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ザ・ウォーク

2016年02月06日 | 洋画(16年)
 『ザ・ウォーク』(3D)をTOHOシネマズ渋谷で見てきました。

(1)予告編から面白そうだと思って映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭には、「これは実話である」(True Story)との字幕が出ます。
 次いで、黒いタートルネックを着た本作の主人公フリップ・プティジョゼフ・ゴードン=レヴィット)が、「自由の女神」の松明の縁の部分に立ちながら喋り出します。
 「僕はよく訊かれる、なぜ綱渡りをするのか、なぜ死を賭けてやるのかと。だが、僕は“死”ではなく“生”を使う。綱渡りは人生そのものなのだ。1974年、ニューヨークのWTCの2つのタワーに恋していた。僕の夢は、その2つのタワーの間にワイヤーを張ってその上を歩くこと。なぜ夢を追う?答えられない。その代わり、何が起きたかを話そう。タワーに恋したのはアメリカでのことではない。パリでだ」。

 そして、画面は1973年のパリに変わります。
 プティが一輪車に乗って、「僕は無名のワイヤー・ウォーカー」とつぶやきながら、道路を進んでいます。
 「ロープを張るにいい場所を探した。僕のパフォーマンスは皆に受けた。ただ、警官が来たら僕は逃げる」と喋りながら、ロープの上でパフォーマンスをして、人々からお金を集めます。

 次いで、歯が痛くなったプティが、歯医者の待合室で待っている際に見た雑誌『Le Grand』の中に、WTCのタワーに関する記事を見つけます。
そこには、現在建設中ながら世界1位の高さになる2つのタワーの写真が掲載されています。プティは、「痛みはふっとんだ」として、そのページを破り取って、急ぎ家に戻ります。

 「2つのビルの間に線を引いた時に僕の運命は決まった」として、その記事を部屋の中の階段に作られた引き出しの中にしまい込みます。

 それから、「初めて綱渡りを見たのは8歳の時」として、街にやってきたサーカスのオーマンコウスキー団で見た綱渡りのことが描かれます。

 さあ、そこから、WTCビルでの綱渡りまでどんな展開があるのでしょうか、そして、WTCでの綱渡りはどのようなものだったのでしょう………?



 本作は、“実話”に基づいた作品で、1974年に、ニューヨークの世界貿易センタービルのツインタワーの間に張られたワイヤーの上を渡ったフリップ・プティを描いています。3Dの効果がよく出ている映像で、高所恐怖症でなくとも、ビルの屋上から階下を覗き込んだ映像などは見る者をゾクッとさせます。とにかく、世紀の綱渡りをするまでの準備段階が丁寧に描かれるとともに、綱渡りの場面の映像がとても素晴らしく、感心してしまいます。

(2)本作では、9.11で崩壊してしまったWTCを実に上手く再現しており、また、その屋上からの眺めは、当時の眺めそのもののように見えます。
 そして、プティは屋上の縁のところから身を乗り出して地上を見下ろすのですが、足元が深くえぐり取られているような映像が映し出され、見る者をドキッとさせます。



 さらに、本作では、物が観客の方に実際に飛んで来るような映像もいくつかあって、座席に座っているこちらも思わずそれを避けるような仕草をしてしまいます。

 こうした映像も素晴らしいのですが、またWTCでの綱渡りを実現させるための準備段階も周到に描き出されています。
 例えば、オーマンコウスキー団の座長パパ・ルディベン・キングズレー)にワイヤーの頑丈な取り付け方を伝授してもらいます(注2)。

 こうした作品が今の時期に制作された意義を少し考えてみると、9.11で破壊されたWTCのタワーをフランス人が綱渡りをするということで、テロ(注3)によって多大の被害を被った両国の間に連帯の橋渡しをするということがあるかもしれません(注4)。
 なにより、語り手のプティがいる「自由の女神」は、フランスから贈呈されたものなのです。
 また、主役のプティをフランス人ではなく(注5)、生粋のアメリカ人のジョゼフ・ゴードン=レヴィットが演じているのも意味ありげです(注6)。 

 ただ、「自由の女神」の右手が持つ松明というありえない場所にいる主人公が全編の語り手になっているのですが、これは“実話”とどのように関係するのでしょう(注7)?

 それと、ちょっと気になったのですが、プティが2つのタワーの間に張られたロープの上を渡って行くのを上から捉えた画像の中に、地上でその様子を見守っている群集がどこに描きこまれているのかよくわかりませんでした(注8)。

(3)渡まち子氏は、「物語はプティの回想形式で進むので、彼の無事を知っているはずなのに、高さ、風、霧や空気までリアルに体感させる3Dの演出は、思わず手に汗を握った」として75点をつけています。
 渡辺祥子氏は、「2001年9月11日。WTCは瓦礫の山と化したが、そこにアメリカの自信と繁栄の象徴だった超高層ビルがあったことは決して忘れない。ここにはそんな思いが確かにこめられている」として星4つ(「見逃せない」)をつけています。
 読売新聞の多可政史氏は、「伝説的な空中歩行の興奮が、当時のビルや街並みを再現したVFX(視覚効果)でよみがえる」と述べています。



(注1)監督・脚本は、最近では『フライト』のロバート・ゼメキス
 原作は、フィリップ・プティ著『マン・オン・ワイヤー』(邦訳・白楊社)。

 なお、出演した俳優の内、最近では、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットは『LOOPER/ルーパー』、ベン・キングズレーは『ヒューゴの不思議な発明』、シャルロット・ルボンは『マダム・マロリーと魔法のスパイス』で、それぞれ見ました。

(注2)この他にも、2つのタワーの間にワイヤーを張るのに、先ず弓矢で釣り糸を向こう側のビルに渡し、次いで縄を、最後にワイヤーを張るという方法を考えつきます。

(注3)ただプティは、事前の許可なしのこうした綱渡りが“違法行為”であることを充分に承知していながら秘密裏に敢行してしまい、騒ぎを引き起こしたのですから、彼のやったことは逆に“テロ行為”の一種とみられる側面もないわけではないでしょう。

(注4)しかしながら、映画で描き出されるプティは、芸術家の意識が強く、簡単に人を寄せ付けないものを持っていそうな感じがするところです。
 例えば、パリでパフォーマンスをする際にも、自分の周りに円周を描いて、その中に見物人を踏み込ませなかったりします(わざわざ強硬手段を用いて、円周の外に人を退けます)。
 また、プティのよきパートナーと思えたアニーシャルロット・ルボン)が、プティの夢が実現すると、さっさとフランスに戻ってしまうのも、無論彼女が言うように「自分も自分の夢を実現したい」という気持ちなのでしょうが、あるいは自己中心的なプティにこれ以上ついていけないという気持ちもあったのではないでしょうか?



(注5)プティの友人で“共犯者”とされるジャン=ルイジャン=フランソワは、それぞれフランス人のクレマン・シボニーセザール・ドンボイが演じています。

(注6)劇場用パンフレット掲載の門馬雄介氏のエッセイ「あらゆる二点を軽やかに往還する、ジョゼフ・ゴードン=レヴィット」には、「コロンビア大学で歴史や文学、フランス詩を学んだ彼は、フランス語に通じていたため、フランス人であるプティを円知るのにはまたとない適任者だった」と述べられているのですが。

(注7)やはり本作は、“実話”に基づく話だけれども“フィクション”なんだよ、と言っているのでしょうか?WTCでの45分間の綱渡りに関しては、写真は遺っているにしても映像は遺されていないのですし。

(注8)もとより、真下の場所は、現在ビルが工事中につき入り込めません。それでも、少し離れた道路際に大勢の人が集まっているはずですが、クマネズミが見たところでは判別できませんでした。



★★★★☆☆



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3 コメント

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相変わらず、どうでもいいこと (milou)
2016-02-06 19:07:41
まあ映画は期待通り(高い場所が好きな僕は)十分楽しめました。
最初に“事実に基づく”ではなく“実話”だと宣言しプティ本人が協力しているので多くの“事実”が描かれているはず。

ただ、そうであるなら納得出来ないことがいくつか…まず弓で釣り糸を向こうのビルに飛ばし徐々に太いロープを渡すのは納得出来るしいい方法だと思う。
しかし“盗聴”されないために敢えて古いタイプの“有線”のトランシーバーを使うが、少なくとも映画では“有線”を渡す場面は描かれないし場面にも渡るロープ以外の線は登場しない。
次にロープは1本ではなく補助のワイヤーが少なくとも2本ありロープとは金具で(御丁寧に反対向きに)固定されている。いつどこで、どのように誰が固定したのか。向こうで最初から金具を取り付けた“3本”のワイヤーを送ったとすれば向こうに最低3人が必要だと思うが2人しかいない。3本を1本にして渡し本線を固定してから2人が2本の補助ワイヤーを固定すれば不可能ではないが少なくとも本線2本分ぐらいのロープが必要で2人の力で引き寄せるのも難しい相当の重さになるはずだが描写は完全に“省略”され分からない。

さらに道具類を屋上に運び込むとき“長い”ケースは弓のケースだと説明される。
しかしバランスを取る棒が何メートルか分からないし、もちろん1本ではなく少なくとも両側に継ぎ足した3本だが、それでも1本は運び込んだケースよりは長かった。
バランス棒は (milou)
2016-02-06 19:38:15
バランス棒は当然ビル間を運んだわけではなくプティのいるビル、つまりプティ自身が運んだはずだが、全体の3分の1の長さでもエレベーターには入らないかと思うが、そうであれば怪我した足で(?)屋上まで階段で運んだことになる
Unknown (クマネズミ)
2016-02-07 06:13:19
「milou」さん、実にお久しぶりにコメントをいただき有り難うございます!
「milou」さんの実に鋭い眼光は健在で、「有線」「補助ロープ」「バランス棒」に関するご指摘は、なるほどなと感心してしまいました。
これからもいろいろ面白いコメント記事をよろしくお願いいたします。

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