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洋菓子店コアンドル

2011年02月26日 | 邦画(11年)
 『洋菓子店コアンドル』を渋谷シネクイントで見てきました。

(1)先だって『ちょんまげぷりん』のDVDを見たばかりで、またしても洋菓子を巡る映画とはゲップが出るかなとは思いましたが、このところ映画館で邦画をあまり見ていないこともあって、マアかまわないかと出かけてきたところです。
 ただ、平日の最終回でしたが、シネクイントは観客が10名足らずで、実に寂しい限りでした。

 さて、この映画では、『ちょんまげぷりん』と同じように映画の中で洋菓子が作られるところ、言うまでもありませんが、シチュエーションは両者でかなり違っています。
 まず、『ちょんまげぷりん』の方は、江戸時代の武士が現代にタイムスリップして、そこで身につけた洋菓子作りの腕前を、また戻った江戸時代で生かすというファンタジー物語ですが、こちらの『洋菓子店コアンドル』では、鹿児島出身の若い女性が、洋菓子店で働くうちに身につけた腕前にさらに磨きをかけるべくアメリカに赴くというストーリーです。
 ですから、前者では菓子作りの腕前はお遊び程度でも全くかまわないのに対して(江戸時代の人々は、洋菓子自体を知らなかったでしょうから。それでも、タイムスリップしてきた武士・木島安兵衛は、コンテストで優勝するのですが)、後者においては、登場人物は遥かに真剣に菓子作りに励みます。
 特に、『ちょんまげぷりん』では、木島安兵衛がレシピを見ながら作ったにすぎない洋菓子を、彼が居候しているともさかりえの家に来た主婦たちは、揃って美味しいと言って食べてしまうのに対して、この作品では、蒼井優(故郷では、父親の洋菓子店を手伝っていました)が自信を持って作ったものが、こんな菓子では売り物にならないから、早く田舎に帰った方がいいと戸田恵子に言われてしまうのです。
 それでも、生来の負けず嫌いの蒼井優は、なんとかパティスリー「コアンドル」の厨房に潜り込むことに成功して、次第に腕を上げていくのです。



 こう見てくると、『洋菓子店コアンドル』は、蒼井優の成長物語と考えることができるでしょう。

 ソウなると、主役の江口洋介はどうなってしまうのでしょうか?



 それがこの映画の問題点だと思えてきます。
 すなわち、クレジット・ロールの上からは、主役は江口洋介なのでしょうが、蒼井優の登場する時間の方がずっと長いように思えます。
 特に、映画では、蒼井優が菓子作りに懸命に努力しているポジティブな様子が何度も映し出されます。他方、江口洋介は、伝説のパティシエ、カリスマ・パティシエとはされていますが、娘を交通事故で失ったことから立ち直れずに、洋菓子店で菓子を作ることはせず、菓子評論家としてウジウジ生活をしているだけの存在、言ってみればネガティブな存在なのです。
 これでは、いくら主役とはいえ希薄な存在感しかなく、画面に出てこないはずです。

 それに、江口洋介は、娘を交通事故で失った際に妻と別れたはずですが、そのことが十分に映画では説明されません。妻の方だって、その影響は甚大なものがあったはずです。にもかかわらず、事故のあった当日、朝出かけるシーンが何度かフラッシュバックとして映し出されるだけで何も状況が明らかにされずに、ラストのシーンとなるのです。
 そのシーンでは、江口洋介がある人にケーキを届けます。これは、蒼井優がニューヨークに留学する際の条件として江口洋介に約束させたことですから、そんないい加減な場面ではないはずです(注1)。
 ですが、遠くから真横で映しているために、江口洋介が、持っているケーキの箱を手渡す人物が誰であるのか、察しの悪い観客にはよくわかりません(江口洋介は名前をインターホンで呼んでいるのですが、はて「マキ」とは誰だっけ?)。

 また、階段から落ちて骨折した戸田恵子は、入院当初様々な指示を出すのですが、結果的には何一つ守られてはいないようなのです。



 すなわち、ラストで晩餐会のシーンがあるところ、これはキャンセルの指示が戸田恵子から明確に出されたのではなかったかしら?
 たとえまだキャンセルされていなかったとしても、その準備に当たって相当の食材が必要と思えるにもかかわらず、厨房は、戸田恵子の指示で、すべて食材を処分した時のままなのではないかしら(注2)?

 後半は様々な場面でキツネにつままれたような感じを受けてしまいますが、まあこの作品は甘いスイーツを巡るお話なのですから甘く受け止め、深く詮索すべきではないのでしょう!

 実質的な主役の蒼井優については、これまでも『Flowers』とか『おとうと』、『百万円と苦虫女』、『フラガール』などを見、また最近も『変身』のDVDを見たばかりですが、なかなかこうととらえるのが難しい多面性を持った女優だな、との感を深くしました。

 江口洋介は、『パーマネント野ばら』で菅野美保の恋人の高校教師を演じていましたが、この映画でも評論家(実はカリスマ・パティシエ)の役であり、こうした知的な雰囲気の役柄に向いているのかもしれません。


(注1)江口洋介は、10年ほど前にパティシエを辞めたということになっていますが、そうだとすると辞める引き金になった事件がその頃に起き、妻と別れたのも同じ頃だと思われます。仮にそうだとすると、10年近くも別居状態が続いていることになり、常識的にはその間に離婚しているものと推測されます。
 ですが、江口洋介は、離婚しているのではと思われる女性の元にケーキを届けるのです。こんなことは余り考えられないのではないでしょうか? 
 また、蒼井優は、何のために江口洋介にそんなことをさせるのでしょうか(また元の鞘に収めようとして?それなら余計なことでは?)?

(注2)食材の粉の入った大きな袋を厨房から運び出すシーンが、映画の中では映し出されていました。


(2)映画の舞台となる洋菓子店(パティスリー)というと、車で井の頭通りを代々木上原から大原交差点の方を目指して進んでいった時に、左側に見える「ル・ポミエ」(Le Pommier:リンゴの木)がすぐに思い浮かびます(通りの向こう側には、北沢中学校があります)。
 シェフのフレデリック・マドレーヌ氏は、ノルマンディー出身、フランスの三ツ星レストランにてシェフパティシエを務めた経歴があり、この店は2005年にオープンし、2009年には麻布十番にも出店しています(奥様は日本人)。
 北沢店は、電車の駅からはやや離れてはいるものの、幹線道路の一つである井の頭通り沿いであり、また店の前には車が3~4台くらい入れる駐車場があって、車で比較的アクセスし易いのがいいと思います。
 この店については、たとえば、ブログ「加納忠幸のワインを飲もうよ」や「スイーツの夢」は高い評価を与えていますが、ブログ「絶え間なき渇望」はそれほど高い評価を与えてはいません。

(3)渡まち子氏は、「物語はいつしか、すれ違った男女のラブストーリーではなく、ケーキ作りの修行に励む若い女性の奮闘記になっていく。そこに、ある事情から“人を幸せにするケーキ”が作れなくなった元天才パティシエの再生物語や、経営危機に追い込まれたコアンドルの起死回生の勝負がからむ」が、「この物語の欠点は、主人公のなつめにケーキ作りの才能があるのかどうかがはっきりしないことと、なつめと、コアンドルの店主や十村との絆を描ききれてない点だ」として50点を与えています。



★★★☆☆




象のロケット:洋菓子店コアンドル


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2 コメント

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Unknown (maki)
2011-09-22 21:27:50
こんにちは♪

コメントありがとうございました
お察しのとおり、間違った記事からのトラックバック送信でした、誠にすみません
改めましてコアンドルからの記事送信をさせていただきましたので、先のものを削除していただけますでしょうか。

拙ながら…私はおそらく、離婚した妻にケーキを届けたのだと思っています
ケーキがまた作れるようになった=娘を思う彼の再起だといえるのではないかなと。(ただし、作品内では罵倒されて突如復帰というツッコミどころ満載な描かれ方をされてるのがおかしい所ですよね)
お礼 (クマネズミ)
2011-09-22 21:54:07
makiさん、つまらないコメントに早速回答していただき、誠にありがとうございました。
なお、江口洋介がケーキを届けた先が誰かという点については、makiさんがおっしゃるように「離婚した妻」だと考えるのが常識的でしょう。でも、そうだとしたらなんかおかしいところがあるのでは、と思ってエントリにあるようなことを書いてしまいました。重要なシーンなので、もう少し観客に分かるように描いてほしいところです。

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