小説

統合失調症

2018-06-15 17:44:20 | ライティング
第六章 抗生物質に耐性を持った細菌たち

抗生物質は対バクテリアの武器として、非常に効果的な物であった事は前述の通りだ。
ではバクテリアは抗生物質を前に、成す術なく散っているのであろうか。
抗生物質によってバクテリアは絶滅してしまったのだろうか。
答えはNOだ。

いかに抗生物質が効果的な武器であるとしても、広い生物界においては限定的と言わざるを得ない。
どういう事かをなるべく簡単に説明すると、多くのバクテリアは細胞壁という物を細胞に持っている。いわば外殻だ。
この細胞壁を破壊する抗生物質を使えば、特定の構造を持った細胞壁は破壊され、バクテリアは死ぬ。浸透圧の関係で破裂してしまうのだ。
細胞が破裂するような物を人間に対して使っても大丈夫なのだろうか。
それは大丈夫。
なぜなら人間の細胞は、バクテリアのように細胞壁を持っていないからだ。
植物は細胞壁を持ってはいるが、バクテリアの細胞壁とは全く構造が違うから安心だ。

しかし、バクテリアの細胞壁と一言で言っても、構造の異なる細胞壁を持っているグループもある。
更に言ってしまえば、バクテリアにも関わらず細胞壁を持っていないバクテリアもいる。
こうなると、特定の細胞壁を合成阻害する抗生物質も、ただの水と変わらない。
抗生物質は万能薬ではなく、特定の機構を阻害するだけのものだからだ。

更にバクテリアは進化をした。
有名な話で言うとMRSAと呼ばれるバクテリアが出現した。
メチシリンという抗生物質に抵抗性を持った黄色ブドウ球菌だ。
彼らは拡張型ベータラクタマーゼと呼ばれる酵素を産生する事ができ、ベータラクタム環構造と呼ばれる分子構造を持った抗生物質を無力化する能力を持ってしまったのだ。
多くの抗生物質が開発され、MRSAを殺す事の出来る抗生物質も次々と誕生してきた。
バンコマイシンもその一つとされ、MRSAに対してはバンコマイシンを使う事で問題を回避出来ると思われた。

しかしバクテリアの進化は人間の想像を遥かに超えた速度で起こり、あっという間にVREと呼ばれる細菌が出現した。
バンコマイシン抵抗性腸球菌と呼ばれる。

とにかく細菌の抵抗性を獲得する速度は早い。早過ぎて薬の開発が追いつかないほどに早い。
近縁のバクテリア同士で、その抵抗性を伝播したり、遺伝子をやり取りしている事は分かっている。
接合といって、いわばバクテリア同士の交尾と言えるような行動や、プラスミド交換といわれる遺伝子のやり取りをする事も確認されている。
最も、接合によってプラスミド交換を行っていると考えるのが妥当といえるかもしれないのだが・・・。
他にも色々な方法で遺伝子の情報を交換している可能性もある。


では全てのバクテリアは、全ての抗生物質に対する抵抗性を持ってしまったのだろうか。
実はそんな事は全く無い。
むしろ抗生物質に対する抵抗性を全く持ってないバクテリアの方が勢力的には優勢なのだ。
生物界と言うよりも、自然という物は実に興味深いと思う。

例えば抗生物質の抵抗性を獲得するという事は、その分の遺伝子を獲得したといえる。
遺伝子を獲得したという事は、遺伝子が長く伸びたと考えられないだろうか。
ほんの数十個かそこらの遺伝子を獲得したとしても、数千回も数万回も分裂・増殖を繰り返すバクテリアにとっては、大きな時間のロスとなってしまう。

1回の増殖に0.00001秒遅れが出てしまえば致命的だ。
自然環境は、たったそれだけの遅れをも許容はしない。
弱者は駆逐されるのが自然環境であり、ある意味で容赦は無い。
抗生物質の抵抗性を持たないバクテリアは、抗生物質の抵抗性を持つバクテリアの増殖する場所を潰し、栄養素も食い尽くしてしまう。
その結果、抗生物質に抵抗性を持ったバクテリアが優勢になるのは、その抗生物質が存在する限定的な環境下だけになる。
だから人間の生活圏に近いところでは、抗生物質に抵抗性を持ったバクテリアが多く見られる。
逆に人間の生活圏から離れれば、抗生物質に抵抗性を持つよりも、そこの環境に適したDNAを持っている方が有利になるという仕組みだ。

本当に自然界はよく出来ていると何度でも思ってしまう。

しかしながら、生まれながらにして様々な抗生物質に対しての抵抗性を持っているバクテリアや、病原性を弱める事と引き換えに人間の生活圏に近く繁殖してきたバクテリアもいる。

日和見感染といって、健康な人間にも感染はするが、ほとんどと言って良いほどに問題が起こらないバクテリアの感染がある。
しかし様々な病気や老化によって免疫力の低下した人間に害を及ぼす事もある。
免疫力があれば問題は無いが、免疫力が下がっていると致命的になるバクテリア。

著名な芸能人の多くもAIDSによって命を落としてきた。僕の好きなバンドのボーカルもだ。

抗生物質が効かないバクテリアと戦わなければならない時代に突入したと言えるかもしれない。
時代の進化と共に、人間が手にした抗生物質という究極の武器も、一般化した廉価版の武器に成り下がった可能性もある。
いや、人間がその使い方を間違ってしまったのかもしれない。
もしも次に究極の武器を手にしたのならば、その使い方を間違えないように気をつけていきたいものだ。
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2018-06-11 10:53:11 | ライティング
第四章 細菌も進化し続ける

バクテリアは生命体である。自分の遺伝子を後世に残す為に様々な努力をし、様々な進化を続けてきた。
バクテリアの敵は何もファージだけではない。
ファージやカビは当然の事ながら、他の微生物の餌になることもあれば、同じくバクテリアと生存競争をしている場合もある。

バクテリアは近縁のバクテリアを敵とみなす傾向があるといわれる。
どういうことかと言えば、近縁のバクテリアは増殖場所におけるライバルであって、
自分が増殖する為に必要な養分や場所を奪い合わなくてはならない。
もちろん、自分の方が早く増殖出来れば話は早いのだが、なかなかそうもうまく行かない。

そのためにバクテリアはバクテリオシンと呼ばれる毒素を放出して、近縁のバクテリアの発育を阻害する。
物理的に勝てないならば化学的な攻撃という訳だ。
こうしてバクテリアはシェアを維持し続けている。

こう書いてみると、バクテリアは非常に強い印象を受けるが、常に他の影響を強く受け、そして死と向き合っている。
例えば人間が必要以上に手を洗えば、それだけでも表皮フローラは致命的なダメージを受ける。
これは細菌だけではなくカビやその他の微生物にとっても同じだが、そのような致命的なダメージからも復活をし、
そしてフローラを再構築する力をバクテリアたちはもっているのだ。


バクテリアが単細胞生物としてこの地球上に生まれてからと言うものの、かなりの長い間彼らが世界の中心だったと言っても過言ではない。
私たち人間の目に映りすらしないミクロの世界で、圧倒的な破壊や圧倒的な創生、圧倒的な種の維持が起こっていた。
ヒンディでいうところのトリムールティに近いのかもしれない。
もっともヒンズー教について何も知らない私なのだが・・・。


そうしてミクロの世界ではバクテリアとアーキア、そしてファージが戦いを続けている。
この表現だとバクテリアとアーキアは仲が良さそうに見えるが、本当のところは仲が悪いのではないかな、というのが僕の見方だ。
お互いのテリトリーを全く別の世界にする事で、地球上においての共存が出来ているけれども、そもそも仲が良ければ一緒に暮らせば良い訳だ。
しかしアーキアについても良く分からない部分が多くて、推測の域を出ない事は確かだ。
バクテリアに寄生していたり、もしくは共生しているアーキアもいるかもしれない。
特定のバクテリアがいないと生存出来ないアーキアや、特定のバクテリアの産生物をエサにしているアーキアがいたっておかしくない。
これからの研究で様々なことが分かってくるだろう。

バクテリアもアーキアも生物である事には変わらない。
私たち人間生活であっても、例えば外気温が上がれば空調機で調節をするし、外気温が下がれば服を着る。
人間の場合には体温の調節という物が重要になってくるけれども、バクテリアの場合には分裂、つまり生存の為の至適温度というものがある。
やはり地球上の平均的な温度、20-30℃で発育するバクテリアは多いようだ。
例えば人間と共に生きているバクテリアであれば35℃程度が過ごしやすい温度と言われている。

人間は長い経験から、冷蔵庫などの冷所に食料を保存すれば腐らない、腐りにくい。と知っている。
ほとんどの食中毒菌は冷蔵庫の温度では生存出来ないのだが、バラエティに富んだバクテリアの世界では、
その温度でも分裂して生存出来るバクテリアもいる。
Listeria monocytegenesなどが代表的で、一応、食中毒を起こすバクテリアとしても教科書には載る。
ただし、あまり特筆すべき症状が無い上に、ほとんど死者を出すような食中毒は引き起こさないとされていて、フォーカスが当たる事はあまりないだろう。
ともあれ、冷蔵庫の中でも発育できるバクテリアはいる。とだけ記憶の片隅に置いておけば良いと思っている。



第五章 人間が手にした抗生物質という武器

1928年に、アレクサンダー・フレミング博士が発見したペニシリン。
Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)を化膿した傷口から分離して、なんとか化膿に対する薬を作れない物かと研究をしていた博士だが、
ペニシリンを発見しようとして発見した訳ではなく、ペニシリンは本当に偶然が生んだ発見であると言われる。
休暇の際に窓際にバクテリアの培地を置いてしまい、休暇から戻ると培地にアオカビが生えていた。
折角の研究材料もカビが生えてしまえばゴミ箱へ直行だが、博士はふと培地を見て、青かびの生えている周囲には黄色ブドウ球菌が繁殖出来ていない事を発見した。

アオカビのコロニーの周りに等円状に抜けた培地を見た博士は、相当に驚いたと容易に推測出来る。
つまり、アオカビは黄色ブドウ球菌の発育を阻害、もしくは発育した黄色ブドウ球菌を殺す物質を産生している可能性があったからだ。
特定のバクテリアを培養する際に、そのバクテリアに対して抗生物質が効果あり、なしを判定する試験を、薬剤感受性試験と呼ぶのだけれども、感受性つまり薬剤が効く場合には、綺麗な円状にバクテリアの繁殖出来ない部位が出来るので、僕はあれを見るたびに美しいと思ってしまうのだ。

アオカビの抽出液を濾過して、有効成分を分離する事が出来た。
それが世界で初めての抗生物質ペニシリンだ。
もっとも、ペニシリンが医学界で認められて、薬剤として使用されるようになるまでには時間を要したが、認知されてからという物の、その特効薬的な強烈な効果からも、人類は対バクテリアに対する強烈な武器を手に入れる事となった。

アオカビはPenicillium属という区分のカビだったので、ペニシリウム+化合物in=ペニシリンという呼び名になったのだが、
ペニシリンが認知された後には、様々な細菌やカビ、動植物が抗菌作用を持っている事が次々と発見され、新しい抗生物質が次々と作られていった。


人間は対バクテリアに対する最終兵器を手に入れたと考えた。
長年バクテリアは人間の脅威となっていたのだ。例えばほんの掠り傷が致命傷になったり、生水を飲む事で命を落としたり、そのようにしてバクテリアは人間の生命を脅かしてきた。
15世紀にヨーロッパで流行したペスト菌(Yersinia pestis)が引き起こす全身疾患ペストは、当時のヨーロッパでは黒死病と呼ばれ、人口の1/3に及ぶ人間を死に追いやったという歴史がある。

余談だが、ペスト菌は腸内フローラにいるバクテリアではないが、腸内細菌科のバクテリアだ。
これは前述の通り、腸内にいるから腸内細菌!!と簡単に思いついてはいけないという事が言える。
急いては事を仕損じるというべきなのか、何でも単純に考えると、僕のように単細胞な人間と呼ばれてしまうのだ。


人間は抗生物質という対バクテリアの最終兵器を発見し、様々なタイプの抗生物質をつぎつぎに発見をしていった。
凡そバクテリアと呼ばれる物は、人間にとっての脅威では無くなったと言える。
最終兵器は、その利便性から色々な用途に使われ、そして人間に多くの知恵と力を授けた。

第一次世界大戦の時のように、掠り傷で命を落とす事はほとんどなくなった。
生水を飲んでも命までは取られなくなったと言える。

人間は風邪を引いた時にも、肺炎の予防のため安易に抗生物質を摂取したり、例えば畜産業界であれば病気を予防するために家畜に抗生物質を投与するようになった。
もちろん都市伝説として、家畜の腸内フローラを破壊すると成長が早くなり、大きく育つ・・・らしいという話を聞いた事はあるが、いかんせん僕にはその知識を検証するだけの能力が無いので、ここでは都市伝説としておいた。


人間はバクテリアを制圧する事が出来たのだろうか。
抗生物質があればバクテリアは怖くもないのだろうか。

ところが38億年もの間、生き続けているバクテリアに隙は無かった。
ペニシリンが発見されて100年弱という時間は、38億年に比べては短すぎたのだろうか。
様々な抗生物質に対して抵抗性を持つバクテリアが次々に確認され、免疫力の落ちた人の命取りになるケースも多々ある。

次章では抗生物質に対して抵抗性を持ったバクテリアのお話をしたいと思う。
つまりバクテリアVSファージではなく、バクテリアVS人間の100年戦争という考え方で良いかもしれない。

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38億年戦争

2018-06-04 12:45:28 | ライティング
38億年戦争
~僕とファージと細菌と~

・前書き

生命って何だろう。
僕は、ふと通勤の込み合った歩道で思い浮かべた。
何を以ってして生きているというのか、何を以ってして死と呼ぶのか。

僕たち人間は目に見える物をどうしても重視してしまう。
それは当たり前の事だけれども、目に見える物だけに考えが行ってしまえば、
これだけ大きな世界、たくさんの生命や無生命が存在する地球を楽しめないんじゃないだろうか。

確かに人間の大きさから見れば、人生80年とも言われるこの人生をいかに全うするかを注視すべきだろう。
僕だってただの一個人に過ぎない訳で、80年も生きれば灰となる。
けれども僕たちが1歩歩くごとに、1呼吸するごとにも失われ、そして生まれてくる生命がある事を僕たちは意識していない。

生命って何かを考えたとき、僕たちの中にもとてつもない生命が生きている。
人生80年からすればほんの数秒、ほんの数分で生まれては失われる生命が生きている。

たった一瞬の生命の為に死闘を繰り返している彼らの事を考えると、僕は筆を取らざるを得なかった。

僕たち80年の人生から見れば一瞬で終わる生命の宿命を掛けて、およそ38億年という長い時間を掛けて戦争をし続けている彼らだ。

バクテリア(細菌)VSバクテリオファージ

彼らは単細胞生物が地球上に生まれてから、すぐと言っていいであろう時間で誕生し、それ以降戦争をしている。
僕が一瞬と捉える時間を積み上げて、永遠とも言える38億年もの間、戦い続けている彼らの世界。
何の為に戦い、何の為に生きるのか。
ほんの少しだけミクロの世界を覗いてみたいと思った。



第一章 生物ってなんだろう

いきもの、なまもの、せいぶつ、色々な読み方がある生物ではあるけれど、
まさかこの執筆の中で刺身の鮮度が云々という話をする訳もなく、当然”せいぶつ”と読む。
でも、”せいぶつ”と読んだとしても、意味が漠然としすぎていてピントが合わない感が否めない。
そこで僕は、ここでの生物を生命体と置き換えてみたいと思う。

人類は長い研究において、生物の定義というものを多数定義してきた。
それらの定義からすれば、僕という一個人は生命体であろう。
この駄文を読んでくださっている読者の方も、ほぼ生命体であろうと思う。

せっかくの第一章ではあるし、少しだけ中学校の生物の授業を思い出してみよう。

ミクロの世界には色々な生命体がいるけれど、細菌(バクテリア)ってのは非常に身近かもしれない。
生きて腸まで届く乳酸菌、地球上で最強の毒素を持つボツリヌス菌、食中毒でおなじみの病原性大腸菌、
はたまた毎朝の食卓に欠かせない納豆菌なんてのも細菌だ。

でも、こんな事を言ってしまえば元も子もないが、今たとえ話で挙げた細菌なんてのはTVに出てくる有名人と同じようなもので、
ほとんどの細菌は無名に等しいし、無名だけれども一生懸命に生きている。
ほとんどの人間は無名に等しいし、名前はあるけれども一生懸命に生きているのと一緒だ。
教科書に載るような有名な細菌は、細菌界ではスーパーヒーローであり、超エリートなのかもしれない。
おおよそ99%以上の細菌は名前も知られないし、人間ともほとんど関わりを持っていないと言われる。
せめて人間と関わっているならば色々とお話も広げられるかもしれないが、仕方ない。
ここで病原性細菌を羅列したところで何の意味もないし、疲れるだけだから。

ミクロの世界にはバクテリアがいる。
多くの方が知っているであろうミクロの住人には、ファンガス(カビ)がいる。
カマンベールチーズやブリーといった、チーズにも欠かせないカビや、醸造にも欠かすことが出来ないカビも多数存在する。

再度の記述になってしまうけれど、人間と関わりのあるカビはほんの少数で、99%以上のカビはどこぞでひっそりと生活をしている。
人間との接点が無いから良く分からない。細菌と同じで、もしかしたら凄く有用なカビがいるかもしれないし、もしかしたら猛毒なカビも多数見つかるかもしれない。


細菌に非常に良く似た姿形をしているけれども、そもそも細菌界の住人では無い奴等もいる。
似てはいるものの、遺伝的には非常に大きく離れている生命体だ。
名前はアーキアと呼ぶ。一昔前は古細菌なんて呼び方もあったけれど、今はアーキアで統一されている。
極限環境耐性菌なんて言い方も一般的かもしれない。

彼らは人間がとても生きていく事の出来ない環境、例えばメタンガスの中だったり、超高温、超高塩濃度、そんな中で生活をしている。
紫外線に対して抵抗力のある奴等もいるし、もしかしたら放射線の中でものんびり暮らせるようなアーキアがいたとしても不思議ではない。
何せ人間がとても踏み入れる事の出来ない環境で生活しているから、研究があまり進まないという側面がある。
深海に住んでいたり、火山に住んでいたりする事は分かっているけれど、どうやって生きているのかはよく分かっていない。


バクテリア、カビ、アーキアと来ると、ミクロの住人にはウィルスが残っている。
実はこのウィルス、生物の定義からすると生物ではない。
自己複製能力を持っていないから生物ではないとする説が一般的だ。
しかし死んでいるのかといえば死んでもいない。

生物ではないけれども、無生物(物質)でもない。
生物と無生物の定義の合間に生きる(?)者だ。
もっとも生物の定義なんて物は、所詮人間が決めた物であって、彼らにとっては何の意味もないかもしれないと言える、かもしれない。
あまりにも不思議だし、あまりにも人知の及ばない所で生命の削り合いをしている彼らを理解するには、もっと多くの時間が必要だろう。

ウィルスには大きく分けて、遺伝物質にDNAを持っているDNAウィルスと、遺伝物質にRNAを持っているRNAウィルスとに分けられる。
よく話に出るインフルエンザウィルスは、遺伝物質がDNAなのでDNAウィルスと呼ばれる。
インフルエンザの薬に関する話はここでは割愛しよう。
これを話出すと朝まで止まらなくなってしまうからだ。

さて、RNAウィルスとして代表的な物にはHIV(ヒト免疫不全症候群ウィルス)がある。
血液を介して感染するウィルスで、感染力は大して強くない物の、CD4という抗原を持つリンパ球に感染して、破壊をしていく。
ヒトの免疫にとって重要なリンパ球を破壊されてしまうので、AIDSと呼ばれる病状が発現してしまうという筋書きになる。


今回のお話で主役となるウィルスは、バクテリオファージというウィルスで、遺伝物質にDNAを持つからDNAウィルスの一種になる。
ただ、このファージと呼ばれるウィルスはバクテリアもしくはアーキアを殺して自分を複製する事に特化していて、少なくとも人間に現状で害を与える物とは言い難い。
もしかしたら人間に害を与えているのかもしれないし、これから害を与える存在になるかもしれないが、それを誰にも分からない。


ミクロの世界の住人は私たちの目には見えない。けれども生命活動をしていて、そこで凄まじい戦闘行為と防御行為が繰り返されている。
単細胞生物が誕生した38億年前から、この戦争は現在まで続いている。
将来的にどうなるだろう。
これは僕たち人間が介する事で大きく変化するかもしれない。
もしかしたら変化すらしないかもしれない。
こればっかりは分からないとしか言えない事だろう。

この第一章ではミクロの世界に生きる(?)生命体について掻い摘んで話をしてみた。
次の章からはもう少し掘り下げて話が出来たら楽しい読み物になるだろうか・・・いささか不安ではある。



第二章 細菌は人類にとって仲間か敵か

僕が学生の頃、何を血迷ったのかヒトの血清とヒトのウンコを混ぜた事があった。
ヒトの血清には抗体と呼ばれる物が存在して、外敵に対する免疫として働くのだけれども、
自分のウンコの中に敵はいるのかな?といった何気ない疑問からの行動だ。

その結果としては、ウンコは凝集した。つまりウンコの中にいるバクテリアに対してヒトは抗体を持っているということが分かったのだけれども、じゃあどうして抗体を持っているのかという疑問にぶつかる。

私が当時立てた仮説はこうだ。
お腹の中にいるバクテリアは腸から血管に入って来られない様に、ヒトの免疫でばっちり防御されているということ。
そして普段からそうした訓練をしておく事で、いざ病原性バクテリアが侵入してきた時の予防をしているのであろう。ということだった。

バファリンの半分は優しさで出来ているというが、ウンコの半分はバクテリアとその死骸で出来ていることは良く知られている。

お腹の中には多数の細菌がいて、人間が分解出来ないものを分解して栄養に変化させたり、悪いバクテリアがきた時にも増殖を抑えるなど、人間にとって欠かすことの出来ない仲間が多数いる。

腸内にいる細菌たちのことを腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)と呼ぶのだが、腸内にいる細菌だからといって”腸内細菌”が~~などというと、鼻高々な人達に突っ込まれてしまう可能性もある。
腸内細菌というのは腸内細菌科と言って、分類学上では必ずしも腸内にいる物とは限らないからだ。

・グラム染色という染色で陰性
・細長い形をしている
・硝酸を還元して亜硝酸にする
・酸素があってもなくても生きられる

とまぁ、代表的な4つを抑えておけば大丈夫かと思うけれども、これらの定義に当てはまるものを腸内細菌科のバクテリアと呼ぶ訳で、腸内にいるからといって腸内細菌科という訳ではないのだ。
確かに腸内フローラ(細菌叢)に存在する腸内細菌科のバクテリアは腸内フローラの1%にも満たないといわれる。

私たち人間は腸内だけではなく、体中いたる所に細菌を飼っていると言っても過言ではない。
表皮にもバクテリアはいるし、口の中にもバクテリアはいる。
時たま悪さをして、傷を化膿をさせたり虫歯を悪化させたりもするが、役に立つ事の方が圧倒的に多い。

細菌は栄養素を人間に与えるだけではなく、外敵から肌を守ったり、不要な成分を排出したりをしてくれる友達といえる訳だ。

さて、ウンコの話に戻ろう。
もし腸の中にバクテリアがいなくなったらどうなるだろう。
これは抗菌薬で良いバクテリアを殲滅した時に起こる病状と似ている。
菌交代症といって、バクテリアの代わりにカビが繁殖する事が起こりえる。
そうするとウンコは色素が還元されなくなって真っ白なウンコとなる。
バリウムを飲んだ日のようなウンコが出たら要注意だ。

私たちが意識もせず、痛みも快楽も無く過ごしている今この時ですら、人間の身体は免疫力を高める練習をしていて、細菌は一生懸命に人間の代わりに栄養素を作り出している。

見えなければ意識の出来ない事かもしれないけれど、毎日のように訪れる便意を催したならば是非とも便器を眺めてほしい。
あぁ、ウンコの半分は細菌で出来ているんだなぁと。


これらの話からも分かる通り、ほぼ大多数の細菌は人間にとって良い影響を与える。
ただしごく一部の細菌は人間にとって悪い影響を与えるといえる。

人間社会であってもほぼ大多数の無辜な人達は社会を動かす為に一生懸命だ。
ごく一部の犯罪者にフォーカスが当たったからといって、人間そのものを悪い存在として認識するのはいささか早急かもしれない。


また、人間にとって細菌を利用しているケースも多々ある。
昔からの利用としては大豆を発酵させて納豆にするなんて事はあるけれども、最近では若干変わってきている。
細菌の速い速度で分裂を繰り返す性質を利用して、例えば大腸菌の遺伝子に、人間にとって重要なホルモンなどを産生させる遺伝子を組み込む。
そうする事によって、大腸菌が分裂をするごとに人間のホルモンを分泌し続ける大腸菌となる。
このように遺伝子を組み込むことで人間では作り出せない化合物を作らせる工場と変化させることも出来るのだ。

製薬の世界では、バクテリアに様々な化合物を作らせて製剤化している薬品は数多く存在する。
私たちは、それらがバクテリアに作らせた物とは意識をしないけれども、こんな使われ方をしているバクテリアもいるということだ。
バクテリアは目に見えない存在だからこそ怖い存在と認識してしまうのだろう。
これはお化けが目に見えないから怖いという話に通じる物がある。
けれども、怖いと思ったときにはウンコを眺めてみれば、きっとバクテリアを身近に感じる事が出来るだろう(?)。
私たちにとってもかけがえのない存在であるバクテリアに対しても、もっと仲良くすべきかもしれない。


第三章 ウィルスは人類にとって仲間か敵か

バクテリオファージは特定のバクテリアやその近縁種、もしくはアーキアを破壊する事に特化したウィルスといわれる。
それ以外の役割が全く分かっていないし、それ以外の特質もどうやらなさそうなのである。

ウィルスは自己複製が出来ないから生物ではない、とされるが自分の遺伝子を後世に伝えるという意味では生物的な意識は持っているのかもしれない。
バクテリオファージは対象のバクテリアを見つけると、バクテリア表面に張り付き、自分のDNAをバクテリアの中に注入する。
バクテリアの複製機能を用いてファージのパーツを大量に作り、感染したバクテリアの内部を大量のファージで満たすプロセスを経る。
その後、エンドライシンという酵素を出して、バクテリアに大穴を空けてファージを放出させるわけだ。
大量に作られてパンパンに膨らんだバクテリアからは、ものすごい数のファージが吐き出され、更に他のバクテリアを探して殺し続ける旅に出る。

ファージがバクテリアに感染してから、ファージを放出するまで2-3分の時間しか要さないといわれる。
非常に短時間でバクテリアを乗っ取り、ファージ自らを増殖させる殺戮に特化したウィルスと言えるだろう。

一つの資料によると、海中のバクテリアの40%はファージに殺されているという。
海中のバクテリアにはビブリオ属と呼ばれるバクテリアが多くひしめいている。
このビブリオ、特徴としては非常に早い分裂速度という特徴がある。

1回の分裂に8-10分程度の時間しか掛からないとされるのだが、ファージに感染して自分がファージに乗っ取られる前に分裂をして被害を防ぐのか、それともファージの脅威を人海戦術、もとい数で勝負をしているのかは分からない。
ともあれ、ファージが海中のバクテリアを大量虐殺しているにも関わらず、海中のバクテリアが絶滅していないという事実は注視したい。

殺戮の意志しか持たないファージがこれほどの数、存在する。しかしバクテリアは絶滅していない。
ファージも後世に遺伝子を残す事に必死だし、バクテリアも後世に遺伝子を残す事に必死な訳で、その天秤は38億年間の間、ゆらゆらと中間を漂っている。

もしかしたらファージとバクテリアは殺し殺されるだけの存在ではなく、何かしら環境抵抗性において有益な共生関係にあるのかもしれない。
ただ一方的に殺戮を繰り返しているのであれば、数で圧倒するファージが絶対的に有利だからだ。
私たちの知らない世界なだけで、ファージはファージの考え、バクテリアはバクテリアの考えで犠牲者を敢えて出しているのかもしれない。

分からない。こればかりはファージに聞いてみないと分からないのだが、いかんせんファージに日本語は通じそうも無いので、将来の研究結果を待つことにしよう。


第四章 細菌も進化し続ける

バクテリアは生命体である。自分の遺伝子を後世に残す為に様々な努力をし、様々な進化を続けてきた。




第五章 人間が手にした抗菌薬という武器

第六章 抗菌薬に耐性を持った細菌たち

第七章 ファージと人類は手を結べるのか

第八章 細菌が対ファージ戦で編み出した免疫

ファージはバクテリアやアーキアを一方的に虐殺する存在である事は記述したが、バクテリアやアーキアもただやられっぱなしと言う訳ではない。
バクテリアも進化を続ける生命体であり、ファージに対する抵抗性を持つものがいる。
バクテリアではおよそ4割、アーキアにおいてはおよそ9割がファージに対する免疫を持っている。

免疫と言っても人間が持っている免疫などとは機構が大きく異なり、侵入してきたファージを攻撃出来る訳ではない。
ファージが注入してきたDNAの配列を記憶しておいて、次にそのファージがDNAを注入してきた時に、そのDNA配列を狙い撃ちで切り取ってしまうのだ。

一度感染したのか、それとも仲間が感染したのか、どういう経路でファージのDNA配列を記憶しているのかは分かっていないが、DNAを記憶しておく場所をCRISPR(クリスパー)と呼ぶ。
非常に古典的な免疫システムではあるのだが、古典的なシステムであろうとも免疫機構には変わりがないと言うのがポイントだ。

ファージのDNAを発見すると、Cas9というシステムで、その部分だけを切り取ってしまう。
切り取られたDNAはただの物質な訳で、遺伝子物質ではあるけれども、遺伝子としての特性を失うという訳だ。

2015年にCRISPR/Cas9という手法が発表され、ゲノム編集において非常に有効的である事が判明した。
今まではランダムで遺伝子に目的の遺伝子を組み込むのみであったが、CRISPRを用いる事で指定したDNA配列の指定した部分に、組み込むべきDNAを挿入する事が出来るようになったのだ。

もちろんこの執筆をしている段階では、その精度的な問題やゲノム編集に対する倫理的な問題は多数残っているが、これらの問題は時間が解決することになるだろう。

バクテリアもやられっぱなしではなく、アーキアもやられっぱなしではない。
何とかして新しいシステムを用いてファージに対する抵抗性を持った。

それでもファージvsバクテリアの戦争は現状ではファージが優位であることに変わりはない。

僕たち人間がファージとバクテリアの戦争に介入するのか、それともただ見守るだけなのか、それは科学者が決める事だろう。
けれども今までの人類の歴史からすれば、きっと介入をする事になる。
傍観をする程度に留める事は人間の知的欲求からすれば叶わない事だ。

では介入する前に何を考えなければならないか。
それは、ファージとバクテリアはなぜ38億年もの間、戦争を続けているかだ。
一方的に殺すだけの虐殺戦争ならば、数で圧倒的優位に立つファージに分があるはずだ。
にも関わらず絶滅が出来ていないと言うことは、もしかしたら何か戦争に意味があるかもしれないと言える。
その意味を調べてから戦争に足を突っ込んでも遅くはないのではなかろうか。

第九章 クリスパーを利用する人類

第十章 ファージ治療薬の可能性

コメント

本を書こうかと思います。

2018-06-04 07:42:28 | ライティング
タイトルは、38億年戦争~僕とファージとアーキアと
って感じで。
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