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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

オデッセイ

2016年02月19日 | 洋画(16年)
 『オデッセイ』を吉祥寺オデヲンで見ました。

(1)前回に引き続きSF物ながら、マット・デイモンが主演であり、なおかつアカデミー賞作品賞などにノミネートされているとのことで(注1)、映画館に行ってきました。

 本作(注2)の冒頭は、荒涼とした火星の風景が映し出されます。
 岩山が、まるでグランドキャニオンのように続いています。
 ここは、「アキダリア平原」内のアレス3計画(注3)の着陸地点だとされます。
 そして火星で18日目。
 乗組員たちは、火星の地表に降り立って、「サンプルはいくつ必要?」「100gのを7個」等と言いながら標本を採取しています。
 突然、ロケット内に残った乗組員のヨハンセンケイト・マーラ)から「嵐です。予想が格上げに」と連絡が入り、またマルティネスマイケル・ペーニャ)も「事態は良くない。嵐の直径が1200kmもある。採取を中止して中で待つべきです」と言います。
 地表にいる乗組員たちがグズグズしていると、一方でMAV(注4)が嵐によって傾き始め、他方で乗組員の一人のワトニーマット・デイモン)が通信アンテナとともに吹き飛ばされて行方がわからなくなってしまいます。
 ロケット内の乗組員からは「このままではロケットが転倒します」との連絡が入るものの、地表にいる指揮官のルイス船長(ジェシカ・チャステイン)は、「ワトニーを探す」、「ワトニー、どこにいるの?」、「近距離レーダーで彼を探せない?」と叫びます。ですが、「船長、船に戻ってください」と言われて、捜索を諦めてMAVに戻ります。
 船内では、隣の座席が空いたままながら、「離陸できます」との報告に、ルイス船長は「離陸」と命令を発します。

 NASAのサンダース長官(ジェフ・ダニエルズ)は、ワトニーの死亡を発表します。

 ところが、火星では、倒れていたワトニーが「酸素レベルが危険」とのアラームで目を覚まします。腹部には、金属の棒が突き刺さっています。
 ワトニーは、それを切り取り立ち上がって歩き出し、ハブ(居住施設)に入ります。



 さあ、これ以後ワトニーはどんな行動を取るのでしょうか、無事に地球に帰還することが出来るでしょうか、………?

 本作は、近未来SFであり、火星に一人取り残されてしまった宇宙飛行士の地球帰還を描いている作品で、無重力空間に一人取り残された女性科学者が地球に生還するまでを描いた『ゼロ・グラビティ』の火星版と言えるかもしれません。火星の映像にリアルさが見受けられ、またユーモアも随所に感じられ(注5)、そうであればラストの方で手放しの米中協力体制が描かれているとしても、許してあげたくなってしまいます。

(2)本作は、宇宙飛行士のワトニーが火星に独り取り残され、なんとか生きて地球に帰還しようと様々な工夫を孤独の中でする様子が描かれる前半と、早期の帰還を達成するために、火星のワトニーと宇宙船のヘルメスと地球のNASA等とが皆で協力しあう様子が描かれる後半とに分けられるように思いますが、クマネズミとしては後半よりも前半の方にずっと興味深いものがありました。

 というのも、後半では、皆がなんとかワトニーを地球に無事生還させようと必死になる様子がかなり巧に描かれているとはいえ、鼻白むような米中協力ぶりが映し出されるだけでなく(注6)、宇宙空間でワトニーを補足しようとルイス船長が必死になるシーンなどは、『ゼロ・グラビティ』におけるライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)とマット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)が絡まったロープと格闘する場面に似ていたりするからですが。



 それに反して前半では、独り火星に取り残されたワトニーが、次のアレス4計画が実施されるまでの4年間を生き抜くために(注7)、一つ一つ問題を解決していくのです。
 例えば、彼は植物学者でもあったことから、食料を確保するために「ハブ」の中でイモを栽培しますし(注8)、また1997年のマーズ・パスファインダーを見つけ、そのカメラを使って地球のNASAと交信することに成功します(注9)。
 従来のこうした映画では描かれなかった興味津々の事柄が次々と画面に映し出されるのですから、面白いことこの上ありません。

 この映画から痛いほど分かるのは、火星に人類が行ってしばらく滞在して戻ってくるのに“食料の問題”が非常に重要であることです。月との往還に際しても重要であることに違いないのでしょうが、アポロ計画の当時、そんなに焦点が当てられていなかったように思います。ですが、なんといっても火星の場合、行くだけでも、月と比べて30倍以上の日数がかかるのですから(アポロ11号は月面到着まで4日かかっています)、どのように取り組むのか問題になってくるものと思われます(注10)。

 それと、火星と地球との間で連絡する場合、電波の到達に大層時間がかかり、緊急時にはいちいち交信している隙がないということもよくわかりました(注11)。

 いずれも、地球と火星との間には、クマネズミが想像していた以上に大きな隔たりが存在することによるものでしょう。

(3)渡まち子氏は、「近年のSF「プロメテウス」などの悲壮感とは対極にあるスーパー・ポジティブSFエンタテインメントで、見ているこちらも元気がもらえる秀作だ」として85点をつけています。
 前田有一氏は、「そもそも絵的なものよりも、リアリティショー火星版として、マニアックにこだわった文字通りの「リアリティ」を楽しんだらよろしい」として70点をつけています。
 柳下毅一郎氏は、「これは爽快な技術賛歌、科学者賛歌である。ディスコソングだらけのサウンドトラックも素晴らしいが、最後まで死にあらがい続けたデヴィッド・ボウイの名曲がかかる場面には涙を禁じ得ない」と述べています。
 藤原帰一氏は、「映画の画面を塗り替えてしまったリドリー・スコットが、老齢を迎えて人の心に向かい合う映画づくりを発見した。映画の温かさからつくり手の温かさを感じさせる作品」と述べています。  
 小梶勝男氏は、「死を覚悟しつつ、記録用のビデオカメラには精いっぱいおどけて話す。そんな男のギリギリの心理をデイモンが巧みに演じて、SFというジャンルを超えて、血の通った科学ドラマになったと思う」と述べています。



(注1)次の7部門にノミネート選出されています。
 作品賞、主演男優賞(マット・デイモン)、脚色賞(ドリュー・ゴダード)、美術賞、視覚効果賞、録音賞、音響効果賞

(注2)監督は、最近では『ロビン・フッド』や『悪の法則』のリドリー・スコット
 原作は、アンディー・ウイアー著『火星の人』(小野田和子訳、ハヤカワ文庫SF)。
 原題は「The Martian」。

 なお、出演者の内、最近では、マット・デイモンは『ミケランジェロ・プロジェクト』、ジェシカ・チャステインは『インターステラー』、NASAの広報責任者役のクリステン・ウィグは『LIFE!!』、カプーア博士役のキウェテル・イジョフォーは『それでも夜は明ける』、ジェフ・ダニエルズは『LOOPER/ルーパー』、マイケル・ペーニャは『アントマン』で、それぞれ見ました。

(注3)NASAによる有人火星探査計画の3番目のものとされます。
 詳しくは、このサイトの「アレス計画」をご覧ください。

(注4)火星の地表から母船のヘルメスに戻るためのロケット(Mars Ascent Vehicle)。
 なお、ヘルメスから火星の地表への降下にはMDV(Mars Descent Vehicle)が使われたようです(上記「注3」で触れたサイトによります)。

(注5)例えば、宇宙船ヘルメスの乗組員マルティネスが火星にいるワトニーと最初に取り交わす会話が、「君を火星に残してきて悪かった。だけど、俺たちは君が嫌いなんだ。それに、君がいないとヘルメス内を広く使える」というもので、さらにマルティネスが「火星はどお?」と尋ねると、ワトニーは「マルティネス、火星は最高だ」、「ハブを吹き飛ばしてしまったが、残念なことに、ルイス船長のディスコはすべて無事だ」などと答えるのです。

(注6)火星に食料補給船を送る計画が、ロケットの爆発で頓挫した後、中国国家航天局は自分たちの「太陽神計画」のロケットを使うようNASAに進んで提案し、結局、それで打ち上げられた補給船をヘルメスが確保し、ヘルメスはワトニーを救出すべく火星に再度向かいます。
 とはいえ、『ゼロ・グラビティ』においても、ライアン・ストーン博士の地球帰還に際しては、中国の宇宙ステーション『天宮』やそこに積載されていた宇宙船『神舟』が重要な働きをするのですが!

(注7)4年後に実施される予定のアレス4計画に使われるMAVはすでに火星に持ち込まれています(その場所までは、アレス計画3用のMAVが設けられている地点から3000km以上離れています)。
 なお、ワトニーの帰還に際しては、そのアレス4計画用のMAVが使われます。

(注8)ワトニーは、火星の土をハブの中に運び入れて畑を作り、乗組員たちの排泄物を肥料としてその土に混ぜます。水は、燃料を分解してできる水素を燃焼させて作り出しました。

(注9)その際には16進法が使われます。

(注10)地球に帰還していた宇宙船ヘルメスを引き返させてワトニー救出に当たらせるという「エルロンド計画」に対して、サンダース長官が反対したのは、一人を救うためにヘルメス内にいる5人の命を犠牲にしかねないためでしたが、その理由はあまりはっきりと映画では述べていなかった感じがします。良くはわかりませんが、おそらく、もう一度火星まで往還出来るだけの食料がヘルメスに積載されていなかったのではないでしょうか(この問題は、上記「注6」で触れたように、中国の「太陽神計画」のロケットによって打ち上げられた補給船によって解決されます)?

(注11)劇場用パンフレット掲載の「About Mars 火星ってどんな惑星?」には、「近い時で約3分、遠い時で約22分かかる(返事が来るまでには最短でも、その2倍の時間がかかる)」と記載されています。



★★★★☆☆



象のロケット:オデッセイ

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10 コメント

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Unknown (atts1964)
2016-02-22 08:33:27
SFはアクションと、壮大さ、戦闘シーンなどが際立つものですが、サバイバルと勇気、友情を前面に、そしてリドリー・スコットが作ったのが意外性がありおもしろかったですね。
こちらからもTBお願いします。
相変わらずですが (milou)
2016-02-22 12:38:00
いつも見ていて些細なことが気になります。映画に何度も何度も(リアルであれヴァーチャルであれ)モニター画面が映ります。
その左端に現在温度が表示され、気をつけて見ていると室内温度(?)は常時摂氏20から21度に設定されていて納得。屋外では夜間は最低で(多分)マイナス156度、昼間は最高で(多分)プラス46度ぐらいなので見ているときは、なるほど昼夜の温度差が激しくリアルだなと納得。しかし調べてみると実際は昼間でもマイナス20度に届かないようでリアルではなかった。
ただし別の資料では最高がプラス27度最低がマイナス133度なので、極端にデタラメというほどでもない。
なお映画での数字は僕のいい加減なメモなので正確ではないかもしれない。
Unknown (クマネズミ)
2016-02-22 20:48:08
「atts1964」さん、TB&コメントをありがとうございます。
それにしても、リドリー・スコットは、それほど見ているわけではありませんが、最近でも『プロヴァンスの贈り物』や『悪の法則』から『ロビン・フッド』といったところまで、随分と間口が広い監督なのだなと思いました。
Unknown (クマネズミ)
2016-02-22 20:52:07
「milou」さん、コメントをありがとうございます。
いくら「些細なことが気にな」るとおっしゃるからといって、映画に出てくる「モニター画面」に表示される「現在温度」までチェックされるとは、心底驚きました!
ポジティブSF (もののはじめのiina)
2016-02-25 10:02:46
>女性科学者が地球に生還するまでを描いた『ゼロ・グラビティ』の火星版と言えるかもしれません。
そんな印象でした。

>「プロメテウス」などの悲壮感とは対極にあるスーパー・ポジティブSFエンタテインメントで、見ているこちらも元気がもらえる秀作だ」
決してあきらめない精神力は、何に対しても通じると思いました。

Unknown (ふじき78)
2016-02-25 10:48:50
> サンダース長官が反対したのは、一人を救うためにヘルメス内にいる5人の命を犠牲にしかねないためでしたが、その理由はあまりはっきりと映画では述べていなかった感じがします。

「海猿」みたいなスーパー救助員がいる訳でもなく、一人でも命を落としたら負けですから、やはり分が悪い勝負と見積もってもおかしくはないのではないでしょうか? 「海猿」だって、そこそこ救助員が何回も何回も死にかけてるし。助かれば美談だけど、普通、やっぱ死ぬ確率の方が高いと思う。
Unknown (クマネズミ)
2016-02-26 07:16:06
「もののはじめのiina」さん、TB&コメントをありがとうございます。
言及されている文章は渡まち子氏の文章で、クマネズミは『プロメテウス』を見ておりませんが、「決してあきらめない精神力は、何に対しても通じる」とクマネズミも思います。
Unknown (クマネズミ)
2016-02-26 07:24:06
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
救助を『海難』のように考えれば、確かに「死ぬ確率の方が高い」ものと思います。
ただ、本作の場合、基本的には、MAVで火星から上がってくるワトニーを救出するというのですから、救助場面でヘルメスの乗組員側に多くの犠牲者が出るということは想定しにくいのではないかと思いました。
それで、サンダース長官が躊躇したのは、もう一度火星を往復するのに充分な食料が積み込まれていない致命的な問題を慮ってのことではないかと考えました。
地上の人たちも (ここなつ)
2016-04-13 19:24:57
こんにちは。
私は、火星でのワトニーのサバイバルも勿論良かったのですが、地上で彼を救出するべく奮闘する人々の描写が素晴らしかったと思います。アイディアも様々に出ていて。
とても前向きになれる作品でした。
Unknown (クマネズミ)
2016-04-13 21:28:39
「ここなつ」さん、TB&コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、火星のワトニーの頑張りだけでなく、地球の側での様々な奮闘がなければ、彼の救出劇は成功しなかったことでしょう!クマネズミは、軌道計算のスペシャリストの青年が新しいアイデアを提案する辺りが面白いなと思いました。

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