映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

スープ・オペラ

2010年11月11日 | 邦画(10年)
 『スープ・オペラ』を銀座シネスイッチで見てきました。

(1)物語の主人公はルイ(坂井真紀)。叔母のトバちゃん(加賀まりこ)と長年一緒に暮らしてきたところ、還暦を迎える叔母が青年医師(萩原聖人)と一緒に家を出て北海道に行ってしまいます。ルイは、大きな家に一人暮らしとなるものの、その跡を埋めるように、トニー(藤竜也)と康介(西島隆弘)が出現し、そのうちに彼らはこの家に同居するようになります。
 ルイに見合い話しがあったり、トバちゃんが一時戻ってきたり、トニーの妻(余貴美子)が出現したりと、様々な出来事が起こりますが、結局は、……。

 取り立てて目を引くような事件は何も起こりません。たまには世の中の喧騒を忘れて、こんな物静かなお屋敷町の中にこんな瀟洒な2階屋があってこんな小奇麗な庭があったらいいなというような家で、こんな暖かい人々が一緒に暮らしていたらいいな、という気分にさせてくれる映画です。

 主演の坂井真紀が出演する映画は、これまでも『ノン子36歳(家事手伝い)』などを見てきましたが、今回の作品のようなメルヘンチックな感じを持ったものは初めてです。
 基本的には婚期を逸して一人暮らしを続けるものの、トバちゃんが帰ってくると温かく迎えたり、トニーや康介が出たり入ったりする家を取り仕切ったりするという、いわば避難港的な存在であるルイを、軽い感じを出しながらうまく演じているなと思いました。
 また、康介役の西島隆弘は、いうまでもなく『愛のむき出し』で大活躍した歌手ですが、いわゆる草食系男子で実に明るい青年の役には、まさにうってつけだなと思いました。
 加賀まりこについては、このところ映画ではほとんどみかけませんが、実際には還暦をかなり超えているにもかかわらず、萩原聖人の青年医師にくっついて家を出てしまうという役柄を、持ち前の明るさでこなしています。
 さらに藤竜也は、クマネズミにとっては黒沢清監督の『アカルイミライ』(2003年)以来ながら、コミカルな感じを出して、これならスッと現れサッと消えてしまうトニーが適役でしょう。
 それに、文学者役の平泉成ですが、最近は『死刑台のエレベーター』をはじめとして、随分とあちこちで見かけるところ、この映画では、川上宗薫や宇野鴻一郎もかくありなんといった感じを出していて注目されます。なにしろ、ソバに女性がいないと書けない作家で、これまでその役に就いていた奥さんが故国のチェコに帰ってしまい、その後釜にルイをどうしても、と強請る始末なのです。

(2)この作品の原作は、『週刊文春』のインタービュー記事で著名でもある阿川佐和子氏による同名の小説です(新潮文庫)。
 それを、10月27日の記事で触れた『イキガミ』を制作した監督の瀧本智行氏と、11月3日の記事で触れた『いつか読書する日』の脚本を担当した青木研次氏とが料理したわけですが、映画とその原作とは、かなりの相違が見受けられます。
 たとえば、小説ではルイは、市立大学の事務局職員ですが、映画では図書館職員なのです。また、トバちゃんは、映画では青年医師と一緒に北海道の無医村を回っていますが、小説では奄美大島の方にいるようなのです。
 まあそんなことはドウでもいいことですが、一番大きな違いは、映画では、家の近くに、閉鎖された遊園地があって、話に一段落がつくと、メリーゴーランドの前でアコーディオンやクラリネットの演奏が行われるという点でしょう。
 まさに映画ならではの光景で、いったいいつメリーゴーランドが回りだすのかな、と観客に期待をもたせます。

 ラストも、また小説と映画とでは大きく異なります。小説の場合、ルイとトニーや康介との関係が曖昧のままにルイのところで一緒に暮らすことになります。
 他方、映画の場合は、ルイは一人で家に取り残されてしまいます。でも、それを補う形で、映画のラストでは、メリーゴーランドが回り電飾がキラキラ輝くなかで、登場人物の皆が三々五々ルイの元に集まってくるのです。
 小説のラストにあるルイの手紙にも、色々の人がたくさん集まった前日のクリスマス・パーティのことが書かれているので、実質的には、小説も映画も同じようなことを描いているのだな、とわかります。すなわち、「人間と人間の出会いというものは、そこに恋愛感情とか特別の感情が付随しない場合でも、あるいはかかわった機関がどれほど長くても短くても、それには関係なく、人生にとってかけがえのないものになる場合がある」ということでしょう。

(3)映画評論家の渡まち子氏は、「大人のためのお伽話のようなストーリーは、不思議な共同生活を通してユルく優しい人間関係を肯定する」とし、「終盤の遊園地のファンタジーには少々違和感を感じたのだが、エジプトのバスの挿話は良かった。どこでも乗車でき、どこでも降車できる、それがエジプトのバス。特別な結論を求めないこの物語にピッタリだ。癒しとグルメとファンタジー、やや安易な設定ではあるが、後味は悪くない」として55点を与えています。


★★★☆☆





象のロケット:スープ・オペラ

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2 コメント

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エジプトのバス (de-nory)
2010-11-11 07:33:54
くまねずみさん。こんにちは。

>エジプトのバスの挿話は良かった。どこでも乗車でき、どこでも降車できる、それがエジプトのバス。

私もここ、好きでした。
なんだか、自分もバスに乗ることを後押しされているようなそんな気分になれました。
なんとも、とりとめのない話なのですが、ホンワカな気分になる不思議な作品だったと思ってますよ~。
不快な思いをさせてしまったようで (de-nory)
2010-11-15 07:42:55
クマネズミさん。こんにちは。

どうも不快な思いをさせてしまったようで、申し訳ありませんでした。
わざわざの引用。
くまねずみさんのお気持ちも、その引用に含まれていると思っていましたので…。
以後、気をつけますね。

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