ざりがにの うたにっき

小さいざりがにが日々の事をだらだらと、
時に頭にお花を満開にさせて綴っています。
温かい心でお読み下さいませ。

ココア

2016-03-29 20:12:09 | お遊び小説 単発
ふと目を覚ましたら、
大方身支度を整えたキミが目に入った。









「もう行くの?」


「起こしちゃった?
まだ早いから寝てて良いよ」


「ううん、起きる。
すぐ出ちゃう?
何か少し食べていったら?」






「朝の会議の資料に目を通しておきたいだけなんだけど…
ちょっと緊張しててさ、ふふふ。
食べたら吐いちゃうかもしんないじゃん?」







「そんなに緊張するなんて珍しいね」








「ちょっとね…。
最初の山場の会議になるかなぁ。
ココ踏ん張ったら後は大丈夫だと思うんだけどさ」





「じゃあ、あったかいココアでも飲んでいきなよ。
すぐだから待ってて」



私は手早くカーディガンを羽織って、
牛乳を温めながら、ココアを少量のお湯で練り始める。








「ココア…?…甘いじゃん…」






「あ、嫌そうなオーラ出してる。
朝に甘いモノを取る方が、ちゃんと頭が働くんだから」


「そうなの?」


「そうなの!ほら、出来たから座って?
熱いから気をつけてね」


「オレ子供かよ…」


「あー!ネクタイ!カップに入る!」







「ふふふ、ダメだな、オレ」





キミは一口ココアをすすると、
両手でカップを包むように持って、大きなため息をついた。




「ココア飲んだから、きっと大丈夫」


「かな?」


「うん、大丈夫」







「だな。ふふふ。
じゃあ…、大丈夫なうちに行こうかな」





右手と右手を軽くタッチして、
鼻と鼻をツンとくっ付けて、



「ふふ、行ってらっしゃい」


「ふふ、行ってきます」





今日もキミは、
ふわりとした笑顔を見せて出掛けて行った。




***************




桜の便りが聞こえてくる季節。
私にも春が、LOVEが来たのだ




じゃ~ん







じゃじゃ~ん





キャンペーン、ホントにやってたのね~(*'∀'人)











コメント

私の顔、彼の顔

2015-07-19 12:15:59 | お遊び小説 単発
「もう会わない」

ゴツゴツした裸足の足に視線を固定したまま告げるだけ告げると、
急いで背中を向けて部屋を後にした。

自分がどんな顔をしているのか、
彼がどんな顔をしていたのかなんて、もうどうでも良かった。

ただ一刻も早く解放されたかった。

ただただこの寂しさを、
彼から離れることで消してしまいたかった。

後悔する暇もないくらいに、
私は一心不乱に前を見据えて早足で歩いている。
時々目の前が滲む気がしたから、化粧も気にせずゴシゴシ擦って視界をクリアにする。



後悔なんてしない。

彼と私っていう関係があるから寂しくなるんだ。

どうして彼は私と居るのか、
まつ毛が触れるほどの距離に居ても信じられなかった。
彼が私に、あんなに優しい目を向けてくれるはずが無い。



いつもそんな風に思っていた。


あの夢のような時間は、
本当は夢だったんじゃないのかと聞かれたら、
そう、あれは夢の中の出来事だったのだと思えてくる。


怖かった。


「どうして私と一緒にいるの?」


何度か口から溢れてしまいそうになる台詞を必死に飲み込んでいた。

もしかしたら彼にしたら、
私と一緒に居るっていう感覚ですら無いかもしれない。
彼からそんな風に言われたら、全てが終わってしまう。

現実を突きつけられるのが怖くて飲み込んでばかりいた。

飲み込んだ台詞は、私の中で溜まっていけばいくほど苦しさは増していく。

そして彼とのすれ違いの時間は、
苦しさを寂しさに形を変えていく時間になり、
その寂しさはどんどん膨れて、とうとう弾けてしまった。



目の前の信号が点滅して赤に変わった。
立ち止まりたく無かった。
私は歩みを止めずに、早足の勢いのまま左に曲がる。


「もう、どこ行くんだよ?」


背後から突然、耳に入り込んできた彼の声。

立ち止まりたく無いと思っていたのに、
反射的にビクッと肩が飛び上がるのと同時に足が止まる。



「勝手に言い捨てて話終わらせやがって、何なんだよ?もう。
気が済むまで好きにさせようかと思ったけど、あっち~し疲れたよ、俺。
だからほら、帰るぞ」

「いや。もう会わないって言ったんだから帰らない」


彼に見られたくないと思えば思うほど涙が頬を伝って、彼の顔がぼやけていく。


「いやじゃねーよ。帰るぞ」


いつの間にか彼との距離が縮まっていて、左腕を掴まれていた。


「やだ」


彼の手を振りほどこうと力を入れると、
掴まれた腕をグイッと引き寄せられて、
気付けば私は彼の腕の中に収まっていた。


「やだやだってうるせーなぁ、もう。
俺もやだだっつーの。
大体お前、俺のこと好きなくせに何なんだよ?
ほら、帰るぞ、もう」


彼はそう言うと同時に私の腕を引っ張りながら、来た道を戻り始めた。


「もう会わないって言ってるのに」


私の呟きに反応して歩みを止めた彼に抵抗するように腕を振りほどこうとしても、ビクともしない。


「だからぁ、何なの?
俺のこと好きなくせに、何訳のわかんないこと言ってんの?」


質問をしているくせに、私が答えられないと思っているのか、
また前を向いて歩き始めた。


「俺ね?今はきっと怒った顔してると思うんだよ。
だって俺の話を聞きもしないでさ、お前が勝手に話終わらせやがるから。
大体にして何なの?
何で俺のこと好きなのに会わないとかって、全然分かんないんだけど」


歩きながら振り返った顔は、確かに彼にしては珍しい怒った顔をしていた。


「さっきから私があなたの事を好きって話になってるけど」

「だって当たってるでしょ?
俺はお前のこと分かってるもん」

「……分かってないもん」


私の子供のようなその言葉で、怒り顏の眉毛が急に下がって、ひとつ自嘲するように小さく笑った。


「確かに、会わないなんて言われるとは思っても無かったから、分かってなかったのかもな。
お前にそんなことを言わせちゃったのも、俺だもんな」


掴まれていた腕は解放されたのに、回れ右をする事が出来ない。
彼は私の頬を流れる涙を手のひらで拭うと、
そのまま私の首の後ろに手を伸ばし、グイッと自分の方に引き寄せた。
いつもより少し早い彼の鼓動が響いてくる。


「お前は俺と会わなくなっても平気なのかよ?
確かに毎日なんて会えないし、忙しくて連絡も出来ない時も多いけどさ。
俺はお前に会いたくて仕方がないのに、お前は平気なの?」


平気な訳がない。
だってそれが寂しくて耐えられないから、あんな事を言ったのだから。


「俺はイヤだよ?
ずっとお前に会えなくなるなんて、考えたことも無い。
次に会える時間があるから我慢してるのに」


頭の上から彼の掠れた声が聞こえる。


「もう会わないなんて言うなよ」


背中に回された腕に少しずつ力が込められていく。

ポロポロと涙が溢れて上手く言葉を紡ぐことが出来ずにいた。
彼に抱きしめられているから、溢れる涙を拭うことも出来ない。


「なあ?聞いてんのかよ?」


不意に腕の力が緩められて、顔を覗かれる。


「おっまえ、ひっどい顔してるぞ?」


恥ずかしくて、慌てて彼のTシャツに顔を擦り付けて涙を拭った。


「あ!おっまえ何すんだよ、もう」


口では嫌がってる風だけど、泣いている子供をあやすように、
私の背中をポンポンしながら落ち着かせてくれる。


「ほら、ガリガリ君でも買ってやるから、もう帰るぞ」


そう言うと、私の右手に指を絡ませて、ゆっくりと歩き始めた。


「もう、お前にあんな顔させないから」


そう言いながら、繋がれた右手をギュっと握り締められた。


「そんな酷い顔してる?」


左手を頬に当てながら彼に確認する。


「ん?今じゃなくて。会わないって言った時の顔」


そう言って立ち止まると、繋いでいる私の右手にそっと唇をあてた。
気のせいだろうか、少し震えているように感じられる。
唇をあてたまま、私を真っ直ぐ見つめてくる。


「もう、あんな顔は見たくない」




私が、もう会わないと言い捨てた時、彼はこんな顔をしていたのだろうか。
私は彼に、こんな顔をさせてしまったのだろうか。

そう思うのと同時に、気付けば私は彼の腕の中に飛び込んでいた。


「ごめんなさい、……ごめん、ごめん」


彼は謝る私をしっかり抱きしめてくれた。


「ばーか。何でお前が謝るんだよ?」


どうして会わないなんて言えたんだろう?
涙が滲む瞼に、彼の温かい唇を感じる。


「ほら、もう帰るぞ。ガリガリ君が売り切れちゃうだろ?」


わざとぶっきらぼうに言いながら、
もう一度私の右手に優しく指を絡ませて歩き出した。
私も左手で涙をもう一度拭うと、彼の歩調に合わせて歩き出す。


「ガリガリ君は売り切れないよ」

「ばか、今日どんだけ暑いと思ってんだよ。
みんなガリガリ君食いたくなってるって」

「私はハーゲンダッツが良い」

「わがままな奴だな、お前は。もう何でもいいから行くぞ」

「うん」


バラバラに早足で歩いて来た道を、2人で並んで戻る。
これから2人で食べるアイスは、格別に美味しいに違いない。




***************


大野君の画像を使ったのは無理矢理だったなぁ。

ただ、TVはイカがペンキ塗ってくゲームとかに占領されてるし、
パソコンは、地球を守ってるんだか何かしてるし。

サッパリ私のしたい事が出来ないじゃないかー
って言うイライラを吐き出したくてね。。。

大野くん、いい迷惑だよね、ゴメンね
コメント

こんな会話をしてみたいと、思ったり思わなかったり思ったり。。。

2015-06-25 12:48:33 | お遊び小説 単発


『と! どこ行く?』



「どこへでもぉ」


右手で軽くガッツポーズをしながら答えた。


「またやってんのぉ?それぇ」


鼻で小さく笑いながら返される。

このCMを初めて見たときから、条件反射のようにテレビに向かって答えてしまう。
それを何度か目撃されているけれど、飽きれられるほどでは無いと思っていた。
最初の2~3回は、笑いながら一緒にやってくれていたし。


「なんか恥ずかしくなるからさ、俺がいない時に思う存分やってよ」


テレビのピンクな恰好とは真逆の、黒のTシャツ姿で片頬を上げながら言われた。


「たぶん、その辺の家のテレビの前とか、あっちこっちで同じことしてるよ、きっと」

「えぇ?そうなの?」

「そうなの」

「そうかぁ?ふふ。まぁでも、俺が見えてないなら良いか」


猫背気味の背中を少し伸ばして立ち上がると、
がに股で冷蔵庫に向かいながら顔だけ私に向けて、


「で?どこに行くか決めた?」


スタスタと戻ってきた手にはアイスが二つ。
食べるとは言ってないけど、当たり前のように手渡されれば、
自然に受け取って袋を開けてしまう。

丸々一日休みが取れる日があって、次の日も昼過ぎまで時間があるから、
二人でどこかへ行こうと少し前に話をしていた。


「色々と考えてはみたんだけど、なんかピンとこないんだよねぇ」


アイスを食べつつ、独り言のように答えた。


「連休だったら、ここみたいな所にも行けるのにな…。ごめんな」


ふと横を見たら、私が買っていたファッション誌を手にしていた。
今月号は夏のリゾート特集も載っていて、
高原での乗馬トレッキングや、南の島でのシーカヤック体験とか、
湖畔でパークゴルフとか、色々な遊びも紹介されていた。

知ってか知らずか、彼が開いていたのは、
一度は二人で行ってみたいと、私がじっくり眺めていた南の島のページだった。


「そんな謝らないでよ。
まぁ、いつか一緒に行けたら良いなとは思ったけど、今じゃなくて良いなぁって」


私が行きたい気持ちを我慢して言っていると思ったのか、
アイスを口にしたまま頭をポンポンとされる。


「本当にそう思ったの。そこはその内に行ければ良いかなって」

「そ?じゃあ、今度の休みはどこに行こうっか?」


フワッとした笑みを浮かべながら聞かれた。
つられて私も同じような顔をしていると思う。


「ここ」

「ここ?」


うんと頷いて、人差し指を下に向けて、


「ここ」


そうもう一度答えた。
言われた方は、口を半開きにして目を何度もパチクリとしている。
そして、ハタと気づいたように猫背を伸ばして、


「いや、大丈夫だよ?だって翔ちゃんも全然気づかれないでしょ?
お前が行きたい所に行こうよ」


いつもはのんびりフワフワ話すけど、
こうやって必死になってるときは流石に多少早口になる。


「うん、だからここなの」


私の答えに気が抜けたのか、再び猫背に戻る。


「それじゃあ普段と変わんないじゃんか」


ちょっと心外だと思ってるのか、軽く口が尖っている。


「全然違うよ?だって時間を気にしないで居られるでしょ?」

「時間?」


尖ってた口がいつもの位置に戻ったのを見て、ホッとする。


「だっていつもだと、お迎えの時間があるでしょ?」


声には出さずに、あぁと数日前のことを思い出したように頷いている。


「だけど、その日はお迎えの時間とか気にしないでダラダラ出来るから、
目的決めずにフラフラお散歩したり、お腹が空いたらご飯食べたりとか。
時計を見ないでもいい一日を満喫したいの」

「そういうことかぁ。
でも、本当にそんなんで良いの?」

「さっきからそれが良いんだって言ってるのに」


少し怒った素振りを見せると、
フフフって笑いながら悪戯っ子のような顔をして聞いてきた。


「それだと俺、釣りしたいって言い出すかもよ?」

「ちょっとくらいなら付き合ってあげても良くってよ?」


二人で笑いあいながら、お迎えまでの暫しの間、
そんな時間を過ごしていた。







***********************


なんちゃって~




今度はピンクのギョサンだー

コメント

会いたい (大野君を借りてお遊び)

2014-11-09 16:12:15 | お遊び小説 単発
窓の外はシトシトと雨が降ってきた。
時計を見れば、もうすぐ15時になるところ。

『そろそろ準備するかな』



自分の右側が空気に晒されて、急に寒く感じる。

『夜中までかかるんだっけ?』

多分ね~って言ってるのかな。
クローゼットに向かいながら、歯磨きしてるらしい。
モゴモゴした返事が返って来た。


夜中までかかるって、昨日のご飯の時に聞いてたから、ちゃんと覚えてる。

寝る前の『おやすみ』が、
今日は聞けないんだなぁって思ったら、
出て来ちゃっただけ。

それはよくある事なのに、
シトシト雨は、何だか寂しさを増すシチュエーションらしい。

ちょっと恨めしい気持ちで、窓の外の雨粒を眺めてみる。


これじゃ寒いかな、面倒臭くなってきた
とか、あっちはあっちで、何かブツブツ呟いてる。


『あ~、いてーなぁ』


さっきまでの呟きよりはハッキリ聞こえた。

何かしたのかと声の方を振り返る。

特に変わった様子は見られない。


『いてーなって、どうしたの?
ってか、いくら車でもさ、その格好は寒いんじゃない?』





『いーよ、面倒臭い。
どうせまた着替えるし』


そうだよね、
言った所で着替える人でもないしね。


『寒くっても知らないからね~』


自分は帰るだけだから、
のんびりコーヒーでも飲もうかと、
台所でお湯を沸かし始める。


『まだ時間あるならコーヒー飲んでく?』


『いや、一口だけちょうだい』

携帯にリップ、お財布をポケットに入れて、準備完了らしい。

煙草とライターを持ってベランダに出る。


コーヒーが入る頃、
丁度良く煙草の香りをさせながら戻って来た。


『あ~、いてーな』

『さっきからだね。どこが痛いの?』


淹れたてのコーヒーを一口すすると、
カップを私に寄越す。

ホントの一口だなと、カップに視線を向けてると、


『痛いんじゃなくて、
会いてーなって言ってたの。
そう聞こえない?
あ~、いてーなとぉ、会いてーな』


顔を上げると、
笑ってた顔が段々赤くなっていく。


『…恥かしいんですけど…色々と…』


ジワジワと
笑いと、恥ずかしさと、嬉しさで、
私まで熱くなってきた。


『俺まで恥かしいじゃん』

『自分で言ってて何言ってんの』


2人でくすくす笑ってる間に、時間が来てしまった。


もう一口と言って、
私の手も一緒にカップを持って、
ゴクリとコーヒーを飲む。


カップと私の手を持ったまま、


『明日も会いたいから、
帰らないで待ってて。』

『…え?』

今までも泊まった事はあるけど、
昨日も泊まったけど。

出掛けてる時に、1人で家で待っていたことは無かったから、
予想外でビックリしてしまった。


『寝てて良いよ、遅くなるから。
おやすみは言えないけど、
おはようは言えるから。
な?待ってて?』





私がビックリして返事が遅れてる内に、
段々眉毛が下がっていく。


『え?ダメなの?
ダメじゃ無いよね?』


『全然ダメじゃ無い。
いいの?待ってても?』


ふわっと左の頬に軽くキスされた。


『良いから言ったんでしょ。
変な間があるとビックリするじゃんか~』


時計を確認している左の頬に、
少し背伸びしてキスをする。


ふふって2人でまた笑い合って、
照れ隠しにコーヒーを一口ずつ飲む。


『じゃあ、いってらっしゃい』


『んふ。』

行ってきますの代わりに、軽く左手を上げて、出掛けて行った。


きっと、お互いに見えないけど、
2人とも『ふふ』って笑ってる気がする。


窓の外は、相変わらずのシトシト雨。
さっきよりも薄暗くて、
日が落ちるのが早くなった。

『どおりで肌寒いはずだ』


そう呟くけれど、
左の頬に手をやれば、ふんわり温もりを感じる気がする。


『あ~、いてーな。だって~。ふふ』

早く、あなたに会いたい。


コメント

怒ってるわけじゃない (大野君を借りてお遊び)

2014-09-30 10:49:37 | お遊び小説 単発

『なんか、怒ってない?』


『怒ってないよ?』

目の前に並べられている文庫本達を並べ替えながら返事をした。



『…ふーん…』



声の主をチラッと見ると、納得をしていない様子。


それはそうだよね。
久しぶりの2人の時間なのに、ほぼこんな調子なのだから。


本の並べ替えが終わってしまうと、
途切れた会話の後に続く沈黙が、何だか居心地が悪い。


いつもなら、そんなこと気にもならないのに。
今は沈黙に耐えられない。


『なんで?』


写真立てやシーサーが飾られている棚に手を付けながら、
意味の無い質問をする。

ただ、右から左に、左から右に移動するだけの、
別に今じゃ無くても良いような事を、順番にしてみたり。


そんな私の様子を、じーっと見ているような気配を感じて、
何だか悪い事をしているようで、やっぱり居心地が悪い。



『…だって、目を合わそうとしないじゃん』


だって、合わせたく無いんだもん


とは言えず、意味の無い片付けをお仕舞いにして、
コーヒーでも淹れようと台所に移動する。


そんな私に続くように、ゆらりと立ち上がる空気を感じて、
どうやらソファーに座ったらしい。

この何とも言えない2人の空気を作ってしまった私は、
少しの罪悪感から、ソファーが見えない位置でコーヒーの準備をしている。


『…怒ってるとは、違うんだよな、うん。
違うんだけど、なんか言いたいんだよね』


そんな独り言のような声が聞こえて、何とは無しに顔を上げて、
自分が思っていたよりも大きな声を上げてしまった。


『え?なにしてんの!?』





『だって顔が見えなくなっちゃったから』



私とは間逆のトーンで話している。



『顔が見えないからって…』



ビックリしてる私には構わず、話を続ける。


『俺ねぇ、なんとなくぅ…、何となくね?
お前が言いたい事、言いたい事って言うかぁ、
…分かってると思うんだよねぇ。』


私に視線を向けたまま、スッと起き上がってニットを直す。



『だけどさ、おれはそれをね?
お前の口から聞きたいわけ、ちゃんと』



『…言ってみろよ、我慢しないで』


久し振りに目を合わせたら、彼の言葉通り、見透かされてる気がする。
黙ったままの私を見ながら、ソファーから離れる。


『目、合わしてくれたと思ったら、
今度は口きいてくんないの?』


柔らかく笑みを浮かべて、台所に入って来ると、
ドリッパーにコーヒーフィルターをセットして、
私に粉を入れるよう促す。


コポコポとお湯が注がれて、湯気と一緒に良い香りが立ち昇り始めた。



『寂しかった?』


長く感じた沈黙を破って、質問された。
左肩に身体を、トン、トン、トンとぶつけて来る。

痛い訳じゃ無いのに、トン、トンとされる度に、
ポタポタと零れてきた。


『うん』


頷きながら返事をしたら、また、ポタ。



『そっか、寂しかったか』



『うん』


ポタポタを中指で拭って、
青いマグカップを渡して、自分の分を持って、ベランダに座る。


ペタペタと隣に来ると、
いつの間にか手にしていたマカロンを私に寄越して、
ヨッて掛け声をかけながら座った。



『んじゃあぁ、今からでも、
ちゃんと寂しいって、言ってよ』


今度は右肩をトンと押してくる。


『せっかく止まったのに…』


左目をキツネ目にしながら拭っていると、
右目を同じように引っ張られた。



『ふふっ。ほれ、言ってみな?』



キツネ目の私を笑ってる訳では無いようで、
優しい目で受け止められた。


『お仕事、忙しいじゃない? ずっと。
お休みも取れないくらい…』



ポタポタと零れるのは、もうそのままにして、
目を合わせては、下を向いて、また、目を合わせて、
ポツポツと話す。


『そうだねぇ。うん』


『お仕事だから、仕方が無いし。
こうしている時も、頭の中で、お仕事してる時もあるのは、
それだけ、忙しいんだろうなぁって、分かってる、つもりなの』


顔を上げた時は、必ず目が合う。
さっきと同じ、優しい目。


『うん、そんな時もあったねぇ』


否定はしないし、声までも優しい。


『だから、邪魔しちゃダメだって、分かってる、うん』


顔を上げたら、そっと目尻の涙を拭ってくれた。

拭ってくれてるのに、さっきよりもポタポタが増えるからか、
眉毛をハの字にして笑ってる。


『だけど、寂しくて、、、不安なんだもん』


そこまで言った所で、ゴロンと転がって、
下から見上げられた。




『そうやって泣いてた?』


『…なんで、、、さっきより、笑って、るの?』



『ふふ。ごめん、確かにちょっと酷いね? 俺。
んふふ。でもさ、なんか嬉しいんだよね』


『嬉しいの?私は寂しかったのに…?』




『だってさ、それって、俺のことばっか考えてるって事でしょ?』


耳の後ろが一気に熱くなって、
多分、耳だけじゃなくて、顔も赤くなってる気がする。


『ばっかって事は、無い、もん』


ソファーに移動して、テーブルの下に積み重ねてあった雑誌を
忙しなくパラパラとしてみる。


青いマグカップをテーブルに置いて地べたに座り、
私と同じように、積み重なってた雑誌をパラパラしている。


『寂しかったのはさ、俺も、同じだよ?』


雑誌をめくりながら、話し出す。


『俺も、寂しいなぁって思うし、会いたいなぁって思うし』


フッと顔を上げて、私の目を見ながら、


『俺も、おんなじなの。覚えてて?』



普段から優しい目だと思っていたけど、
更に優しく感じる。



『うん』



ゴメンとは言わない。
でも、私と同じって、言ってくれた。

気のせいか、耳が少し、赤くなってる。
私と、同じ。


寂しかったのが、嘘みたい。
何が、不安だったんだろう?って不思議に思えてくる。




何冊目かの雑誌を、読んでるのかも分からない、パラパラしながら、
また次の雑誌をパラパラとしている。



『あのさぁ、全部、同じ人が載ってるよね?
これも、これも、そっちも』


並べられた、同じ人が表紙の雑誌。



『あぁ、たまたま。
バス待ってる間とかに…、本屋さんで見かけて…』


『たまたま? 見かけて?』


そう言って上げた顔は、
さっきまでの笑ってるのとは、ちょっと、違う。


『うん、たまたま…ちょっとカッコ良いって言うか、
雰囲気がね?良いかなぁ…とか、思って…

なんか、怒ってない…?』


『怒ってないよ?』




コメント

ウェブベルマークで被災地の学校を支援しよう

「ウェブベルマーク」は、ウェブショッピングで行うベルマーク運動です。 協賛会社のウェブサイトで通常価格でお買い物をします。 利用に応じて支援金が協賛会社から被災校へ届けられます。 興味のある方はブックマークよりどうぞ。