りのような中間業者を省くことで値段も下がり、利益が還元されやすい。供給をコントロールしやすい、販売の現場で得た情報を反映して対応しやすいなどのメリットがあります。川上から川下までを押さえるのは、ビジネス界の流れとして定着した感があります。他にもユニクロもそうですし、商社も垂直統合のビジネスを手がけています。

 

スポーツをそんなのと一緒にするなと言われるかもしれませんが、スポーツ界でも才能を発掘し、育て、プロとしてお客さんの前に出すという一連の流れがあります。それが一貫して行われる仕組みが発展していくのではないか、というのが僕の見方です。

代表的なのは、サッカー界です。クラブチームは、子どもや中高生の年代のチームを持ち、才能を発掘して、ふるいにかけながら、育てていきます。最終的にはトップチームに上がります。トップチームの試合運営というのは、サービス業そのものです。

また、スポーツ界には、マネジメント会社というのがありますが、関わっている人たちに聞くと、そんなに儲かる商売ではないそうです。一つ仕事を取ってきてもマージンによる収入は限られ、チームの取り分というのが結構あったりします。有名選手ほど、試合のスケジュールが過密になり、なかなか儲かりそうな仕事を入れる日取りがないとか。かと言って商売に時間を割いて、プレーのパフォーマンスが落ちては商品価値はがた落ちになってしまい、本末転倒です。

そうすると、儲けたいマネジメント会社はどうするか? 自分たちで発掘して育てることと、選手を見せて稼ぐ場である大会の両方に手を広げていきます。垂直統合です。これをやっているのが、世界最大のスポーツマネジメント会社IMGです。日本人では、テニスで今話題の錦織圭選手らが所属しています。

IMGはテニスやゴルフの選手を育てるアカデミーを自前で持ち、世界中から集めた選手をふるいにかけて、才能ある一部の選手を育てています。これは、というトップ選手はもちろん、IMGの所属選手になって、大会の賞金やスポンサー契約でがんがん稼ぎます。と同時に、IMGは経営に深く関わっているテニスなどの大会をいくつか持っています。自分たちの所属選手を出すことで、大会の価値を高め、入場料や放送権料、大会スポンサー料などの収入を上げます。他が主催する大会の場合は持っていかれていた分が、自前の大会ならすべて自分たちの手元に残るわけです。IMGと契約している有名選手の出る出ないが大会の価値を大きく左右するわけですから、それで儲かった分を自分たちのものにするのはビジネスとしてまっとうな感覚です。

日本だと、大相撲は発掘、育成、興行まですべて自前で行う垂直統合型(今は強豪大学から入る人も多くいますが)。 野球は完全分業制と言えるでしょう。五輪を目指す所謂アマチュア競技では、ほとんどの場合、発掘と育成の仕組みはできていますが、その投資を回収するはずの場である日本代表チームの価値を高めるとか、大会の経営という点には力を入れていないため、全然儲かっていません。

スポーツ業界はだいたいの場合、他の業界に遅れを取っています。他の業界で当たり前になっていることを自分たちでもやってみる思い切りのよさ、変革の意欲があるのかが問われますね。


自らを併催イベントにする

2014-05-14 18:21:07 | スポーツマネジメントを掘り下げる

先日、東京の代々木第一体育館で行われた卓球の世界選手権団体戦を見に行きました。

さすがゴールデンウィーク。原宿駅の改札を出るのにも行列ができており、人流れは世界卓球の会場にも向かっていました。近くの歩道橋を渡るにも混雑しており、「卓球の人気もここまで来たか」と感心していましたが、それを味わえたのはほんの数十秒。すぐに気がつきました。人が集まっているのは、代々木第一体育館ではなく、その周辺のスペースじゃないですか。

開局50周年記念「テレビ東京フェスティバル」が大いに人を集めていたのです! 

ぐるっと一回りすると、ナルトやポケモンなど、大人気のキャラクターものがあったり、「モヤさま」など人気番組のコーナーがあったり、オリジナルグッズが売っていたり、グルメコーナーも充実。巨大な看板など、写真を撮るのにバッチリというコーナーもいくつか設けられていて、全体的にイベントでお金を稼ぐ基本をきっちり押さえたつくりで、非常に納得しました。公式ツイッターでの発表によると、動員は、8日間で10万人を超えたとか。

このイベントは、ふらりと行って入ることはできません。前日までにインターネットから無料のチケットをダウンロードするか、世界卓球のその日のチケットを持っている人だけが入れます。この少々手間がかかる状況で、1日平均1万人を超える動員だった点には注目すべきです。

ちなみに、世界卓球の観客数は報道によると、同じ8日間で4万2000人。スタンドの半分くらいを関係者席が占めており、チケット販売数に限りがあることは考慮しなければなりません。しかし、卓球だけ見てテレ東のイベントは見ない、という人と、その逆を想像すると、後者の方が多そうで、動員力ではテレビ東京のイベントが勝っていたのではないかと思います。

つまり、世界卓球は「テレビ東京フェスティバル」の併催イベントだったと見ることができます。

 

全国ネットではないとは言え、ゴールデンタイムで視聴率10%近くを取れるスポーツコンテンツでも、自らを併催イベントとして観客動員を図っている。

この現実は直視しなければなりません。

僕が携わっているブラインドサッカーのような弱小スポーツでは、自らを併催イベントと位置づけることはちょくちょくやっています。例えば、フットサルの大会や少年サッカー教室を試合会場に隣接するフィールドで行ってもらい、集客します。選手や親らフットサルやサッカーをわかっている人に新競技を知ってもらおうという狙いもあります。以前から、他のスポーツでもこういうのをやったらいいのに、と思っていたのですが、それがまさか、世界卓球クラスの大会で行われるとは想像していませんでした。

僕としては、アメリカで見てきたスーパーボウルとその併催イベントのような(その時のブログ記事「本物には力がある」)ものを日本でもつくりたいな、という思いがあります。超パワフルなスポーツコンテンツがどーんと真ん中に座っていて、他の分野のものが小さく周辺にあるようなイベントです。しかしながら、日本の現状はそれを許していません。

日本では正攻法で、スポーツにお客さんが集まる時代は終わっています。今でも、「オリンピックでメダルを取ればお客さんやスポンサーの注目が集まるはず」とか思っているスポーツ関係者は、正直しんどいと思います。


企業の五輪選手の活かし方は、これが限界なのか?

2014-02-26 12:00:22 | スポーツマネジメントを掘り下げる

ソチオリンピックが閉幕しました。

日本代表選手で活躍した人のうち、フィギュアスケートやスノーボードなどはプロ的な選手、ノルディック系(ジャンプ、複合)は実業団選手と分かれている感じです。メダルは逃しましたが、スピードスケートも後者ですね。

 

オリンピックのたびに流れる定番のニュース映像がありますが、僕はあれが気になって仕方ありません。

「○○選手の所属企業の社員が集まり、深夜にも関わらず、熱心に声援を送りました」

鉢巻をしたり、スティックバルーンを持ったりするのは、ちょっと昭和の感じがぬぐえません。ああいう現場を取材した経験はないのですが、ホントに乗り気でやってる人はどのくらいいるんでしょうか? カメラが回っていない時に、何時間もあのテンションが続くんでしょうか?

僕が最も疑問に思うのは、このイベントをスポーツの側ではなく、企業の側から見た時。本当に、企業活動に役に立っているのか?ということです。そもそもオリンピックは4年に1度しかありませんし、他の大会の時にも社内観戦会をやっているとはあまり聞いたことがありません。「あの応援をすることで、4年に一度、社員の一体感を高めているんだ。非常に重要だ」とおっしゃる方に、僕から申し上げることはありませんが。

 

ここ数年、日本オリンピック委員会は「アスナビ」といって、選手が企業の正社員として雇用されるよう、マッチングの機会を設けています。これは、スポーツ界から見れば、非常に助かります。チームを企業が丸抱えすることはどんどんなくなってきており、社会人として競技を続けられる機会は縮小の一途です。アルバイトや貧乏だけど頑張った、というストーリーは、オリンピック期間中の社会面ネタの定番でもあります。反面、科学の進歩で選手寿命は延び、長く続ければ成果を出せる人(41歳でメダルを取った人がいましたよね!)も出ています。

 

ただ、こうした形で企業に雇用されるとしても「オリンピック選手がいれば、社員に刺激になる」ぐらいの漠然としたもので終わってしまっていては、もったいないと思うのです。年間の利益が何億円もある企業なら、一人を雇用するくらいの財政的な余裕はあります。でも、その選手が遠征や練習の合間に、ちょこっと仕事を手伝って、「申し訳ないです」と体を小さくしてオフィスにいるようでは、幸せではありません。

その選手ならではの経験を会社にもっと還元できれば、本人も生き生きするでしょうし、周囲にもよい影響を与えられるでしょう。

 

例えば、選手が社員の皆さんの前で、講演をするのはどうでしょうか?

「世界の舞台で戦ったからわかった異文化コミュニケーション術」

「4年に一度の大舞台で、私はどうやって緊張を克服したか」

「日本代表チームで学んだチームビルディング論」

とか、こんな感じのテーマで。

下手でぎこちないかもしれませんが、その会社のことは同僚だからよくわかっているというメリットがあります。聞き手にも仲間意識があるはず。人事部からすると、外部から研修コーチを呼ぶよりも安く済みますし、広報部からすると、マスコミの人を呼んだりできます。

 

企業の選手の活かし方はこれが限界なのか? いや、そんなはずはない。もっと改善する余地がある。

僕はそれを手伝いたいという気持ちを持っています。


東京マラソンをもっと楽しくする方法は?

2014-02-23 10:36:52 | スポーツマネジメントを掘り下げる

 

今日は、東京マラソンですね。

2007年から始まって、すごく巨大なイベントになり、プレミアム感が高まっていると感じます。

僕はこれまで仕事の都合で行けなかったり、アメリカに住んだりで、去年初めてこの目で現場を確かめました。その時の率直な感想ですが

 

ものすごくたくさんの人が同じ場にいるけど、やっていることがバラバラ

 

でした。

例えば、ボランティアであることに自己満足してしまって偉そうな人たち、ランナーにお尻を向けて演奏している楽団とそれをランナーそっちのけで見ている人たち、便乗商売的なものなどなど。それぞれが「東京マラソン」というブランドを使いたいだけという印象がぬぐえませんでした。

 

僕はスポーツの現場で味わえるものはいろいろありますけど、「一体感」というのが一番楽しいんじゃないかと思っています。

それを心から実感したのが、留学先の大学のバスケットボールやフットボールの試合でした。(参考記事:「フットボール初心者向け観戦会を開く(2)」 「スポーツに関わる動機って?」)それを踏まえて、東京マラソンの一体感を増す方法、もっと楽しくする方法をここで提案します。

 

(1)みんなが同じ方法で応援する

例えば、ランナーへの声掛け。使う言葉を「ガンバレ」だけに統一してしまう

ランナーはどこを走っていても、「ガンバレ」の波の中にいるような感じを味わう。たまたま、同じ場に居合わせた人が「せーの、頑張れ~」と声を一つにしてみる。外国人ランナーにも「ガンバレ」と言い続けられたら、何か気になるだろうし、覚えてもらえそうでしょ。

同じ掛け声だけだと面白くないので、「ガンバレ」を言う時の身振りも統一する。

大会HPで事前に動画を流しておけば、大丈夫。簡単な振り付けで、老若男女みんなが覚えられるものを。知らない人同士でも、同じことをすると仲良くなれる。これは別にスポーツに限ったことではなくて、コンサートでもありますよね。タオルを回すとか、ジャンプするとか。あれで、参加している意識が高まる。現場にいるのにできないと恥かしくなるので、日本人はまじめだから練習すると思います。もちろん、沿道にいる楽団などのパフォーマンスグループも、この音楽しか流せない、やっていいのはこの振りだけと徹底します。

 

(2)大会カラーを統一する 

人間は情報の8割を視覚から得ていると言われていますから、一体感を出すのに視覚の効果というのは大きいと思います。

ランナーの皆さんは、思い思いの格好で全然結構です。大会スタッフは役割ごとに赤、青、黄、白のウエアを着ています。例えば、それとは別に、応援する人は全員緑色の服で、と決めます。

緑は、東京都のシンボルマーク(銀杏の葉みたいな形)の色です。幸い、大会スタッフのウエアの色や、警察や消防の色ともかぶっていません。アメリカだとセントパトリックスデーと言って、緑色のものを身につけたり、パレードをする日がありますが、そのビジュアルイメージに近いです。また、意図せず「環境への意識高いです!」みたいな感じにもなります。

沿道の人たちが緑一色だと、走っている人から見たら壮観。緑の人の帯と、東京タワーや浅草寺とのコントラストもきれいで、写真を撮ってソーシャルメディアで拡散されること間違いなし。スクールカラーを身につけることで大学への帰属意識が高まるように、みんなが同じ色の服を着ることで大会への帰属意識も少しずつ出てくるのではないでしょうか? そうすると、自分はランナーで出るのは無理だけど、毎年この大会を応援に行くのが楽しみ、という人も出てくるかもしれません。

 

一番の強敵は、日本人のシャイなところだと思いますが、こういうのって、一人ひとりがノリでやっちゃうのがいいと思うんです。やって下さいと頼まれるんじゃなくて。なので、キャッチコピーも「東京がひとつになる日。」じゃなくて「東京をひとつにする日。」に変えたら、いいんじゃないでしょうか?


「一日 中の人」作戦の紹介

2014-01-23 10:15:59 | スポーツマネジメントを掘り下げる

気がつけば、2ヶ月近く更新できていませんでした。ごめんなさい。よいアイデアがなかなか見つからなかったんです。

今回は、アメリカのTwitterでたびたび行われている企画を一つ紹介します。

それは「一日 中の人」(いちにち なかのひと)作戦です。

フォロワー数の多い有名人が、試合やイベントの日に、あるスポーツチームのアカウントの「中の人」になって、ツイートをするというものです。

有名人がたまにやる「一日署長」のソーシャルメディア版と思ってもらえれば、想像しやすいでしょうかね。有名人の知名度が、普段は関心あまりのない層まで惹きつけるという効果を狙った企画です。

アメリカのTwitter社が運営しているブログには、うまくいった企画が紹介されています。そこで、先月、プロフットボール、NFLのレイブンズのTwitterアカウントを、水泳界のレジェンド、五輪の金メダルを18個も持っているマイケル・フェルプスが「一日 中の人」を務めたという記事が書かれています。記事はこちら

マイケル・フェルプスはレイブンズのホームタウン、ボルティモアの出身で、チームのファンであることは良く知られています。オリンピックでたくさんのメダルを取った後の地元報告会的なものを、レイブンズのスタジアムで行ったこともあります。以前、僕がボルティモアに行ってスポーツ博物館を訪れた時の印象をこのブログに残していますので、参照下さい。フェルプスとレイブンズの存在感の違いにも触れています。

マイケル・フェルプスは個人のTwitterアカウントでも143万人(!)を超えるフォロワーを持っており、ツイッターの巧みな使い手と言えるでしょう。これに対して、レイブンズのフォロワー数は約40万とかなり少ないです。だからこそ、フェルプスのツイッター上の力を借りて、チームのアカウントに注目を集め、新たなファンを発掘したいという狙いがあったのだと思います。結果は、リツイートが2・6倍、お気に入りが3.9倍などの劇的な効果が現れたと報告されています。

 

この企画は、前回のブログ記事「異質なグループを取りに行く」とも、つながる話です。「スポーツと他の分野を結ぶ」と公言している僕は、「異質なものが混ざり合うことはいいことだ」という信念を持っているので、まあこういう企画に反応してしまうのかもしれませんが。今回はスポーツつながりですが、過去には有名モデルが「一日 中の人」を行った例もあります。アメリカでも「○○が好きな人、集まれ!」には限界を感じて、少々強引に新しいファンを取りに行かなければ、という危機感があるのではないか、と推測しています。 


異質なグループを取りに行く

2013-11-30 09:21:58 | スポーツマネジメントを掘り下げる

スポーツのチームを経営するには、ファンを獲得し、コアなファンに育てなければなりません。チケット代、グッズ代などの収入、また、ボランティアなどで人力をもたらしてくれるからです。

その過程の中で最も困難なのは、新規のファンの獲得です。

何も知らなかった人に知ってもらう。知った人にさらに関心を深めてもらう。さらに、観戦やグッズ購入などのアクションを取ってもらう。ここまで来て初めて、チームの実入りとなります。これは、一度ファンになった人を、さらにコアなファンにするよりもはるかに難しいことが想像できると思います。

一般的には、広告で呼びかけるとか、学校や地域を単位に招待するとか、今のファンに友人を誘ってもらうとか、と言った手法が取られます。

 

この点に関して、新しい手法が最近、流行の兆しを見せています。それが「異質なグループを取りにいく」ということです。

ビジネス界では、このごろ、このようなキャンペーンが見られるようになりました。例えば、ひげそりのシックがエヴァンゲリオンを使ったキャンペーンを行いました。ひげそりと人気アニメはあまり関係なさそうですが、 ひげが印象的なキャラクターを巧みに使うことで、ネット上で大きな注目を集めました。成熟した市場で、ブランドのスイッチィングは難しいと見られていましたが、目立つ店頭キャンペーンなども相俟って見事に成功を収めました。

アニメには全然詳しくないので、中身については突っ込みません。コミュニケーションの方法として見ますと、これは「同じ関心でつながっている大きなグループの力」にリーチすることで、そのグループ内において存在感を増し、そこから何人かのファンを生み出すことです。今日、ソーシャルメディアの拡散力は強力ですから、広がりやすく話題になりそうな映像や前振りを使って、期待感を高めます。そして、いよいよ当日にその期待を超えるようなことをバーンと行います。その模様も少なからぬファンがブログやSNSに書き込みますから、あっという間に広がっていきます。

この方法を取ることで一番大きいメリットは、普段はその商品、スポーツやチームに関心のない人たちに強く届くということです。

ポイントは、コアなファンの人も経験していないことを提供すると満足度が上がるということ。その裏返しで、一番のリスクは、熱心なファンたちに反感を買うことをしてしまった場合、批判もあっという間に広まるということです。諸刃の剣とも言える、企画です。

 

スポーツ界の例では今季、ソフトバンクホークスが超新星という韓国の男性グループを呼ぶという企画を行いました。始球式に参加してもらったり、試合中もボックス席で見ているスターたちをイニング間にチラ見せしたり、その日限定のタオルマフラーを配ったりしました。検索すると、いろいろ出てきます。もちろん、ホークスや野球文脈ではありません。超新星の熱烈なファンのブログなどが、検索リストの上の方に来ます。

この例ほど、大きなものでなくても、ゆるキャラを呼ぶというのなら、予算の少ないイベントでも行うことができます。無料で出演してくれるゆるキャラは結構あるんです。ことし6月のブラインドサッカーの日本選手権では、複数のゆるキャラを呼んで、ブラインドサッカーのボールを蹴ってもらうというパフォーマンスを行いました。個人的には、ゆるキャラの追っ掛けという人たちがいることに、驚きましたが。

日本のスポーツ業界は成熟市場であり、プロ野球、サッカー、相撲など代表的なプロスポーツでも全体では確実に観客動員数が減っています。新しいものが市場を拡大したり、今あるものが地位を確保し続けることは極めて難しいと言わざるを得ません。様々な興味で集まるグループが多数存在するという現状で、この「異質なグループを取りにいく」という戦術は、苦しい中に光を見出す一手だと思います。


Twitterならスタジアムの中に参加できる

2013-11-20 09:53:40 | スポーツマネジメントを掘り下げる

先週末、バレーボールの「グラチャン」を見て、「おっ!」と思いました。

CM明けにちらっと目に入ったのですが、タイムアウトをとっている時に、サイドフェンスのデジタル広告の表示が変わって、炎のような背景の中、Twitterで募集された応援メッセージが流れるのです。

日テレが自社サイトで募集している「ツイートアタック」という名称のようです。http://www.ntv.co.jp/volleyball/tweet_attack/index.html

25字以内という制限がありますが、あれだけ大きく出れば、場内の観客はもちろん、選手の目にも触れたのでしょう(試合に集中しているので、どの程度かはわかりませんが)。

 

スタジアムの外にいるのに、スタジアムの中に携わることができる。これは、スポーツファンにとっては夢の企画ではないでしょうか?

テクノロジーが発達していなかった時代には不可能なことでした。試合中に選手に気持ちを伝えたいなら、チケットを買って会場に行くしかなかったんです。しかし、その壁をポンと越える企画が実現したわけです。どのような仕組みでやっているのかはわかりませんが、掲載するメッセージは主催者側が選んでいるはずです。みんなの目に触れるように大きく映し出されるのは、会場で大声を出すよりも大きなインパクトを与えます。短いひと言ではありますが、会場内のムードづくりに貢献できることになります。

この企画は他のスポーツにも応用できます。

プロ野球なら、打席に立つ選手がスコアボードに映る時に使えます。たいがい決まったパターンの動画と音楽で紹介され、その日の前打席までの結果と通算成績が出るくらいです。これに、その状況に合った毎回違うファンからのTwitterによるメッセージが流れたら、もっと楽しいでしょう。選手の励みにもなるし、球場で見ている人にも変化があって面白いです。

テニスやバスケットボールなど、インターバルのあるスポーツは、バレーボールと同様の方式でよさそうです。サッカーなら試合前の選手紹介の時に、募集された毎回違うメッセージが出ると面白いですね。テレビ中継では流れない場面なので、選ばれたかどうかがわからないという難点はありますが。 

チームを経営する側の観点から考えると、ひとつ難点があります。スタジアムの外からツイートだけをしていては、チームに収入をもたらさないという点です。その点を解消する方法を考えてみました。

それは、この企画に参加するためのハッシュタグを企業のプロモーションと提携することです。Twitter社が提供するこの「プロモトレンド」という広告は、1日1社限定で、何百万円もの費用がかかります。日本のスポーツのスポンサーシップとしては高額な部類に入るでしょう。なので、莫大な広告費を持っている企業が、ここぞという時に使う感じで、毎日できるものではなさそうです。企業は認知度を上げたい商品名やキャンペーンの名前などを作り出し、参加者には無料で特別な体験を与えながら、宣伝してもらいます。「俺のメッセージが選ばれた!」なんていう自慢はツイートで拡散される可能性が高そうです。

今回の「グラチャン」では、メッセージを送ってくれた人の中から抽選で商品をプレゼントという形でした。これだとコストは安く済みます。また、場内のスクリーンにメッセージを載せる際に、広告を挟むという方法も取れます。

いずれにしても、ファンのメッセージは注目度を高めるため、そのスポーツに深くにコミットするために使われ、その注目度や関心を使う企業がお金を払うという形がよいと思います。スポーツの生中継とツイッターは大いに盛り上がるので、その点が他のタイプの広告に対して優位となります。


ファンとサポーターを分けて考える

2013-11-02 11:25:00 | スポーツマネジメントを掘り下げる

日本のスポーツを見続けていて長い間気になっていたことが、別の人と同じような視点を共有できて非常にすっきりしました。

先日、ドイツ・ブンデスリーガのフォルトナでフロントの仕事をしている瀬田元吾さんの講演を聞きました。ドイツのサッカーの現場にいる日本人としての様々な提言は非常に有意義なもので、考えさせられる点がいろいろありました。中でも「ドイツでは選手名の横断幕をほとんど見かけない」という話、選手を応援する「ファン」とクラブを応援する「サポーター」は違うのでは、という指摘が強く印象に残りました。

私自身も選手の一挙手一投足を熱心に見守るような「ファン」は日本独特だな、とかねてから気になっていました。遡ると、2002年サッカーワールドカップの時に、日本のファンはブラジルの選手に会いたいと韓国の滞在先のホテルまで行ったとか、日本ではキャーキャー騒がれていたイタリアの選手たちが韓国ではさっぱり人が集まらなかった、というのを報道で知った頃からです。

日本のスポーツを支えてくれる人を考えた時に、この「ファン」を入り口に入ってくる人が多いです。例えば、最近だとアイドルみたいな写真が並ぶ「スポーツ男子。」のような雑誌が商売になっています。カワイイ女子選手をやたらと報道するのも、この傾向に合わせたものです。また、選手別の応援歌というものが、プロ野球でもサッカーでも当たり前のようになっていますが、僕の知る限り、米国でも欧州でも非常に少ないです。

一方、選手がいくら入れ替わろうとクラブを応援し続ける「サポーター」も、古くはプロ野球のチームを熱心に応援する人、そしてJリーグ開幕後じわりじわりとその文化がさらに拡大、醸成されてきました。クラブや選手を尊重しながら、時として厳しいことを指摘したり、抗議したりもします。

日本ではこの「ファン」と「サポーター」の境界線が曖昧です。言葉としても「巨人ファン」などと、使うのが当たり前です。少し前に「カープ女子」というのが報道で多く取り上げられましたが、この言葉も、広島のある選手を応援することをメインとしている女子と、広島生まれでチームを愛している女子というのが混在しているような印象を持ちました。

 

ただ、「ファン」と「サポーター」がそれぞれ求めているものは違います。そして、相手にするチームやクラブの側は、いろいろなタイプのチームに関心を持ってくれる人たちをそれぞれ分けて、満足させる打ち手を考えるべきだと思います。このテーマに関しては以前、このブログでも書きました(2012年1月30日 「ファンをひとくくりにしない」)。

 チームを経営する立場からすると、選手が移籍や引退をするといなくなってしまう「ファン」ではなく、変わり行くチームを愛し続けてくれる「サポーター」の数を増やさなければなりません。これは日本のスポーツマネジメントを考える上でのキーポイントでしょう。しかし、この「ファン」→「サポーター」への変化をどう促すのか、という解決策は、僕自身もこれだと言い切れるものが今のところありません。今回は、考えのまとめと分析だけになってしまい、申し訳ないです。もうしばらく考え続けます。 


認知と行動の間に

2013-10-26 08:41:50 | スポーツマネジメントを掘り下げる

このところ、硬めのタイトルが続いています。でも、そういうテーマを真剣に掘り下げて考えているので、避けられません。

スポーツの現場に携わっている人の多くが、もっと多くの人に来場してもらいたいと考えています。観客動員を増やせれば、収入が増えて投資ができるようになり、さらに人気が拡大し、多くの人の目に触れるのでスポンサー額を上げられるなど、好循環が始まります。

その好循環は、まず「認知」してもらうことから始まります。チラシを配ったり、パスターを街に張ったり、他の分野で言うと、テレビの新商品コマーシャルなどをイメージしてもらえるとわかりやすいでしょう。人々が「ああ、それなら聞いたことあるよ」というところまで持って行くこと、それが「認知」です。

しかし、それだけだと、チームや団体にはまだ直接的な影響はありません。知っているだけで、お金を払ってもらえるわけでもないし、会場に来てくれるわけでもありません。何の働きかけも来ていない状態です。そこから先のステップ、「行動」に移してもらうには、どうすればいいのかを、ここ数ヶ月間、考えてきました。「認知」と「行動」の間に何があればいいのか、ということです。

僕が携わっているブラインドサッカーの現場でも、このことが問題です。10年を超える広報活動の蓄積、また、テレビのニュースや特集、全国紙など見ている人が桁違いに多いマスメディアに取り上げていただいたこともあり、「認知」はかなり上がってきました。調査でも数字が上がっています。僕個人も、初めて会った人にブラインドサッカーに携わっているというと、「音の鳴るボールを使うのですよね」とか、「子どもの学校で体験会があったと聞きました」とか聞くことが如実に増えてきました。しかし、観戦やボランティアの形で現場に来ていただける方、寄付、グッズの購入などお金を出してくれる方など「行動」に移してくれる人はまだまだ少ないです。

そこで現場にいながら、つぶさに観察したり、聞き取りをしたりすることで、どうすれば、「認知」と「行動」の間が埋まるのかを考え続けました。他のスポーツの現場にも足を運んで、比較検討することも続けました。

 

結論は、

相手が求めているであろう情報をより多く伝えること、になりました。

 

試合を見てもらうなら、選手やチーム、試合の見方などの情報を。ボランティアに来てもらうには、仕事の内容や経験者の感想などの情報を。寄付をしてもらうには、なぜそのお金が必要なのかという情報を伝えることです。

現場に来てくれた人から「ツイッターで知って、そこから検索して動画やサイトの記事を見ました」とか「○○でやっていた体験会をたまたま見て、やってみたいと思っていて、スケジュールを調べました」などという話を聞きました。ボランティアに繰り返して来てくれる方は、どうしてなのかも聞き、その人たちは現場で何に喜びを感じているのかも観察しました。試合を見ながら、他の観戦者の声もさりげなく聞いていました。次第に「認知」からより多くの情報を得た方が「行動」に移っていると気づいたわけです。もちろん一度現場に来てくれたら、今度は五感をフルに使って双方向でコミュニケーションできるわけですから、非常に多くの情報が伝えられます。それがさらなる「行動」につながります。

 

言われてみれば、別にどうってことのない話かもしれません。しかし、セミナーで聞いたり、本で読んだりして知るのと、実践の中で自分で考え続けてたどり着いたことは自分の中ではかなり違います。この納得感とスッキリ感の中で、ここから手を打ち続けます。


主観を客観に置き換える

2013-10-16 14:38:23 | スポーツマネジメントを掘り下げる

最近仕事で、クリエイターやデザイナーとご一緒する機会が増えてきました。

元々、どう伝えるのか、に並々ならぬ関心を持っている僕は、そういう職種の方が書いた書籍をたくさん読んでいました。それでも、直接お会いすると、伝わってくる迫力も、得られるものの濃さも全然違います。

 

自分の周りにあるスポーツ関連だと、イベントのロゴやポスターのデザインなどをお願いして、それについて語ったりします。

そのような方たちと仕事をしてみてよくわかったことですが、未熟な方だと、出来上がってきたものから「カッコいいから、これでいいじゃない」という空気が伝わってきます。自己満足です。「どうしてわかってくれないかな」という押し付けです。これだと、受け取るほうも、「ああ、カッコいいよね」で止まってしまいます。それ以上のストーリーのふくらみはありません。アーティストなら、これでいいんですが。

デザインは、違います。僕も本で読んだ知識として、デザインとは課題解決である、と知っていました。

これをロゴやビジュアルデザインの場に当てはめると、デザイナー自身が「ここをこの色にしたのは、こういう理由です」とか「この線の本数は、この数にちなんだものです」とか、全部が全部説明できないといけない。こちらからも「どうして、この形なんでしょうか?」と質問を詰めていかなければならない。その上で、難しい背景がパッと見てわかるようになっていなければならない。例えば、オリンピックのマークは、なぜ5色の輪で、なぜ重なり合っているのか、に確固たる理由があります。

こういうのを、一緒に仕事をしている方の言葉を借りると「クリエイティブを担保するロジックをつくっていかなければならない」、言い換えると「主観を客観に置き換える」ということです。

思いつきやかっこよさではなく、「外国では、こういう例がある」とか、「他の分野では、こういう流れになっている」というようなトレンドなども含めて、「私の考える伝え方はこれです」というのを見せるのがデザイン。

 

このテーマについて自分の中で考えを深めているうちに、「この話、どこかで似たような聞いたことがある」とふと気づきました。

ブログにも一度書いていました。「それでも、スポーツマネジメントを学ぶ理由。」 

根拠を持って、局面を打開するアイデアを高い精度で打ち出せること。

学問の場合は、統計や調査、研究がその根拠になりますが、思い付きではなく、理由をきちんと説明できなければならない点は同じです。

 

課題解決、ってそういうことだ。


ジャイアンツ、300万人突破に思うこと

2013-10-11 09:07:28 | スポーツマネジメントを掘り下げる

読売ジャイアンツの今季の観客動員が300万人を超えた、というニュースがありました。

平日の観客動員を増やすべく、タレントを呼んだり、無料でユニフォームを配ったり、生ビール半額をやったり、開始時間を30分遅らせたりと次々と手を打って、この数字に結び付けました。なりふり構わず、ってこういう時に使う言葉です。

無料でユニフォームプレゼントというのは、コストがバカにならないし、グッズの中でも高額の商品が売れなくなる可能性を自ら招くわけで、プロモーションとしては「奥の手」です。アメリカだと、マイナーリーグのチームがここぞという年1回の勝負どころでやる、というイメージです。ジャイアンツは、それを1シーズンに何度もやっているわけです。

観客動員はプロスポーツチームの経営の根幹ですし、その目標を達成した組織は素晴らしいと思います。反面、殿様商売を続けてきた日本で最も有名なプロスポーツチームが、ここまでやらないといけない時代になったんだな、という危機感も感じざるを得ません。

 

日本に戻ってきて1年以上が過ぎましたが、他の分野を見ても「日本ってプロモーション、キャンペーンの嵐だな」と感じています。

テレビをつければ、タレントさんが街を歩いて、何かを食べる番組が多数。そして、店先には「テレビに取り上げられました」の文字が。企業の広報とがっちりタイアップしたような番組(社内、工場内、店舗内で撮影したものなど)も多数。映画や舞台の宣伝のため、きれいな女優さんもバラエティー番組で面白い話をしなければならない。全国チェーンの飲食店は2週ごとに、違うキャンペーンをやっている。東京では、毎週どこかで「フェスティバル」や「祭り」をやっている。例えば、本家ドイツを差し置いて、春先から「オクトーバーフェスト」をやって、ビールを売っている。

良いモノをつくっていれば、売れる? 3年前に、このブログでも書きました(「試合の中身で決まるのではありません」)が、それは違います。

カンフル剤を打ち続けないと、人も集まらないし、モノが売れないし、経済も回っていかない。日本はもはや、そういう国です。

 

他のエンターテイメントも猛然とプロモーションに力を入れ、スポーツ業界でもトップチームがなりふり構わず、手を打ち続けている。

影の薄いチームや、いわゆるマイナー競技が、ボサッとしていて、観客やお金が集まる状況ではないです。

なのに、何でうまくいかないかなぁと首をひねっているだけではありませんか?


自分の役割をどう名乗る?

2013-09-30 09:50:37 | スポーツマネジメントを掘り下げる

自分が今、やっていること、やろうとしていることを的確に表す肩書きとは何だろうかと、このところずっと考えてきました。

ミッションは「スポーツとその他の分野を結ぶ」。それより前に使っていたのは、「スポーツに関わるコミュニケーションをやさしくすること」でした。

加えて、自分がアメリカで学んできた学問分野である「スポーツコミュニケーション」というのは、必ず使いたいと思っています。恩師のためにも、この言葉自体を日本で広めたいのです。

そして具体的に、お客様のお手伝いができるとすれば何かというのを挙げると

 

<スポーツチーム、団体、イベント主催者の皆様へ>

  • 広報活動の代行をたのめる
  • 広報活動の改善策の提案を受けられる
  • 危機対応時の広報の相談ができる
  • ソーシャルメディアを通じたファンとの関係作りにアイデアをもらえる
  • スポンサーシップ提案書の執筆をたのめる
  • 集客戦略の案をもらえる
  • スポンサーの満足度を高めるプランがもらえる
  • 観客の感動を高めるための会場プランがもらえる
  • 収益につながるパンフレットの編集を任せられる
  • 大会のテーマを見出すミーティングの仕切りをお願いできる

<スポーツのスクール、教室の経営者の皆様へ>

  • そのスクールならではの売りを見つけ出すことを頼める
  • 集客戦略の立案を依頼できる

<選手、元選手の皆様へ>

  • 記者会見、取材対応時に話す内容を整理するのを手伝ってもらえる。台本を書いてもらえる
  • 講演内容のアイデア出しや表現のブラッシュアップを頼める
  • ブログの書き方の上達法を教えてもらえる
  • ソーシャルメディアを使ったファンとのコミュニケーションの取り方を教われる
  • スポンサーシップ提案書の執筆を任せられる

<大学、専門学校の皆様へ>

  • 「スポーツコミュニケーション」に関するレクチャーをしてもらえる
  • 大学スポーツの広報戦略の立案してもらえる

と言ったところでしょうか。

 

だとすると、「プランナー」でもないし、「クリエイター」でもないし、「代行業」でもないです。ある時は「ライター」でもあり、ある時は「コンサルタント」でもあります。

僕はいつも自分が目立つよりは、誰かを陰ながら支えることにやりがいを見出しています。そこで、ともに生み出す、とか、助ける、というニュアンスを入れたい。「サポーター」、「コーディネーター」、なども検討しました。その中で「アドバイザー」というのが一番しっくりくるかと。よって、

スポーツコミュニケーションアドバイザー

と決定しました!はい。


メディアの進化系がイベントだ

2013-09-24 10:06:53 | スポーツマネジメントを掘り下げる

このブログにたびたび書いているように、僕はどんなイベントを見に行っても、「こうすれば、もっとよくなりそう」と考えるのが習慣です。

ただ、普段なかなかこの点について議論する相手に恵まれません。そこで、他の分野でもいいので、イベントを仕事にしている人はどんなことを考えているのかを本で読むようにしています。

先日、大型書店でたまたま見つけて手に取り、「イベント運営完全マニュアル」(高橋フィデル著)を読みました。

ことしの6月に売り出された比較的新しい本です。非常に読みやすい文体で、メモを取りながらでも4時間で読了。

実際の手順から、概念的なことまで中身の詰まった書で、学ぶことが多々ありました。

 

一番インパクトがあったのは、最初の方に書いてあるこの言葉。

「メディアの進化系がイベントだ」

マスメディアの世界で10年以上働いてきた僕のような人間が、イベントを深く掘り下げたくなるのは自然な流れのように思え、すっきりしました。

メディアが言葉や映像で伝えるのに対し、イベントは直接体験で伝えます。したがって、「お互いに出会うからこそ、与えたいと思う情報以外も感じられる」(本文より引用)と。

 

これを読んで、自分がやる時には徹底しなければ、と思ったことは

イベントこそ「言いたいこと」と「伝え方」に、もっとこだわるべき

と言うことです。意図しない部分も含め、より多くの情報が参加者に伝わってしまうわけですから。

 

僕は文章を書くのが好きな人間ですから、何をどう言うのかをよ~く考えてから書き出します。

しかし、イベントとなると、サッカーの試合だからこうだろうとか、結婚パーティーだからこうだろうとか、型ばかりを考えてしまっていたのではと反省しました。

 

このことを気づかせてくれただけでも、この本の著者に感謝したいです。高橋フィデルさん、ありがとうございました!