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抱きしめたい

2014年02月11日 | 邦画(14年)
 『抱きしめたい―真実の物語』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)『ジャッジ!』で好演した北川景子主演の映画というので映画館に行ってきましたが、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』と同様、館内が女子高生で溢れかえっているのにびっくりしました。

 本作は、実話に基づく作品で、舞台は北海道網走。
 冒頭は、バスケットボールの試合の場面。
 選手の一人が倒れると、子どもがコートに入ってきて倒した選手にしがみついてしまいます。
 そして、試合後の打ち上げ会。
 窓際のサイドボードの上には、北川景子が写っている写真が飾られています。
 さっきの子どもが、父親に向かって、「お母さん、なんで死んじゃったの。お母さんのこともっと知りたい」と言うと、父親がノートを取り出して読み出します。
 「2008年2月10日。晴れ………」
 以下、高校時代に遭遇した交通事故(注1)で半身麻痺(記憶障害も)となり車椅子の生活を余儀なくされている山本つかさ北川景子)と、タクシー運転手・小柳雅巳錦戸亮)とが、体育館のコート予約のWブッキングという出来事で出会って(注2)、結婚して(注3)、そして、………、と二人の様々なエピソードが綴られていきます。

 どんな展開になるのかはすぐにわかるわけながら、映画では実にストレートに出来事が描かれていくので、話自体は大変な悲劇ながら(注4)、出演者の好演もあって、見終わった後の気分はさわやかなものが残ります。

 主演の北川景子は、「クシャッと鼻にしわを寄せるつかささん独特の笑い方」(注5)を上手く表現するなど、悲劇のヒロインを熱演しています(注6)。



(2)本作は実話に基づくものですから、あれこれ言っても仕方ありませんが、どうでもいいつまらないことを少々。

 主役のつかさは、交通事故により、新しいことを記憶できない「高次脳機能障害」を抱えています。
 その点については、映画の前半で何度か描かれるものの(注7)、後半になると半身麻痺の方がクローズアップされて(注8)、まったく言及されなくなってしまいます。障害が進行すれば、あるいは映画『博士の愛した数式』(2005年)のような事態になったかもしれないと思われるところ(注9)、実際はどうだったのでしょう?

 また、つかさは、障害者の仲間と「ボッチャ」という競技に熱心に取り組んでいます(注10)。



 これも前半で何度か描かれるものの、後半になるとなんとなく画面から消えてしまっています。他方で、雅巳が出場するバスケットボールについては、冒頭とラスト近くで効果的に描かれているのですから、彼女が出場したボッチャの試合がどうなったのかくらいは描いてもらいたいところです(各人がボールを投げ合うところまでは描かれるものの経過及び結果はカットされています)。

 なお、本作には児童養護施設「ひまわりの里」が登場し(注11)、施設にいる子どもの一人のゆかりが、「可愛くて、親が事故でいない場合だと、すぐに出て行くよ。でも私みたいにブスで、親が前科者だとなかなかここを出られない」と、今話題になっているTVドラマ『明日、ママがいない』のグループホーム「コガモの家」にいる子どもたちが喋るのと似たようなことを言うので、その同時性が気になりました(注12)。

(3)渡まち子氏は、「映画を見て号泣したいと望むファンには物足りないかもしれないが、平凡な男性と障害をものともしない強気な女性という構図の面白さ、二人の純愛、残された人々の心に宿した希望を感じ取りたい」として50点をつけています。



(注1)「高校の時、知り合いの車に乗っていて、信号待ちをしていたら、横から別の車にポーンと突っ込まれて。私、神様に蹴っ飛ばされたんだと思って。私も蹴っ飛ばし返そうとボッチャをやっている」などとつかさは雅巳に語ります。

(注2)Wブッキングの出来事があった後、体育館で独りタクシーを待つつかさに、雅巳が自分の車に乗るように言うと、つかさは「ぼったくるの?」と応じ(雅巳は「今日の仕事は終わっているから無料」と答えます)、また車の中でも「ちゃんと前を向いて運転して。また事故に遭うと嫌だから」などと文句を言いますが、結局は雅巳の車で北見のデパートに行くことになります。

(注3)つかさの母親(風吹ジュン)は、「この子は独りでは何も出来ないの。あたしとヘルパーさんがいるから独り暮らしができているの。体だって悪くなっていくかもしれない。あなたもこんな子が嫌になるかもしれない」と雅巳に言い、また雅巳の父親(國村隼)も「何を考えているのかバカ息子。俺は孫の顔を見れないのか」と言って、それぞれ二人の結婚に反対しますが、二人の思いは強く、出会ってから2年ほどでゴールインします。

(注4)つかさは、雅巳との間で出来た子どもを無事に出産しながらも、交通事故の後遺症ではなく、「急性妊娠性脂肪肝」(妊婦の1万人に1人の割合で発症)で急死してしまうのですから!

(注5)本作の公式サイト掲載の「Production Notes」より。

(注6)なお、共演の錦戸亮は、『県庁おもてなし課』と同様に、スカッとした青年役を好演しています。また、雅巳の同僚運転手役に上地雄輔(「ここには俺の良さをわかってくれる女がいないから、ハワイでタクシーをやろうと思う」と言う男の役を好演しています)が出演しています。

(注7)最初に雅巳と出会った時に、つかさは、雅巳のタクシーに乗って北見のデパートに買い物に出かけるのですが、欲しい物を描いたメモ書きを家においてきてしまったために、何を買ったらいいのかわからなくなってしまいます。あとで、つかさの家に戻ると、机の上にそのメモ書きが置いてあることを雅巳は見つけるものの、つかさの方では書いたこと自体を忘れてしまっているようです(「記憶がパーッと飛んじゃうんだ。大分良くなってきたんだ。でも、まあいいかと思っている」などと、アイスクリームを食べながらつかさは雅巳に話します)。
 また、つかさが独りで雅巳の家にやってきて「あんたに用がある」と言うので、雅巳が「なんの用?」と尋ねると、つかさは「忘れちまったぜ」と答えます。
 さらに、別の日につかさは男(寺門ジモン)と親しげに話していて、雅巳が「誰?」と尋ねると、つかさは「何度会っても覚えられないんだ」と答え、それに対して雅巳は「ある日君に会ったら、忘れられているかもしれない」などと冗談めかして言ってしまいます。

 最後の点は、もしかしたら冗談ではないかもしれません。
 「新しいことを記憶できない」という点で、「高次脳機能障害」は認知症に類似していて、後者の場合、『ペコロスの母に会いに行く』を見てもわかるように、昔の記憶は鮮明なのに、例えば面倒を見てくれる自分の長男の判別が難しくなってしまうようなのですから。
 でも、「高次脳障害」の場合、つかさが雅巳に「大分良くなってきたんだ」と言うように、症状の改善が見られるという点で認知症とは異なるのかもしれませんが。

(注8)本作では、リハビリによって、半身麻痺のつかさが器具を使ってどうにか歩けるようになる様子が描かれていますが(北川景子が熱演しています)、この間見たTV番組によれば、脳梗塞に陥って左半身麻痺となった経済人類学者の栗本慎一郎氏は、「「ミラーボックス」によるリハビリ法を試した結果、2ヵ月後には症状が良くなり、現在はゴルフや車の運転が出来るほどに回復し」ています。

(注9)その映画に登場する数学博士(寺尾聰)は、記憶が80分しか保持できないために、様々なことをメモ書きにして洋服の上にたくさん貼り付けています。

(注10)つかさは、チームの他のメンバーに「練習の時から集中しなければダメ」などと叱咤します

(注11)つかさは、ボランティアとして「ひまわりの里」に出向き、子どもたちとボッチャをしたりします。また、同施設にはつかさの親友・夏海平山あや)も職員としています。

(注12)大きな問題となっているTVドラマについては、第1話だけ見たのですが、問題とされている点もさることながら、大人の作り上げた大人がわかるストーリーを子役たちにやらせて(今の子役は、昔よりも格段に演技力が増していて、どんな表情や動作も大層上手くこなします!)、大人が楽しんでいるといった格好になっているような感じがし、むしろその点が酷く嫌らしいなと思いました。
 そして、このドラマを見た児童養護施設の子どもの中にはリストカットする者も出たとのことですが、子役による大人勝りの演技によって視聴率を稼ごうとする低劣なドラマをなにもわざわざ子どもたちに見せることもないのでは、と思いました。



★★★☆☆☆



象のロケット:抱きしめたい―真実の物語


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2 コメント

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Unknown (ふじき78)
2014-02-12 21:27:08
> 「ちゃんと前を向いて運転して。また事故に遭うと嫌だから」などと文句を言いますが、

これでマーさんが事故にあって重度の障害者にでもなったら、組み合わせが違うんだけど、『デロリンマン』とその息子みたいな哀しい話だよなあ。
Unknown (クマネズミ)
2014-02-13 06:52:58
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
また事故に遭うというところから『デロリンマン』を思いつくなんて、「ふじき78」さんの連想力は常人を飛び抜けていて、とても追いつけません!

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