華氏451度

我々は自らの感性と思想の砦である言葉を権力に奪われ続けている。言葉を奪い返そう!! コメント・TB大歓迎。

問題は牛肉だけではない

2006-01-21 07:19:49 | 雑感(貧しけれども思索の道程)
「アメリカ産牛肉輸入停止」のニュースが流れ、それに関して大勢の方が各ブログでも書いておられる。そこへ政府のいい加減さを怒る記事を付け足しても仕方ない……とは言わない、少しでも「声」を増やすのは大切なことなのだけれども、大したことは書けないので「アメリカにばかり顔向けてることが、また国民の前にバレましたね」と言うだけにとどめて……

アメリカ産牛肉も胡散臭いが、それと同様に、と言うよりもしかするともっと胡散臭いのが「遺伝子組み換え(GM)作物」だと私は思っている。これも周知の事実、であるかも知れないが……。

GM作物が日本に輸入され始めたのは1996年のこと。そして今や、日本は世界一のGM作物輸入国になっているらしい。

GMというのはご承知の通り、ある生物の遺伝子に全く別の生物の遺伝子を組み込んで、自然界では絶対に出来ない新種を作り出す技術。それを応用した作物その他が、確か20年ほど前から研究・開発され始めた。大豆、ジャガイモ、ナタネ、トウモロコシ、トマトなどの農作物のほか、チーズ製造に使われる酵素・キモシンやパンなどの劣化防止剤なども、この技術を応用したものが登場している。さらには、遺伝子組み換えペット(光る魚)、糞の中のリンが少ない動物(ネズミやブタ)……。(それにしても、何でまた光る魚など作る必要があるんだ。熱帯魚のように綺麗で、それよりずっと安価ですよ、というわけだろうか。まさかそのうち、きらきら光る犬などというものまで出てこないでしょうね……)

GM生物にはいろいろな「長所(!)」を持つものがある。たとえば腐りにくいトマト、通常の2倍の速さで成長するサーモン。だが、最も多いのは除草剤耐性や殺虫性を持つものである。こういう作物を栽培すれば、大量の農薬を空中散布して雑草だけ枯らすことができるというわけだ。

内閣府の食品安全委員会は「安全評価基準」を作り、輸入されているGM作物については審査し、安全を確認しているという。申請業者が提出した資料をもとにして審査する方式なので、その辺からまず100%信頼できない気がするが、一応、百歩譲って「申請業者は良心的に資料を作成している」としよう。で、毒性はない、アレルギーも起こさないし発ガン性もない、と確認されたとしよう。それでもなお不安なのは、慢性毒性(長期間摂取し続けた場合の毒性)まで、ありませんよと保証してくれているわけではないことだ。GM作物の中で生成された除草剤分解酵素などが残留して人体に入り、蓄積した場合の影響も未知である。さらに、作物の遺伝子のシステム自体に狂いが生じて新たな物質が生み出され、それが人体に何らかの影響を及ぼす危険性や、組み込まれた遺伝子が他の生物(鳥など)に移行して変異を起こす可能性……なども「神のみぞ知る」なのである。(これらの危険性に関する研究は次々と報告されている)

GM作物・食品が使われるのは、コストダウンになるからだという。先述のように、除草剤耐性を持つ作物なら大量の農薬散布であっという間に雑草を除去できるし、腐りにくい作物は運ぶときに低温の維持に気を配らずにすむ。また、暑さなどさまざまな外的条件に耐性を持つ作物や、成長の速い養殖魚が次々と開発され普及すれば、食糧危機の解決につながるという人も……いる。

GM作物(食品)は危険ではない、と断言する意見は少なくない。専門家が書いた本を読むと、そのあたりのことは「科学的に」説明されてもいる。典型的文科系人間の私など、スゴイスゴイと感心し、つい納得してしまい……そうになる。しかし!である――と、ここは声を大にして言う。科学が全能でないことも、レッキとした事実ではないか。これが新しい通信システムか何かなら、10年後に「やっぱり問題がありました。すみません」ですむかも知れないが、食べるものはそれでは遅いのだ。とことん臆病になりたい。

安ければいいとか、技術の進歩はいいことだ、という発想をひとまず疑ってみなければ、後で大きなツケが回ってくる。「改革」と名が付けばいいことだと思っていると、しっぺ返しを食うのと同じように。

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13 コメント

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間違えて欲しくないこと (kaetzchen)
2006-01-21 16:58:41
まず,私はGMそのものには反対の姿勢ですので,感情的な反発は一切受け付けません。念のため。



あらさがしなんですけど,「遺伝子組み換え作物」は「遺伝子組換え作物」と言って欲しいです。



それから,心配されている「除草剤分解酵素」というのは「酵素」という名前がついている通り,ただのタンパク質です。早い話が,私たち人間の肝臓の中にも似た組成のタンパク質は含まれています。GMの場合,任意の化学構造の除草剤だけに特化して働く分解酵素を分泌させるように遺伝子を組み替えたのですから,それ自体は人体には「無害」です。ただ,その酵素をアミノ酸レベルまで分解出来るかどうか分かってから,本当に「無害」か「安全」かが言えるのではないかなと思いますよ。



逆に言うと,私たち生物屋が最も関心を持っている事は「GM作物の遺伝子情報が他の作物や植物に伝播しないか(遺伝しないか)」だとか,「害虫以外の昆虫や動物に対する影響(副作用)はないか」というレベルが主です。純粋に生物学的に考えると,前者は同じ種類の作物を近くの畑に植えていれば,簡単に花粉が飛んだりして遺伝子の交換が起こるでしょうし,後者は可能性を正確に実験評価するなんてとんでもない手間がかかって訳が分からない,ということになってしまいます。



また,GM作物を使っていても,遺伝子そのものが残っていない食品の場合,表示が正しいかどうかを調べる手段がありません。加工されてしまった場合,タンパク質,下手するとアミノ酸レベルまで調べないといけなくなるからです。



科学は万能ではない,と言われますけど,ここで言われている「科学」という言葉は実は「技術」に過ぎません。「科学」と「技術」は文系の人の間ではよく混同して使われてますけど,前者は純粋に知的な探求行為であり,「技術」は科学の成果を元にしてそれを工業化すること,つまり「工学」になるのです。中学の時に習った「技術科」,あれは実は「工学」だったのです。逆に言うと「工学」には常に「カネ儲け」という目的が存在しますから,そのためには「技術」が誤った方向へ使われるという可能性はご指摘の通りではないかと思います。

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Unknown (しろまあも)
2006-01-21 23:44:38
こんばんは、しろまあものしろです。

しろも遺伝子組換え作物について、いろいろ危惧していることがあります。BSEも心配ですが、現在牛や鶏の飼料となっている穀物が、ほとんどこの遺伝子組換え作物だからです。

でも、まだブログに書けるほどには勉強していないので、もう少し理解してから書こうと思います。

TBありがとうございまいした。こちらからもTBさせていただきます。これからも、よろしくお願いします。
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Unknown (ヘリオトロープの小部屋)
2006-01-22 00:17:35
トラックバックありがとうございます。

遺伝子組換え作物を売ることもアメリカの世界戦略のひとつとすると、なにやら胡散臭さを感じます。次の世代が発芽しないようにして、毎年種を買わせるようにしたものもあるそうで、そうなると食糧難の貧しい国の人たちを助けるというのは嘘になるということです。

さしあたって危険性がないとしても華氏さんの書かれたように、何年も何十年もたってから問題が出ても、花粉が飛び散ってしまった後では取り返しがつかないところに不安を感じます。
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Unknown (華氏451度)
2006-01-22 01:03:05
あのー、私もGMは断固認めない立場ですので、感情的な反発はいたしませんが(笑)。



>「遺伝子組み換え作物」は「遺伝子組換え作物」と言って欲しい



どうも申し訳ありません。



そうですね、生物学の専門家はkaetzchenさんがおっしゃったようなことを心配しておられるようですね。文科系の私が知ったかぶりして書くことではないので遺伝子情報の伝播の問題は「組み込まれた遺伝子が他の生物に移行して……」程度のいい加減な記述で逃げておりました。そのあたりをきちんと説明していただき、ありがとうございます。



科学と技術の違い……も、おっしゃる通りです。私は自分では理解して使っているつもりでしたが、文章の前後の関係でそのあたりがいい加減になっておりました。汗顔の至りです。
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未知の危険 (レッツら)
2006-01-22 09:00:39
>科学が全能でないことも、レッキとした事実ではないか。



私もそう思います。かつて見たNHK教育のサイエンスアイだったと思いますが、人類が知っている物質は、宇宙全体にあると思われる物質の10分の1にも満たないなんて話もあったと思いますから。



と、書きながら、上のコメントを見させていただいて、私が書いている科学という言葉は「分科の学」でいまだに知られていない分野があるという意味で捉えていただけるとありがたいです。いまだに知られていない分野、いまだに知られていない危険、そういう分野がまだまだいっぱいありますよって言う意味で。
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なんどもすみません (ヘリオトロープの小部屋)
2006-01-22 11:46:53
以前アメリカでトリプトファンというサプリメントによる死者が出たことがありますが、日本のメーカーが原料のバクテリアの遺伝子に手を加えたことが原因だったということです。

倫理的に人間がどこまで遺伝子のようなものをいじってよいか、という問題もあります。

農薬と遺伝子組換え種をセットで販売しようという会社の戦略も気になります。生存権、地球全体にかかわることが利益優先でよいわけがありません。
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トリプトファンは…… (kaetzchen)
2006-01-22 19:24:56
ただのアミノ酸です(2-アミノ-3(3-インドリル)プロピオン酸)。皆さんの身体に含まれるタンパク質には必ず含まれていますが,ベンゼン環を持つこともあって,人間の体内で生合成することができない必須アミノ酸でもあります。トリプトファンは小腸から吸収されて肝臓に入ると,セロトニンを経てメラトニンへと化学変化します。このセロトニンがうつ病に効くということで,一時期幻覚剤の代用品としてインターネットで大量に輸入された事件もありました。



アメリカでトリプトファンをサプリメントとして摂取して死者が出た話は,もともとこれがアミノ酸ゆえ処方箋が要らない薬として大量に販売され,注意欠陥/多動性障害(ADHD)の子供たちや自閉症の子供たちや不眠症の人たちへ大量に与えられたのが発端になっています。トリプトファンから生合成されたセロトニンやメラトニンがこれらの発達障害児に有効だという医学的データが一人歩きをして,その原料のトリプトファンなら処方箋が要らないから安上がりに済むだろうという安易な考え方から発生した事件です。



また,日本の昭和電工がトリプトファンを大量合成して儲けようとして,バチルス・アミロリケファシエンスというトリプトファン産生菌の,トリプトファンを合成する情報が詰まった遺伝子を,同じバチルス・アミロリケファシエンスに組込むことで生産量を上げることに成功したのです。昭和電工はバチルス・アミロリケファシエンスの生合成能力に限界を感じ,同じバチルスの仲間である枯草菌(納豆菌の仲間)の遺伝子をさらに組込むことで,トリプトファンの製造能力を飛躍的にアップさせたのです。



ところが,昭和電工が製造したトリプトファンは60近い不純物が混じった代物であり,少なくともその不純物のうち2つの有機化合物が有害物質となって,好酸球過形成を伴う好酸球増多・筋肉痛症候群 (EMS; Eosinophilia-Myalgia Syndrome) を引き起こし,5000名ほどの犠牲者・患者を出してしまったという訳です。



逆に言うと,昭和電工の侵したミスは,この不純物をろ過して取り去るという単純な品質管理を怠ったことに原因があります。今回の牛肉に危険部位が入っていたのも,恐らく精肉工場で数名の職人さんが手を抜いて,さらに職長など管理職も知らぬ顔をしていた(どうせ Jap に食わせるんだから……)という,人的ミスが事件を引き起こしているのです。



一応,事実関係について,おさらいしておきますね。(^o^)

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華氏451さんのご意見に同感です。 (迫る”改憲⇒戦争”が怖くて仕方が無い三十路♂)
2006-01-23 00:19:47
はじめまして。こちらのブログには阿修羅掲示板経由で参りました。



華氏451様のご意見に全くの同感です。遺伝子組み換え作物の危険性はまだ表面化していないだけのことでしょう。できれば遺伝子組み換え食品が現在以上に本格的に流通する前にその危険性が一気に表面化し、遺伝子組み換え作物の流通及び生産自体が禁止されるような方向に向かってほしいものです。



(無論今後予想される地球規模の食糧危機等を考えれば止むを得ないような気もしてしまいますが、それでもその危険性を想像し、また研究等から判明した危険性を見聞きする限りでは、どうも受けいれる気にはなれませんので。)
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同感です! (スピリッツ)
2006-01-23 12:14:25
コメントありがとうございます。おっしゃること同感です!華氏451様のコメントとブログを拝見して若干書き直しました。今後ともよろしくお願いいたします。
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コメントありがとうございます (明月)
2006-01-24 10:08:47
華氏451度さん、こんにちは。TBできないですか。ごめんなさい。最近の記事は何も制限かけていないのですが・・・ fc2はやや不安定なような気がします。
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