小説

統合失調症

2018-06-15 17:44:20 | ライティング
第六章 抗生物質に耐性を持った細菌たち

抗生物質は対バクテリアの武器として、非常に効果的な物であった事は前述の通りだ。
ではバクテリアは抗生物質を前に、成す術なく散っているのであろうか。
抗生物質によってバクテリアは絶滅してしまったのだろうか。
答えはNOだ。

いかに抗生物質が効果的な武器であるとしても、広い生物界においては限定的と言わざるを得ない。
どういう事かをなるべく簡単に説明すると、多くのバクテリアは細胞壁という物を細胞に持っている。いわば外殻だ。
この細胞壁を破壊する抗生物質を使えば、特定の構造を持った細胞壁は破壊され、バクテリアは死ぬ。浸透圧の関係で破裂してしまうのだ。
細胞が破裂するような物を人間に対して使っても大丈夫なのだろうか。
それは大丈夫。
なぜなら人間の細胞は、バクテリアのように細胞壁を持っていないからだ。
植物は細胞壁を持ってはいるが、バクテリアの細胞壁とは全く構造が違うから安心だ。

しかし、バクテリアの細胞壁と一言で言っても、構造の異なる細胞壁を持っているグループもある。
更に言ってしまえば、バクテリアにも関わらず細胞壁を持っていないバクテリアもいる。
こうなると、特定の細胞壁を合成阻害する抗生物質も、ただの水と変わらない。
抗生物質は万能薬ではなく、特定の機構を阻害するだけのものだからだ。

更にバクテリアは進化をした。
有名な話で言うとMRSAと呼ばれるバクテリアが出現した。
メチシリンという抗生物質に抵抗性を持った黄色ブドウ球菌だ。
彼らは拡張型ベータラクタマーゼと呼ばれる酵素を産生する事ができ、ベータラクタム環構造と呼ばれる分子構造を持った抗生物質を無力化する能力を持ってしまったのだ。
多くの抗生物質が開発され、MRSAを殺す事の出来る抗生物質も次々と誕生してきた。
バンコマイシンもその一つとされ、MRSAに対してはバンコマイシンを使う事で問題を回避出来ると思われた。

しかしバクテリアの進化は人間の想像を遥かに超えた速度で起こり、あっという間にVREと呼ばれる細菌が出現した。
バンコマイシン抵抗性腸球菌と呼ばれる。

とにかく細菌の抵抗性を獲得する速度は早い。早過ぎて薬の開発が追いつかないほどに早い。
近縁のバクテリア同士で、その抵抗性を伝播したり、遺伝子をやり取りしている事は分かっている。
接合といって、いわばバクテリア同士の交尾と言えるような行動や、プラスミド交換といわれる遺伝子のやり取りをする事も確認されている。
最も、接合によってプラスミド交換を行っていると考えるのが妥当といえるかもしれないのだが・・・。
他にも色々な方法で遺伝子の情報を交換している可能性もある。


では全てのバクテリアは、全ての抗生物質に対する抵抗性を持ってしまったのだろうか。
実はそんな事は全く無い。
むしろ抗生物質に対する抵抗性を全く持ってないバクテリアの方が勢力的には優勢なのだ。
生物界と言うよりも、自然という物は実に興味深いと思う。

例えば抗生物質の抵抗性を獲得するという事は、その分の遺伝子を獲得したといえる。
遺伝子を獲得したという事は、遺伝子が長く伸びたと考えられないだろうか。
ほんの数十個かそこらの遺伝子を獲得したとしても、数千回も数万回も分裂・増殖を繰り返すバクテリアにとっては、大きな時間のロスとなってしまう。

1回の増殖に0.00001秒遅れが出てしまえば致命的だ。
自然環境は、たったそれだけの遅れをも許容はしない。
弱者は駆逐されるのが自然環境であり、ある意味で容赦は無い。
抗生物質の抵抗性を持たないバクテリアは、抗生物質の抵抗性を持つバクテリアの増殖する場所を潰し、栄養素も食い尽くしてしまう。
その結果、抗生物質に抵抗性を持ったバクテリアが優勢になるのは、その抗生物質が存在する限定的な環境下だけになる。
だから人間の生活圏に近いところでは、抗生物質に抵抗性を持ったバクテリアが多く見られる。
逆に人間の生活圏から離れれば、抗生物質に抵抗性を持つよりも、そこの環境に適したDNAを持っている方が有利になるという仕組みだ。

本当に自然界はよく出来ていると何度でも思ってしまう。

しかしながら、生まれながらにして様々な抗生物質に対しての抵抗性を持っているバクテリアや、病原性を弱める事と引き換えに人間の生活圏に近く繁殖してきたバクテリアもいる。

日和見感染といって、健康な人間にも感染はするが、ほとんどと言って良いほどに問題が起こらないバクテリアの感染がある。
しかし様々な病気や老化によって免疫力の低下した人間に害を及ぼす事もある。
免疫力があれば問題は無いが、免疫力が下がっていると致命的になるバクテリア。

著名な芸能人の多くもAIDSによって命を落としてきた。僕の好きなバンドのボーカルもだ。

抗生物質が効かないバクテリアと戦わなければならない時代に突入したと言えるかもしれない。
時代の進化と共に、人間が手にした抗生物質という究極の武器も、一般化した廉価版の武器に成り下がった可能性もある。
いや、人間がその使い方を間違ってしまったのかもしれない。
もしも次に究極の武器を手にしたのならば、その使い方を間違えないように気をつけていきたいものだ。
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