私のように黒い夜 | |
J・H・グリフィン | |
ブルースインターアクションズ |
ひさしぶりに本の紹介。最近、朝日新聞やPR誌の書評、それに文庫の解説の仕事が多くて、自分が読みたい本がなかなか読めなかったが、この本は久しぶりに強い読後感に打ちのめされた。先日、朝日新聞紙上で高野さんと対談した時に教えてもらった本だが、こんな名著のことを今まで知らなかったことを恥じ入るばかりだ。
この本は1959年に、白人である著者が人工灯による太陽光照射と薬物で肌の色を焼いて、つまりまるっきり黒人になりきって、当時人種差別の激しかった米国南部を旅した記録である。黒人になることで著者は白人の時にはまったく体験しなかった差別、嫌悪を体験することになる。
驚くべきことに当時の南部において黒人は公衆便所を使うことさえ認められていなかったらしく、トイレを求めて町を横断するといったことはざらだったらしい。バスや店先で浴びせられる汚いものを見るような視線、侮蔑的な罵声、人間を動物以下としか見なさない、白人に対する時からは想像もできない人種差別主義者たちの人間性の欠如を体験することになる。
これは絶対に白人だったら見えなかった、書き記すことのできなかった現実である。この時の対談は探検・冒険本特集で、高野さんはこれをそういう本の一冊として選んできていたのだが、著者は命の危険も感じているので、まさに冒険である。体を張って別の位相にある世界に切り込んでいくという意味では『狼の群れと暮らした男』に近いものを感じた。もちろん社会の不正義を告発しているのだがから、それ以上にジャーナリスティックである。