映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

サウダーヂ

2011年11月14日 | 邦画(11年)
 『サウダーヂ』をユーロスペースで見ました(注1)。

(1)個人的事情もあって比較的よく知っている甲府市を舞台にし、それもブラジル日系人が登場すると聞き、なおかつ、『映画芸術』誌で特集を組まれたりもしたので(注2)、是非見たいものだと思っていました。
 ところが、その公式サイトの「劇場案内」を見ても、しばらくは、8月下旬の1日限りの上映が甲府市内の映画館で行われることしか、掲載されていませんでした。
 としたところ、渋谷ユーロスペースでロードショーと聞き及んで、勇躍、出かけた次第です(当初はレイトショーだけだったところ、今や1日3回の上映になっています。今月25日まで)。

 39歳の富田克也監督の3本目の作品であり、出身地である甲府市の状況を、土方のセイジとラッパーのアマノを中心にして、日系移民をも交えつつ、描き出しています。

 甲府市は、東西に走る中央本線によって南北に分断され、甲府駅の北側には武田神社などがあるものの、商店街は専ら、舞鶴城公園とか県庁のある駅の南側で発展していました。特に、岡島百貨店の周囲は、いくつもアーケード街があって、かなり賑やかでした。
 ところが今や、そこにあったはずの商店の大部分がシャッターを降ろしていて、ところどころは歯が抜けたように駐車場になっています(注3)。



 これは、中規模の県庁所在地がどこでも抱える、中心市街地の空洞化現象の一つの表れといえるでしょうが(甲府市の場合、大型ショッピング・モールが作られた昭和町の方に中心が移っているようです)、大きな流れとしては、停滞する日本経済に起因するとも考えられ、それは、土方のセイジの仕事の減少といったところにも現れ、また沢山いる外国人労働者の生活にも現れています。

 映画の冒頭は、セイジ鷹野毅)が、新入りの保坂伊藤仁)と、「15番」というラーメン屋で飯を食べている場面。
 セイジが保坂に向かって、「午前中、きつかったでしょう。ここ悪現場なんですよ」と言うと、保坂は、「ついてなかった、でも俺、派遣だから」と言い、さらに「俺、タイに住んでいた」などとも打ち明けます。
 こうした場面などから、セイジは35歳くらい、土方の仕事を長く続けており、ただ今の現場は水が出るところで、かつ石もあり、仕事が相当きついことなどが分かってきます。
 さらに、日本人の妻・恵子工藤千枝)がありながらも、別途タイ人ホステス・ミャオに入れ揚げている様子です。

 また、一時は一つの団地を丸ごと占拠していたほど大勢いたブラジル日系3世達は、日本経済の停滞とともに、職場がなくなってドンドン帰国してしまいます。
 映画で象徴的なのは、ある日系ブラジル人の家族の食事風景で、夫ロベルトは、日本語混じりのポルトガル語で、「もうそろそろブラジルに帰らないといけないと思うよ」などと子供達に話しますが、フィリピン人の妻メイは、日本語と英語とポルトガル語のチャンポンで、子供に「ブラジルに帰りたいの?」、「でも、一度ブラジルに帰ってしまったら、日本には2度と戻れないし、フィリピンにも行けなくなってしまうよ」などと話します。
 彼らは、小綺麗な団地に住んでいたのですが、やがて一家を挙げてブラジルに帰って行きます。

 ただ、ディスコでは、そうしたブラジル人達の勢いが未だ強く、ラッパーのアマノ田我流)は、いくら♪政治家が一番のギャングスター♪などと声を張り上げて歌ってみても、あまり聞いてはもらえず、相当苛ついています。



 ラッパー達と一緒に国道の側を歩いているときでも、アマノは独り、「俺たちの歌を全然聞いてない、なんとかしなくちゃいけんよ」などと言い募ります。

 という具合に映画は映し出されていきますが、それぞれの物語は、ゆるく交錯しつつもほぼ独立して展開され、それらが大きな流れに押し流されていくように描かれることによって、全体として、甲府市の今、ひいては日本の今を浮き彫りにしようと作り上げられています。

 まず、土方のセイジに関しては、一方で、所属している会社の親方から事業を止めることにしたと告げられ、職を失い、他方で、入れ揚げているタイ人ホステスに「タイに行って一緒に暮らそう」と言うも、あっさりと断られてしまいます(注4)。

 アマノの方は、昼間は、建築現場でセイジたちと一緒で、土のう作りなどのアルバイト仕事をしています。その際にも、日系人がらみと思われる窃盗事件に遭遇すると、「あいつらはロクなことをしない」と、ディスコでの恨みがさらに増幅してしまうようです。

 そのアマノは、幼馴染の「まひる」(尾崎愛)の企画でブラジル人たちと一緒に舞台に上がることを了承するも(注5)、「まひる」が単に挨拶として抱擁した相手のブラジル人を、その彼氏と誤解して追いかけた挙句、ナイフで刺してしまいます。

 結果として、甲府市の観光名所やその明るい未来を描く御当地物とはほど遠い(注6)、実に興味深い作品が出来上がり、3時間近い長尺(167分)ながら、大層面白く見ることが出来ました。

 映像として興味深いところは幾つもありますが、例えば、冒頭の工事現場のシーンは様々なことを示唆しているように思われます。すなわち、ビルの土台を作るために、セイジら土方が地面を下に掘り進むのですが、後から後から水が湧き出てくるのです。
 常識的には、セイジらを待ち受けている苦労の種が尽きないことを読み取れるものの、また、毛嫌いしようが何しようが、外国から長期滞在者がドンドン日本に入り込んできてしまっている状況を表しているともいえるかもしれません。

 また、アマノが心を寄せている「まひる」が企画するイベントは、ブラジルの土着格闘技「カポエイラ」とアマノ達の日本語の歌とを同じ舞台に上げようとの企画ながら、アマノがブラジル人の若者を刺してしまうということは、両者はそれほど簡単に融合などできないことを示唆しているのかもしれません。

 こうした様々の印象的な映像に加えて、さらにまた、出演している人たち一人一人が実に生き生きと描かれていて、まるでドキュメンタリー映画を見ているように思われるほど、足が地に着いた感じがするからでもあると思われます。
 実際には、プロの俳優はごくわずかで、出演者の大部分が地元の人たち、ということも与っているのでしょう(注7)。

(2)季刊誌『映画芸術』夏号(No.436)に掲載された論考(P.48~)で、社会学者・宮台真司・首都大学東京教授(注8)は、本作について、「あえて言えば、「客観的」で綿密な社会観察と、それをベースにした「主観的」で強力な世界観の、組み合わせ。「僕たちよりも社会を知る者たちの世界観だ」と身をゆだねることができる」等と論評した上で、「本作の意味を深く理解する」のに必要な知識として、次のような事柄を取り上げています。

a)日本では、「「いわゆる単純労働者」を排除することになっている。だが、外国人の「いわゆる単純労働者」なくして、既に日本は回らない。そこで、さまざまな制度を用いた「ペテン」がまかり通っている」。

b)すなわち、「一般永住者に占める割合がいちばん高いのが中国人で、30%、約17万人、続いてブラジル人で、21%、約12万人、だ。彼らは制度の「ペテン」によって長く在留した人たちである」。

c)「中国人の場合は技能研修という「ペテン」」。
 「研修だけで労働をしない建前なので、労働基準法が適用されないから妥当な賃金を支払う必要がなく、僅かな手当だけ渡される」。

d)ブラジル人の場合は日系人という「ペテン」。
 「1989年に入管法が改正され、日系三世(より以前)とその扶養者は全員、無条件で定住ビザを貰えるようになった」。
 「かくして、日本語を解さないポルトガル語コミュニティが、工業団地や周辺に分布するようになった」。

 こうした事態がそのまま放置されていると、ノルウェーで本年7月22日に起きた銃乱射事件のような、悲惨な出来事が突如として日本でも起きかねないのでは、と思ってしまいます。
 本作でも、ラッパーのアマノは、「あいつら(日系ブラジル人たち)、ファベイラというゲットーから出てきた。俺たち舐められている。俺たちも、マジにならないといけない」と、敵意をあらわにします。

(3)この映画を論じたものは、例えば次のようなものがあります(注9)。
 日経新聞編集委員の古賀重樹氏は、「こころの荒廃に加え、過激な民族主義が台頭するという物語もあながち空想とは思えない。土木労働者をはじめ現実に甲府近辺で働く人々を配役し、じっくり撮影した。画面は力強く、その存在感に圧倒される」と述べ、星5つのところ5つ(「今年有数の傑作」)をつけています(10月14日付)。
 次いで、上記(2)で取り上げた『映画芸術』夏号に掲載された論考「やまなしの水は」において、詩人の手塚敦史氏は、「これほどまでに好ましい後味の悪さとインパクトとを併せ持つ映画は、久しぶりに観たように思う。派手なアクションや映像美といったものには依拠せず、生きている根源的な側面を引き寄せる力のありかと、それを丹念に確認する手触りとが、ここにはあるのだ」(同誌P.46)等と述べています。
 また、ブログ「映画芸術DIARY」に掲載されている「『サウダーヂ』クロスレビュー」において、ライターの若木康輔氏は、「いい映画の価値には娯楽、美学から社会啓蒙の意義まで色々あり、そのひとつに、すでに大勢が意識の下で思い当たっているけれど形にならなかったことを提示し、気付かせてくれる、鏡の効果がある。ああ、言われてみれば確かにそうだよ! というやつ。『サウダーヂ』にはその、言われてみれば、がある。いまは地方の市街を描いたら別に狙わなくても国際色たっぷりになるのだ。この切り口の発見ひとつだけでも、僕らの視界は相当に拡がる」等と述べています。
 さらに、同じ「クロスレビュー」において、映画監督の深田晃司氏は、「そのスクリーンに映し出される顔の得も言われぬ説得力にやはり驚かされた。確かに彼らはジャンキーであったりヤクザであったり移民であったりと、ある社会的雛形を背負ったキャラクターとして設定されているが、それは腐るほど繰り返された物語のステレオタイプにギリギリのところで決して隷属しない」等と述べています。



(注1)“サウダージ”については、10月2日の記事の「注2」を参照。
 なお、下記の「注9」で触れている「宇多丸」氏は、「ここではないどこかに憧れる」ことが「サウダーヂ」だと述べています。

(注2)月刊誌『シナリオ』12月号には本作のシナリオが掲載されています(ただし、実際の映画とは、様々な個所で違いも見受けられるところです)。

(注3)例えば、このサイトの記事を参照。

(注4)セイジが、「俺、向こうで働くから、向こうで一緒に暮らさない?俺、こんなところ嫌なんだ。何も起きないよ。タイにだって土方の仕事があるだろう」などと言うと、タイ人ホステスは、「ダメ。向こうはとっても安いから無理。家族を養えない」などと答えます。

(注5)映画では、「カポエイラ」というブラジル生まれの格闘技を演じるグループが映し出されています。

(注6)ビルの屋上から甲府の中心街を見下ろしながら、保坂が「この街もモウ終わりだな」と言うシーンがあります。
 なお、保坂は、タイにも住んでたことがあるようで、セイジと一緒に「水パイプ」を吸っている時に、「掘りまくれば、真下はブラジル、ちょっと曲がればタイ!」などと叫びます(サバンナ八木の「ブラジルのみなさん、聞こえますかあ」を思い出します)。



(注7)たとえば、アマノを演じた田我流は、山梨県で活動するMCで、今回映画初出演。

(注8)驚いたことに、本作では、宮台氏が、民寿党の若手政治家・赤尾大輔として出演しているのです!演説会のシーンがあり、「個人と個人のふれあいをモット大切にしたい」などと述べています。なお、セイジの妻は、赤尾の熱烈な支持者になっています。

(注9)『SRサイタマノラッパー2』の(5)「で触れた宇多丸」氏のTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」の11月5日分の放送で、本作について同氏の論評を聞くことが出来ます。
 その中で同氏は、本作は今年屈指の傑作であり、日本語ラップ映画として、『サイタマノラッパー』と表裏一体をなすのではないか、『サイタマノラッパー』は、崖っぷちに立たされた個人が立ち直っていく様子を描き出すが、『サウダージ』は、個人は無力だが、それでもここではないどこかを憧れてる様子を描いており、かつ映画の外側の社会にまで触れようとしている、などと語っています(大体の趣旨ですが)。


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6 コメント

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サバンナという大草原もなく (ふじき78)
2011-11-19 09:58:39
観た。

面白かった。

人がいっぱい入ってた。

にも関わらず、見知り合いの映画ブログには登ってこない。普段、映画を見ない「山梨」に関係した秘密組織の人員がとっかえひっかえ、この映画に来てるのだろうか?

サバンナ八木が無関係なのはよかったと思います。
長尺物のすすめ (クマネズミ)
2011-11-19 20:59:48
「ふじき78」さん、TB&コメントを本当にありがとうございます。
「面白かった」のは何よりでした!
本当に観客は随分入っているのに、有力ブログではマッタク取り上げていないのはどうしたことでしょう!
「ふじき78」さんのエントリが、そうした流れを変えてくれればと願うこと頻りです。
なお、「注6」で触れましたように、「サバンナ八木」のコントは、ブラジルに言及する際には、最早暗黙の了解事項になっているのではないでしょうか?

Unknown (KLY)
2011-11-28 01:10:18
ふじきさんではないけれど面白かったです。
私の時も結構な人が観に来ていましたが、この手の作品はブログに上がりにくいのは普通かなと。例えば岩波ホールやイメージフォーラムでやる素晴らしい作品で満員御礼が続いていても全く上がってこないものとかありますし。
更にその手の作品の記事を上げるとあからさまにアクセス数が落ちたりするんですよね。とても残念なんですが、結局世の中が求めているのはそういうことなんだろうなと思うことにしています。テレビ局主導の作品で流行のイケメンが出ていたらもうそれだけでぶっちぎりですもん。
ブログの実情 (クマネズミ)
2011-11-28 07:36:22
KLYさん、TB&コメントをわざわざありがとうございます。
貴重なご意見を寄せていただき、感謝申し上げます。
「結局世の中が求めているのはそういうことなんだろうなと思うことにして」おられるとは、誠に残念ですが、仕方のないことなのでしょう。
アクセス数など囚われず、KLYさんのように(数といい、エントリの内容といい、KLYさんの足元にも及びませんが)、見た映画については何かしらのことを書いていこうと思っているところです。
Unknown (ほし★ママ。)
2012-02-19 20:37:28
クマネズミさんがふじきさんにお薦めしてらっしゃった時から
公開を楽しみにしていましたが、やっとです~
ミニシアターですが、補助席が出る盛況でした。
 
現状を伝えたいと言う思いがヒシヒシと伝わってくる映画でした。
地方へ (クマネズミ)
2012-02-19 21:51:46
「ほし★ママ」さん、TB&コメントをありがとうございます。
昨年の8月に甲府市で最初の公開があってから、ジワジワと全国を回っているようですね。地方都市の「現状を伝えたいと言う思い」が、おっしゃるようにズバッと見る者に届く感じでした。

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