華氏451度

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結城昌治著『軍旗はためく下に』

2006-08-07 23:53:04 | 本の話/言葉の問題

   8月15日が近いからだろうか。書店に戦争関連の本のコーナーが出来ていた。さまざまな種類の本が並ぶ中、結城昌治の『軍旗はためく下に』(中公文庫)を見つけた。

  私はちょうど10年前に亡くなった結城昌治の小説が好きなのだが、最近はそのほとんどが絶版になっており、古書店でもめったに見掛けなくなっていた。だから思いがけぬ所で旧知の人物に出会った気がして何となく手にとってみたところ、ごく最近改版されたとわかった。

 以前「子供がいたら読ませたい本」を何冊か書き出してみたことがあり、その中でも『軍旗はためく下で』を紹介した。子供といっても「小さい子供」向けではないけれども……。

 内容は5話連作で、すべて「陸軍刑法に基づいて処刑された兵士」の話である。フィクションではあるが、軍法会議の記録を調べたり、戦争体験者に丹念に取材した話がもとになっている。(ちなみに結城昌治はこのほかにも、取材をもとにした戦争小説を幾つか書いている)

 兵士達に着せられた罪名は「敵前逃亡」や「従軍免脱」(従軍を免れるために自傷する行為。たとえば指1本傷つけても、銃を撃てず兵士として役立たなくなる)など。陸軍刑法によれば、敵前逃亡その他多くの「罪」の最高刑が死刑に定められていた(海軍刑法も同様であったらしい)。 

 改版文庫の巻末の解説をさっと立ち読みしたら、次のような意味の文章があった。

「戦争においては、殺し合いが嫌で逃げ出すとか、自傷して戦いを回避するとか、上官の出撃命令に従わない等々、自分の命を守るための行為に対して死刑が科せられる」

 5つの話が切ないのは、登場する兵士達は確固たる反戦思想の持ち主だったり崇高な精神の持ち主だったりするわけではなく、みんな「普通の男達」――心弱く、ちょっと狡いところや卑怯なところもあり、「お国のために戦う」ことに特には疑問を持っていない男達であることだ。ごく素朴な「忠臣愛国」の念を持っていたりもする。それでもこっそりと「いつ国に帰れるのだろう。家族に会いたい」と愚痴を言い合い、「虫けらみたいに殺されたくない」と呟いたりするのだ。そんな彼らが、ひょんなことで軍規違反に問われ、容赦なく殺されていく……。

 これは正面切った反戦小説、という趣の小説ではない。登場人物が明快な戦争批判をおこなう場面はほとんどなかったはずだし(厭戦気分、はある)、戦争の悲惨さを大所高所から描いたものでもない。登場人物達はいずれも「鬼畜米英」(という言葉が当時はあった)の気分を叩き込まれており、その気分のままに敵を憎悪し罵っているし、平気で人種差別的な発言も繰り返す。そして描かれている悲劇はいずれも底辺の悲劇であり、その死は思想信条に支えられた崇高な?死ではなくそれこそ虫けらのような犬死にである。しかし――だからこそ、これは逆に言えば強烈な反戦小説であるとも言える。

(むろん、処刑以外にも、小説の中には死が充ち満ちている。たとえば野戦病院に送られて手当も受けられず放置された揚げ句、敗走時に足手まといになるからと空気を注射されて殺された兵士達……)

 興味が湧かれたら、是非お読み下さい。文庫とはいえ約1000円、決して安い買い物ではないが、何なら10人ぐらいで1冊買い、回し読みしてもいいのでは?(ちなみに私は回し読みするはたまにしかしないが、本を友人と交換することはよくある。私が買った本が1000円、友人のは1200円だったりするが、その辺はまあ固いことは抜きである。本は1人が死蔵するものではない)

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2 コメント

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Unknown (久々)
2006-08-08 11:42:46
海軍が結構柔軟なのに対して、陸軍はガチガチのカタブツですからねぇ。

その上面子を非常にこだわる。

石原莞爾ぐらいでしょう、柔らかい思考の持ち主は。



結局こいつらがアホだから戦争を終わらせれずに被害を大きくしていったんですよ。









とりあえず戦場に悲劇と美談はつき物です。

つーことで悲劇の方は皆さん知ってると思うので、美談の方をば

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小泉靖国参拝の国家主義 (morichan)
2006-08-15 08:12:11
 大変な日になりました。小泉の本性がヤスクニに表れています。

 「経済格差」の拡大を庶民に押し付け、それを確固とした権力によって押さえつける仕組み作りが、ヤシクニ参拝です。

 現状をひっくり返す行動――アメリカの広島・長崎への原爆投下、北ベトナムへの北爆、北朝鮮のテポドン発射、周辺国が反対しているにも拘らず日本の海外侵略の正当化――は同じです。

 私は「経済格差」が様々なところで、表現されていることを明確にしていこうと思っていますが、私はブログだけでは終わらず、行動もするつもりです。

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