映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

極道めし

2011年10月22日 | 邦画(11年)
 『極道めし』を新宿バルト9で見てきました。

(1)東京ではこの映画館のみの上映で、また上映時間がいつも変わっているなどアクセスが難しかったのですが、連休を利用して何とか映画館に潜り込むことが出来ました。

 物語は単純で、刑務所で同室となった5人が、年末行事として、正月元旦に出される「おせち料理」を奪い合うバトルを繰り広げるというだけのものです。
 ただバトルといっても、肉弾戦ではなく、それまでに出会った料理のなかで最上のものについて皆の前で語り、生唾を飲み込んだ者が最も多い話をしたら勝者となるという戦い。勝者は、各人に配られる「おせち料理」の中から、それぞれ好きな品を一つずつ奪えるのです。
 こうなると、観客の興味は、果たしてどんな料理が5人から語られるのかに移ります。といっても、当然のことながら、料理だけが語られるのではなく、それにまつわる話、その料理を食べるに至った背景、といったところが語られるわけで、そうなれば必ずや「お袋の味」の類いが入っているななど、あらかた予想がつく感じです。
 というのも、各人はチンケな犯罪を犯して刑務所に入っているわけで(注1)、そんなに豪華な話を元々持っているはずもないと思われるからでもありますが。
 ですから、それぞれが語る料理よりも、最後に出されるお正月の「おせち料理」の方が豪華だともいえ、飽食の時代、スクリーンに映し出される料理で、果たして観客は生唾を飲み込むだろうか、と少なからず疑問を感じてもしまいます。
 とはいえ、むしろ、制作者側の狙いも、あるいは今の飽食の世の中を批判したいということがあるのかもしれません(注2)。

 この映画の主役は永岡佑でしょうが、むしろ麿赤児の存在感が圧倒的です。
 最近では、『日輪の遺産』での杉山司令官役とか、『一枚のハガキ』での和尚役(義母の葬式に読経しに来た僧侶)など、様々の映画に登場して活躍していますが、本作では、最古参の服役者ということで、同室者から一目置かれた存在で(“極道”と誤解されています)、その個性をいかんなく発揮しています。

 もう一人注目されるのが、『冷たい熱帯魚』で極悪人・村田を演じたでんでんでしょう。ただ、『大木家のたのしい旅行』で赤鬼を演じたり、本作では木工の作業場で心臓まひのため死んでしまう服役者に扮したりしていますが、下記の『幸福の黄色いハンカチ』における気の良い船長役の方が似合っている感じです。

(2)さて、この映画の主人公は、刑務所の部屋に最後に入ってくる栗原永岡佑)です。
 彼は、街のチンピラで傷害事件を起こして服役するところ、別れた恋人(木村文乃)が忘れられないのです。にもかかわらず、酷く冷たい別れ方をしてしまったために、出所しても再会は難しいかもしれないと思い悩んでいます。彼の最高の思い出の一品とは、別れ際に、その彼女が彼のために作ってくれたラーメンです(ちなみに、彼の話の点数は3点でした)。

 この話は、どこか『幸福の黄色いハンカチ』に似たところがあります〔丁度10月10日にNTVで、映画とは一部話がアレンジされたものが放送されました(注3)〕。
 というのも、こちらは、傷害致死事件を起こして7年の刑で刑務所に入っていた阿部寛が主人公で、入所早々面会に来た妻の夏川結衣に、判をついた離婚届を渡し、離婚して別の人生を歩んでくれと言うのです。
 栗原の場合も、面会に来た恋人が「あのラーメンの味はどうだった?」と尋ねても、何も答えず、「俺のことは忘れて」という感じで面会室を出てしまいます。

 ただ、出所後の話の展開はだいぶ異なっています。
 『幸福の黄色いハンカチ』の場合、妻がそのまま阿部寛を待っていてくれたのですが、栗原の場合は、やっとのことで探し当てた恋人が営んでいるラーメン屋に入ると、夫も子供もいることがわかり、何も声をかけずに栗原は立ち去ってしまいます(注4)。




(3)「おせち争奪戦」について、上では、それほど大した料理が映し出されるわけではないと申し上げましたが、さらに問題点を挙げるとすれば、次のようなことになるでしょうか。
 受刑者の一人相田落合モトキ)が、「今年もやりますよね」というと、勝村政信)が「やらないとシメシがつかない」、チャンコぎたろー)も「伝統行事だから」と応え、最後に最長老の八戸麿赤児)が「やらないとなあ」と答えて、それで「おせち争奪戦」が行われるわけですから、これ以前に何回か行われていることになります(注5)。
 とすれば、“これまでに人生で出会った一番旨かった料理”を皆の前で話すとされているにもかかわらず、その“一番”がいくつか存在することになるわけです。
 ということから、ここで5人から話される話や料理は、口から出まかせのものも当然含まれていると見る必要が出てくるでしょう。
 現に、相田は、「おふくろ話だったら騙せると思ったんだけど」などと口を滑らせてしまうわけです(注6)。
 また、話の基づいて映し出される映像自体も、栗原のものを除き、どれも現実のものではないことを強調しているようにも見受けられます(注7)
 こうなると、刑務所全体でこの「おせち争奪戦」を開催したら、詐欺罪で服役中の者が上位を独占することになるのかもしれません。

(4)この映画も、料理という点で『家族X』とか『幸せパズル』とつながる点を持っていると言えるでしょうが、あまりそんなことをことさらめかしく申し上げても仕方ないでしょう。
 ただ、『家族X』における橋本家の長男・宏明にしても、『幸せパズル』の2人の息子にしても、母親の作る手料理をそんなにも拒否したら、将来仮に罪を犯して刑務所に入って「おせち争奪戦」をやる羽目になった時には、持ち駒不足に慌てても時すでに遅しだ、ということだけを申し上げておきましょう。

(5)渡まち子氏は、「過去の描写はあえて作り物の感じを上手く残していてファンタジー色も加味し、塀の中にいる今との対比を際立たせているのが上手い。おせち料理ははたして誰の手(口)に? 気のいい受刑者たちのその後とは? 話はライト感覚だが、ラストにそれぞれのその後のエピソードが語られ、ほろ苦くも“おいしい”後味が残る」として60点をつけています。



(注1)この5人の罪状は、劇場用パンフレットでとりまとめられている表を見ると、「傷害罪」か「窃盗罪」で、刑期も長いもので6年(最古参の八戸)、短いものは3年(主役の栗原)にすぎません。

(注2)あるいは、個々の料理が絶対的に旨いというのではなく、それを食べるに至った経緯等、それぞれの料理にまつわる話があってこそ味わえるのではないか、というのかもしれません。

(注3)映画は、高倉健主演で1977年に公開されました。NTVのもの(夕張が焼尻島に変えられたりするなど、変更点がいくつもあります)と比べると、この物語の大元は外国のものとはいえ、やはり高倉健用として作られている感を強くしてしまいました。
 なお、NTVのドラマについては、小林信彦氏が、『週刊文春』10月27日号の「本音を申せば」で、「なぜ2011年にリメイクするのかは、ぼくにはわからない」と述べながらも、「飲食店で働く娘が堀北真希で、彼女はさりげなく演じてうまい。こういう役を演じたら、方言もふくめて、いまベストだろう」としているのにまったく同感です。

(注4)これが映画のラストにもなるのですが、ここにトータス松本の歌う『上を向いて歩こう』が被ってきます。そういえば、『コクリコ坂から』といい、今年はなぜかこの歌の当たり年になっているようです。

(注5)現に原作漫画の第1巻では、南の話に対して、「その話、去年聞いたで」「自分の話くらい 覚えとけや」「出だし聞いただけで わかったで」という声がかかります(P.79)。

(注6)あるいは照れ隠しで、相田はそう言ったのかもしれませんが。

(注7)たとえば、南の話の場合は、青いビニールを海に見立てて、その前で息子とバーベキューを行っている映像ですし、チャンコの話には、特大・特製オムカレボナーラとかバカでかいオッパイプリンが登場するのです!








★★★☆☆





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2 コメント

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花より団子より花 (ふじき78)
2011-10-22 09:08:18
めしより木村文乃さんが綺麗でよかったなあ。写真見て思い出した。

麿さんも絶品だったけど。
麿赤児 (クマネズミ)
2011-10-22 21:37:58
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
麿赤児は、本当に何をやらせても様になるのは凄いですね(『日輪の遺産』の軍司令官役もさることながら、『朱花の月』での落ち着いた考古学者の役も説得力がありました!)。

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