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映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

フォックスキャッチャー

2015年03月06日 | 洋画(15年)
 『フォックスキャッチャー』を渋谷シネマライズで見ました。

(1)昨年のカンヌ国際映画祭で監督のベネット・ミラー(注1)が監督賞を受賞した作品だというので、映画館に行ってきました。

 本作の冒頭では、多数の猟犬を従えて馬に乗ってキツネ狩りをするシーンが描かれて、タイトル・クレジット。
 次いで、マークチャニング・テイタム)が、練習場で人形型ダミーを使って練習しているところが映し出されます。



 その後、児童を相手にした講演を行うため車で小学校に向かいます。講演ではレスリングの話をし、1984年のロス五輪で取った金メダルを披露します。
 終了後、講演料の20ドルを受け取る際に、兄のデイヴと間違われてしまいます(実際には、兄も、同じオリンピックで別階級で金メダルを獲得しています)。
 そのデイヴマーク・ラファロ)とは練習場で会いますが、マークが「無言の留守電をしただろう?」と尋ねると、デイヴは「俺が?」と驚きます。



 そんな会話の後、二人は組んで練習を行うものの、デイヴが「腰の入れ方が甘い」などと指導すると、マークは力を込めて反撃し、デイヴの鼻から血が流れることに。
 練習が終わった後、マークが自宅に戻ると、世界的財閥デュポンの御曹司ジョンスティーヴ・カレル)の代理人からの電話があります。内容は、「ジョンが会いたがっている。デュポン家の施設まで来て欲しい。飛行機はこちらで手配する」というもの。
 マークは、ジョンに会うためにペンシルバニア州にあるフォックスキャッチャーまで出かけ、ジョンと会うことになりますが、さあジョンとマーク、それにデイヴとの関係はどうなることでしょうか、………?

 本作は実話(true story)に基づくものですが、世界的なレスリング選手であるマークとデイヴの兄弟に、世界的財閥デュポンの御曹司ジョンが絡み合って、ラストまで大変緊張感溢れる作品に仕上がっています。
 本作では、この3人を演じる俳優たちの演技が実に素晴らしく、なかでも、御曹司ジョンに扮するスティーヴ・カレルの大層不気味な様には圧倒されます。



 クマネズミは、彼をこれまで見たことがありませんが、マークを演じるチャニング・テイタムは『ホワイトハウス・ダウン』で見ましたし、デイヴに扮するマーク・ラファロは『はじまりのうた』で見たばかりです。二人共、その持ち味を本作において遺憾なく発揮していると思いました。

(以下、色々とネタバレしますので注意してください)

(2)本作の公式サイトのキャッチフレーズは「なぜ大財閥の御曹司は、オリンピックの金メダリストを殺したのか?」となっていて、あたかも本作が謎解きドラマであるかのようですが、とてもそのような作品には思えません。
 確かに、ジョンは、自分が以前作らせたドキュメンタリー(注2)を見た後、急に車で外出し、デイヴが車の修理をしているところに現れて、彼を撃ち殺してしまいます(注3)。
 でもその事件が起こるのは、ジョンが力を注いだソウル五輪(1988年)においてマーク(注4)が金メダルを逃した後、8年もの時間が経過した後であり、それに、事件の直前にジョンが見ていた映像の最後は、あるセレモニーでマークがジョンを最大級に賞賛して紹介し、2人が壇上で抱きあうシーンです。
 にもかかわらず、ジョンが殺したのはマークではなくデイヴなのです(注5)。

 それに、映画のエンドロールで映し出されたところによれば、ジョンは2010年に獄中で死亡したとのこと。さらに、劇場用パンフレットに記載されている「略年表」によれば、ジョンは「統合失調症を患っていたとされ、殺害時の精神的状況をふまえ、計画性のない殺人として13年~30年の禁錮刑となった」ようです。
 としたら、元々、この事件に関して「なぜ」を問うことはあまり意味のないことなのかもしれません。

 そうなると何が見どころになるのか、ということになります。
 それは見る人によって様々ながら、下記の(3)で触れる評論家諸氏が言うように3人の俳優の演技合戦もその一つになるでしょう。
 クマネズミは、ジョンに扮したスティーヴ・カレルが絶えず漂わせる不気味さに圧倒され、戦慄を覚えました。
 ただ、その演技は、いわゆる統合失調症患者につきまとう一般的なイメージ(あるいは先入観)にかなりの程度依拠するものではないかという気もします。
 確かに、劇場用パンフレットに掲載のインタビュー記事において、スティーヴ・カレルは、「手に入る動画はすべて見たし、彼の著書も読んだ。どんな人物だったのか、可能な限り全体像を掴もうとしてね」とか「独特の話し方や物腰、しぐさなどを習得できるように、数ヶ月訓練した」などと述べています。
 ですが、例えば、残されているジョン・デュポンの写真からすると、外見上は、この映画から伺えるような不気味さは見てとれず、ごく普通の人間ではないかとも思えてしまいます。



 それに、単なる素人の見解に過ぎませんが、元々、統合失調症患者を見分けることができる外見上の特徴といったものなど、一般には存在しないのではないでしょうか?

 こうした点は、マークに扮したチャニング・テイタムについても言えるかもしれません。
 マークの外見とか身のこなし方は、例えば、日本のプロレスラーのアントニオ猪木を彷彿させるものがあります。
 それはそれで素晴らしいことながら、寡黙で人当たりがよくなく、あまり知性的ではないというマークの人物像は、もしかしたら、レスラーについての一般的なイメージに依っているとはいえないでしょうか(注6)?

 しかしながら、ジョンにしてもマークにしても、普通の人間のような振る舞いをしている様を映画で描き出せば、映画として大層インパクトに欠ける出来上がりになってしまうことでしょう。本作のように、一般人が抱いているイメージに乗っかった映像をつくり上げることによって、より広範な支持を受けることになるものと思われます。
 ですから、映画として何ら問題ないとはいえ、ただ、その映画が「true story」に基づいているとされる時、その場合の「true」とはいったい何なのか考えさせられてしまいます。

(3)渡まち子氏は、「財閥御曹司が金メダリストを射殺した事件を描く実録ドラマ「フォックスキャッチャー」。静かな狂気を漂わせるスティーヴ・カレルが素晴らしい」として80点を付けています。
 前田有一氏は、「これは実在の殺人事件を、主要な関係者を実名で描いた大胆なドラマでもある。役者の年齢がちょいと無理があるほど実物と離れていたりなど、少々気になる部 分はあるものの、それを上回る役作りと演技力によって、「演技合戦を楽しむ映画」として見ごたえのある作品に仕上がっている」として70点を付けています。
 中条省平氏は、「アメリカ人の力への崇拝がどれほど根深いものか、戦慄的に納得させられる。レスリングでの肉体の力の謳歌から銃器のフェティシズムまで、それは勝者が正義だという思考につながり、ほとんど信仰となり、病理に帰着する。本作の描くレスラーと富豪の心理劇の背後には、そうしたアメリカの特異な精神性が重く横たわっている」として★4つ(見逃せない)を付けています。
 相木悟氏は、「震えるほど恐ろしい、人間の底知れぬ闇を覗き込む一級品であった」と述べています。
 稲垣都々世氏は、「いわゆる映画音楽や説明的なセリフを極力排し、静寂と沈黙の「間」によって作り出される重苦しく不穏な空気。悠揚としたリズムからじわじわ広がる尋常ならざる緊張感に酔い、打ちのめされた」と述べています。
 藤原帰一氏は、「(本作を)サスペンスとかホラーなどと形容するのは誤りでしょう。この映画は何よりも主人公のマークを中心に兄のデイヴと謎の富豪ジョンを配し、3人の人物を掘り下げるドラマ、英語で言うキャラクタースタディーとして見るべき作品だからです。そして、人物の捉え方がいいんですね」と述べています。



(注1)ベネット・ミラーは、『カポーティ』(2005年)や『マネーボール』を制作しています。

(注2)ジョンのレスリング・コーチとしての力量を世の中に訴えるために作られた映像のように思われます(実際のジョンはそんな力を持ち合わせていませんが、あたかも彼の指導によって素晴らしい成績があげられているかのようにドキュメンタリーは作られています)。

(注3)ジョンが車でやってきたのを見たデイヴが「何か?」と尋ねると、ジョンは「私に文句があるか?(You have a problem with me? )」と問い返し、デイヴが「文句など…」と答える暇もあらばこそ、ジョンはデイヴに銃弾を3発も打ち込みます。

(注4)ソウル五輪を前にして、マークは、フォックスキャッチャーにいることが精神的に耐えられなくなり、大学時代のコーチの元に去っていました(ただ、五輪の会場では、コーチのコーナーにはジョンとデイヴが入りましたが)。

(注5)デイヴは、マークと違いごく常識的な人間ながら、レスリングの才能はすばらしく、またレスリングの指導面でも優れたものを持っており、なおかつ和やかな家庭も持っています。こうした事柄とまさに対極的なジョンがデイヴに反感を抱いたということが考えられます〔映画では、デイヴの妻ナンシーシェナ・ミラー)に対しても銃を向けていますから、母親(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)と不和だったジョンは、デイヴの家族に対して強い嫉妬を覚えていたのかもしれません〕。それにしても、撃ち殺すとは大袈裟すぎます。

 なお、ヴァネッサ・レッドグレイヴは『もうひとりのシェイクスピア』などで見ています。

(注6)例えば、ジャイアント馬場の読書好きは有名ですし(例えば、このサイトの記事の「嗜好」によれば、「歴史小説が好きな読書家で、年間200冊以上の本を読み、柴田錬三郎、司馬遼太郎のファンだった」)、アントニオ猪木についてはこのサイトの記事をご覧ください。



★★★★☆☆



象のロケット:フォックスキャッチャー

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2 コメント

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イメージとは違うデュポン氏 (atts1964)
2015-03-09 09:31:09
写真を拝見して、穏やかそうな人ですね。とてもあんな事件を起こすようには見えないんですが。
映画では、デュポン氏の病気には触れられていませんでしたし、時間軸がちょっと縮めてあったりしたんですね。
もう本人がいないので、真相はやぶの中ですが、心の中に、いろんな嫉妬心が渦巻いていたように感じました。
TBできました(^^)
Unknown (クマネズミ)
2015-03-09 20:14:48
「attas1964」さん、TB&コメントをありがとうございます。
人の心の中の状態がそのまま表面的な顔つきに現れてくれれば、人を識別するのが随分と容易になるでしょうが、どうも人の世はそんなに簡単ではなさそうで大変です。

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