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RETURN(ハードバージョン)

2013年09月04日 | 邦画(13年)
 『RETURN(ハードバージョン)』を、ヒューマントラストシネマ渋谷で見ました。

(1)これは、『謎解きはディナーのあとで』に出演している椎名桔平の主演のアクション映画であり、評判の良かった『わが母の記』の原田眞人監督が制作するアクション映画でもあるということで興味を持ち、映画館に出かけてみました。

 物語の始まりは2002年のこと。
 普通の会社員だった古葉椎名桔平)が、ギャンブルにはまりこんだ挙句ヤミ金にまで手を伸ばしたところ、あまりにヤミ金の取り立てが凄まじいために反撃し、ヤミ金の社長(高嶋政宏:実は暴力団・御殿川組の会長の息子)をゴルフクラブで殴って殺してしまいます。
 それでホトボリが覚めるまで南米ペルーに行っていたところ、そこでの雇い主から、日本に戻ってある人物を殺してこいと命じられます。

 古葉は北原と名を変えて10年ぶりに日本に帰ってきたものの、3.11後のため彼の知る日本とはかなり様変わりしています。
 そんな中で、北原は目的の人物を、その人物の愛人である伽羅水川あさみ)や運転手のウノ山本裕典)と一緒になって探しまわります。
 他方で、北原の帰還を知った御殿川組の方では、殺された若社長と兄妹の三姉妹(キムラ緑子赤間麻里子土屋アンナ)が復讐しようと付け狙い出します。
 さあ北原の運命やいかに、……?

 ただ、粗筋をたどってくると正統的なアクション物と思えるものの、実のところはコメディ物と見紛うような作品です。
 何と言っても御殿川組の三姉妹がハデハデしく、例えば、
・刑務所に入っている長女・亜芽キムラ緑子)の出所を早めるべく、次女・仁子赤間麻里子)と三女・土屋アンナ)が警察の署長(でんでん)に掛け合いに出向くのですが、奇抜な髪型の仁子の出立は和服に日傘ですし、丸の騒々しさは半端ではなく、仁子が「うるせーってんだよ、この野郎」とか「バカは黙って仕事をしろ」と言うくらいのハイレベル(注1)。

 また、
・刑務所に半年ばかり入っていた長女・亜芽が、出所すると唐突に、「この国の放射能汚染は、政府が言うほどやわじゃない、組ごとブラジルに移住する」と宣言し、組員たちを唖然とさせます(注2)。
・次女・仁子は、それを聞いて、「ブラジルは何語でしゃべるんだ?」と組の幹部に尋ね、彼が「スペイン語じゃないですか」と答えると、「イタリア語だろ、バカヤロウ」、「いやフランス語かな」と応じたりします。
・三女・丸も、「俺は絶対行かない。ブラジルなんて地球の裏側。裏街道歩いている人間が、地球の裏側に行ったりしたら、裏と裏とで表になってしまうから」と言う始末。

 さらには、椎名桔平が扮する北原も、もとはカタギだったからでしょう、「です・ます」調で物静かに話したり、温泉旅館の宴会場で伽羅とウノの3人でゲーム(負けると“チャップリン歩き”をする)に興じたりする一方で、敵の5人をブラジルカポエイラの技と銃剣一本で次々と殺ってしまうのです。



 まあ、おそらく演じている俳優たちはかなり面白かったのではと推測しますが、果たしてそれを見る観客が面白いと思うでしょうか、でも観客が極端に少ないところを見ると、そうもいかないものと思います。

(2)本作に関しては、監督の原田眞人氏のインタビュー記事が、雑誌『シナリオ』9月号に掲載されています。
 そこでは、例えば次のように述べられています。
・「『わが母の記』で原作から離れてクリエイトした子供たち、あの三姉妹を今度は武闘派三姉妹としてよみがえらせよう」とした(注3)。
・次女・仁子役の赤間麻里子は、『わが母の記』で主人公の妻の役を演じているが、「あっちではあんまり目立たない、大人しい役だったけど、今回はとにかくビックリさせたいな」と考えた。
・第1作の『KAMIKAZE TAXI』(1995年)にあった、「例えばタキシードを着たタクシーの乗客とか、それから温泉でのゲームとか」をよみがえらせようとした。

 こんなところを読むと、どうやら本作は、原田眞人監督が手がけた『わが母の記』や、特に『KAMIKAZE TAXI』をよく記憶するファンにとって、すこぶる面白いのかもしれません。
 でもそれって、作者の身辺をよく知る者が読むと面白い「私小説」と同じこと(ごく狭いサークルのメンバー向けの作品)ではないでしょうか?

(3)とはいえ、「私小説」といえども、よく出来た作品の場合、作者につき細々としたことに通じてなくともしみじみとした味わいを感じるのと同様に、ここまで突出すると、本作だけを見てもまずまず面白さを感じるところです。
 ですが、本作のラストがいけません!
 原田監督が、ブックエンド方式(「始まったところに最後は戻る」)としてラストを重視しているにもかかわらず(注4)、なんと北原が、「御殿川組シスターズ」に対して、「(移住先は)アルゼンチンじゃいけませんか?」と言い出し、三女・丸が「俺、アルゼンチンだったら行ってもいい」と応ずるのです(注5)。
 せっかく、黒澤明監督の『生きものの記録』(1955年)を踏まえてブラジル移住とされているものが(注6)、どうして突然アルゼンチンに変更されてしまうのでしょうか?
 ブラジルで3年間生活してブラジルファンとなっているクマネズミにとっては、許されないものを感じてしまいました!?

(4)映画ライターの外山真也氏は、「紛れもない傑作だった前作(『KAMIKAZE TAXI』)よりも、少々いびつな今回の方が、原田真人好きのツボにハマるのではないだろうか」として★5つをつけています。
 また、映画評論家の相木悟氏も、「(前作の『KAMIKAZE TAXI』に)対して、本作は逆に若者世代への決起を即しているように思う。混迷の時代、立ち上がるのは今だ、と。まさに今観るべき映画といえよう」などと絶賛しています。



(注1)他のシーンでは、三女・丸は、警察官を刀とピストルを持って追いかけ、彼らが逃げ込んだ警察署でピストルをぶっ放し、その上で意気揚々と引き上げてきます。

(注2)この他にも本作では、2002年に起きた「東京電力原発トラブル隠し事件」のことを伝えるラジオニュースが流れたり、北原が乗るタクシーの運転手が線量計を手にしていたり、北原が入り込んだ畜産農場の柱に「原発マフィア生き延び日本滅ぶ」という文字が刻まれていたり、福島第1原発事故絡みの描写があります。ただ、本作全体の中に置かれると、これらもギャグめいた感じになってしまいますが。

(注3)『わが母の記』では、ミムラ、菊池亜希子と宮崎あおいによる三姉妹。

(注4)雑誌『シナリオ』9月号掲載のインタビュー記事の最後のところ。
 なお、本作の始まりは、椎名桔平が勤務する旅行代理店のシーンで、「パラダイス・ロスト?」とキャッチフレーズが入り南国の海辺が描かれているポスターが貼りだされています。

(注5)映画はこれで終わらずに、ラストのラストでは、なんと皆がバーベキューパーティーで和気あいあいと談笑に耽るのです。あれだけのバイオレンス・アクションを披露したあとのバーベキューパーティーというのも、ひどく意表をつく終わり方だなと感心しました。

(注6)劇場用パンフレット掲載の「原田眞人監督インタビュー」によります。
 なお、『生きものの記録』は、ビキニ環礁で行われた核実験によって第5福竜丸事件が起きたことから作られたとされているところ(例えば、このサイトの記事)、このサイトの記事によれば、「船員を診察した医師の報告では、船員の死因は放射線障害とはされていない」とのこと。仮にそうであれば、『生きものの記録』の主人公の行動は、やはり妄想に基づくものとなり、またそれをベースにしている本作の長女・亜芽の唐突なブラジル移住宣言も、その意味合いが疑問視されるのかもしれません。



★★★☆☆




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