まあどうにかなるさ

日記やコラム、創作、写真などをほぼ週刊でアップしています。

トンネルの幽霊

2009-11-25 23:24:07 | 怪談

飲み会があって、終電車に間に合わなかった。
乗り込んだ電車は、自宅の最寄り駅のひとつ手前止まりだ。
その列車の終点の駅を降りて、タクシー乗り場に行くと、すでにかなりの列ができている。
仕方がない、歩くか・・・
そう決めて、とぼとぼと夜道を歩き始めた。


深夜、1時過ぎ、駅を離れるとほとんど人影はない。


途中、線路の下をくぐるトンネルの横を通りがかる。このトンネルは近くの踏み切り渋滞解消のために造られたものだ。
オレンジ色のライトに照らし出されたトンネルの周りには人家もまばらで、通り過ぎる車もない。


このトンネル工事の途中に事故があり、死者が出た。
そのせいで工事は長い間中断されたが、しばらく前に開通した。
少し前から、このトンネルに幽霊が出るという噂がある。


ふと、遠回りをして、トンネルをくぐって行く事にした。
どんな幽霊なのか、怖がりのくせに興味がある。
ぜひ、見てみたいと思っている。


車道の横の歩道をトンネルに向かって歩き始める。
スロープを下って、薄暗いトンネルをくぐる。
トンネルは線路の下を大きくS字型に造られていて、先の見通しが悪く、多少の恐怖感がある。でも、幽霊はいないようだ。


トンネルをくぐり終えたところで、物音がして、はっとする。


トンネルのすぐ横にある大きなヒノキの木の葉音だった。
少し、風が出てきたようだ。
我ながら臆病だなと思い、暗闇の中、その木を見上げてみる。
この木は、かなり遠くからでも見える古い木で、たくさんの枝がいっぱいの葉をつけている。
しばらく歩き、小学校の横を通り、自宅の手前の踏み切りで線路を再び渡って帰宅する。


めずらしく妻は起きて待っていてくれた。
妻にトンネルのことを話す。幽霊は出なかったことも。


「遠回りしてきたの?」
「うん、あのヒノキの下を通ってきたよ」
「え! ヒノキって?」
「トンネル出たとこにあるじゃない、大きなヒノキが・・・葉の音がすごくてさ、ちょっとびっくりしたよ」
「なに言ってんの?」
「・・・・?」
「あの木、ちょっと前に切り倒されたわよ・・・」