「北口へ行きたいんですよ」とその高齢の女性は言った。ショッピング
モールの中に迷い込み、先ほどから駅の北側へ出るための出入り口を探して
さんざん歩き回ったと言う。
慣れない人にとって、このショッピングモールはまるで迷路かもしれない。
北側の出入り口へ案内しながら「どこへいらっしゃりたいんですか」と
尋ねると
「昔は長崎屋だったところ。ほら、えーと何ていったかしら」
「今はドンキホーテになっていますよね」
「そうそれ、ドンキへ行きたいのよ」
「だとすると、南口ですけど」
「ちがうちがう、北口のはず。あなた分ってる?」
「ドンキでしたら、確かに南口です。で、南口は反対側です」
だが、納得しかねるという表情のその人は、どうやら私の道案内が信用
できなくなったらしい。
「あなたダメ。わかってないでしょ。もういいから」
彼女を放り出すわけにも行かず、説得しつつ南側のエントランスにたどりつく。
外へ出ると、少し遠くにドンキホーテの建物が見えた。
「あ、ドンキが見える。こっちだったのね」
「この道沿いにまっすぐ行かれるといいですよ。お気をつけて」
カートを引きながらゆっくり遠ざかるその人の後ろ姿を見送りながら
つぶやいた。「どういたしまして」
御礼は言われなかったけどね。あなたダメ、とか言われちゃったけどね。

