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華氏451度

我々は自らの感性と思想の砦である言葉を権力に奪われ続けている。言葉を奪い返そう!! コメント・TB大歓迎。

「国家」に恩はない

2006-03-24 04:00:35 | 非国民宣言(反愛国心・反靖国など)
「国民たるもの、すべて国に世話になっている。その恩のある国を愛せないだの、守る気はないだの、否認するだのとほざくのはトンデモナイ奴だ」という類のことを言う人がいる。

だが、果たして私は「国に世話になって」いるのだろうか。「恩」があるのだろうか。それは私だって、これまでの人生でいろいろと「世話になったり」「恩を受け」たりしている。だが、私を世話してくれたり支えてくれたのは、具体的な「人」である。たとえば私は、自分の母親には恩も義理もある。夫を早く亡くし、働きながら2人の子供を育てるために辛酸を舐めたこと、そして子供達の言動(2人共ろくでもない、俗に言う親泣かせの子供であったのだ)を「私は自分の子供を信じています」と言って守り通してくれたことを思うと、未だに言葉に詰まる。場合によっては裏切るかもしれないが、恩や義理は生涯消えまい。しかしそれは母親という一個の女性に対する恩義であって、「○○家」に対する恩義ではないのだ。

以前のブログでも書いたが、我々が不自由なく生活していく上で何らかの枠組みやルールがなければ不便だから、一種の「必要悪」として創り出したに過ぎないもの――それが「国家」であると私は思っている。つまり「道具」である(そのことを書いた記事に対して、いろいろな方がコメントを寄せてくださった。装置、と呼ぶ方もあり、フィクションと呼ぶ方もあった。それらの言い方の方が正しい……というか、わかりやすいかも知れない)。

むろん、道具や装置やフィクションにも、人間は恩義を感じないわけではない。たとえば「針供養」(そういうものが存在するor存在した、ということを知っているだけである。私自身はやったことは勿論、見たこともないが……)。長年使ってきた針を、「世話になったね。ありがとう」とねぎらう儀式であろう。愛用のカメラ、包丁、鉋、などを撫でて「これのおかげで、オレはきっちりと仕事して来られたんや」と言うプロフェッショナルも決して稀ではない。これは道具ではないが、たとえば森などに「我々の暮らしを守ってくれてありがとう」と恩義の感覚(感謝の気持ち、と言うべきか?)を持つ人もいる。所属組織や装置に恩義を感じることもある。

だが、道具や組織や装置などに感じる恩義は、具体的な「人」に対するそれとは性質が違う。人に対する恩義の感覚は、ほとんど問答無用に近い(ときどき恩を押し売りする手合いがいるが、それは話が別。問答無用に近いというのは、無償の好意を与えられた時――のことである)。道具や組織や装置は我々に向かって、無償の好意に基づく自律的なふるまいをするわけではない。だから恩義を感じたとすれば、その恩義は観念が生み出したフィクションである。フィクションが悪いわけではない。人は常にフィクションを構築し、自らをそれに酔わせることで歩き続けてきた面もあるのだから。私は国境のない世界を夢想しているが、これだってある意味でフィクションである。そのフィクションを具現化したいという望みは、あるいは永久運動機械を作り出そうとする愚に近いのかも知れない。

(また話が逸れてきた……戻そう)

組織や装置や道具に対して感じる恩義は、個々人の心の中にある、いわば幻想である。思想(あるいは妄想)によって生み出された幻想に過ぎず、個々人が思っている分にはどうでもよいし、必死で広めようとするのも個人の勝手であるが、少なくとも他者に強要すべきものではない。

カメラなど純粋な道具なら、まだいい。山や森もいい。それらは我々に対して能動的な動きをしないから。しかし組織となれば話が違う。組織はまるで生き物のように育ち、所属するものを従属させ、恩義を感じさせようとする(むろん組織というものが、ではない。組織を動かす人間が、であるけれども)。厄介きわまりないと言ってよい。

私は「国に恩義はない」と思っているのである。所属していることで生活上の便宜はあるが(むろん不便もある)、それは当然のことだ。学校を出てからずっと、税金払っているのである(貧乏人なので、威張るほどたくさんは払っていないが……)。だから、恩義を感ぜよと強要されたくない。それを人、非国民よばわりする人がいれば、私はその人達に真剣に問いたい。「では、あなたにとって国家とはいったい何なのですか」と。「従属させられることに歓びを感じるような(ほとんどマゾヒズムではないか……)、すばらしい対象なのですか」と――。

コメント (11)
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