映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ニシノユキヒコの恋と冒険

2014年03月07日 | 邦画(14年)
 『ニシノユキヒコの恋と冒険』を渋谷Humaxシネマで見ました。

(1)本作は、そのタイトルからして、主人公が、 『源氏物語―千年の謎―』の光源氏のように、たくさんの女性との間で織り成す恋と冒険が描き出されているのかなと思って映画館に行きました。

 確かに、本作には、様々の女優が登場します(麻生久美子、尾野真千子、木村文乃、成海璃子、本田翼など、はては阿川佐和子まで)。
 でも、どこにも主人公・ニシノユキヒコ竹野内豊)の「恋」も「冒険」もありません。なんとなく色々な女性がニシノユキヒコに惹かれてしまい、一定期間付き合うものの、結局は関係がダメになってしまうということの繰り返しです。
 でも、それでいいのかもしれません。あくまでも、本作では、女性を主体にして、むしろ、女性たちのニシノユキヒコに対する「恋と冒険」が描かれているのでしょう(注1)。
 なにしろ、原作者が女流作家の川上弘美氏(注2)であり、監督以下女性がかなりの割合で映画制作に参加しているのですから(注3)!

(2)原作は連作短編で構成されており、短編ごとにニシノと付き合いがあった女性が語るという仕掛けです。ですが、そのまま映画にしたら作品としてのまとまりがつかなくなってしまうと考えたのでしょう、本作全体としては、ササキサユリ阿川佐和子)がニシノの女性遍歴を語り、それが回想的に映し出されるという構成をとっています。
 もっと言えば、映画の現在時点では、登場するとニシノは途端に交通事故で死んでしまい、その幽霊が、昔の恋人・夏美麻生久美子)の娘・みなみ中村ゆりか)のところに現れ、みなみが、幽霊と一緒にニシノの実家に行くと、そこではニシノの葬儀が行われていて、その参列者の中にササキサユリがいて、彼女がみなみに物語るというストーリーになっています(注4)。

 こういう構成をとることで、作品に統一性がもたらされることになるのは確かでしょう。
 でも、原作では女性たちの語りの中でしか存在しないニシノユキヒコ(まさに「幽霊」的な存在!)が、本作のように竹野内豊という俳優に実体化され、首尾一貫したものとしてリアルに描かれてしまうと、これでいいのかな、さらにはニシノユキヒコ自身が主体的行う「恋と冒険」はどこに行ってしまったのかな、などといった問題が生じてしまうのではないでしょうか?

(3)とはいえ、そんなにしゃっちょこばって考えることもないでしょうからサテおくとして、本作には、色々気になる小物が登場します。
 まずは、バナナパフェ
 本作の冒頭で、ニシノと夏美とがレストランで会って別れ話をしていますが、その間に座っているなつみには、ニシノがバナナパフェを注文します(注5)。



 そして、その10年後に学校から帰ったみなみが食べる大きなオニギリ
 みなみの母親・夏美は10年前に家を飛び出していて、その後は父親がみなみを育ててきたのでしょう、その大きなオニギリには具が入っていません。

 また、カエルのからくり時計
 これは、ビル街でニシノとマナミ尾野真千子)が待ち合わせをしている時に鳴り出します。
マナミが「なれるなら、あのカエルになりたい」と言うと、ニシノは「なんで、カエルに?」と聞き、マナミは「主役じゃないっていう感じ」と答えます(注6)。

 さらには、自宅でニシノが淹れるコーヒー
 ニシノは、クマネズミのようにコーヒーサイフォンを使うのではなく、ネル用コーヒーサーバーにコーヒーポッドのお湯を注ぐという本格的な淹れ方を披露します(注7)。



 そして、猫の「なう」。
 ニシノがコーヒーを淹れていると、隣に住むタマ木村文乃)がやってきて、「猫、お邪魔してませんか?」と尋ねます。ニシノは、心当りがないので「来てないみたい」と答えますが、部屋に戻ると猫を発見するのです(注8)。それから、この猫を介して、ニシノとタマと(タマと同居しています:成海璃子)との交流が始まります。

(4)また、よく知っている場所が画面の中に出てくると、その映画に親しみが持てます。
 まずは、江ノ電
 映画でなつみは、学校に行かずに電車に乗りますが、それが江ノ電で、幽霊のニシノも一緒に乗ってみなみの隣に座ります(注9)。
 車窓からは七里ヶ浜が見えます(例えば、このサイトの画像)。
 二人が電車に乗って行った先は、ニシノの実家。
 丁度そこでは、ニシノの葬儀が行われていて、ニシノが過去に知り合った女達が大勢集まっています。その中にササキサユリがいて、みなみにニシノの女遍歴を語ります。

 次いで、JR御茶ノ水駅の聖橋口そばの淡路坂(例えば、このサイトの画像)。
 神田・秋葉原の方から中央・総武線の線路に沿ったこの坂を登ってニシノとマナミが現れます。マナミは御茶ノ水駅から電車に乗って自宅へ帰りますが、ニシノのマンションはそこから見えるところにあるようです(注10)。

 さらには、本屋でニシノとマナミは待ち合わせますが、そこは新宿駅西口にあるブックファースト(90万冊の品揃えを誇る大型書店)。ニシノが映画評論家・山田宏一の本を読んでいるところを、マナミが近づいて二人で本屋を出て、ニシノのマンションに行きます。

 また、横浜の若葉町にある映画館の『ジャック&ベティ』(例えば、このサイトの画像)。
 この映画館へは、3年以上前に『うつし世の静寂(しじま)に』を見に行っただけながら(シネマ・ベティで上映されていました)、なかなか変わった作りで、その佇まいを今でもよく覚えています。
 本作では、エコ料理教室でお互いの顔を知っているニシノとササキサユリがそこで出逢い(注11)、喫茶店に行きます(注12)。

 それに伊香保温泉。別れているにもかかわらず、カナコ(本田翼)が電話で「温泉に行かない?」と尋ねるとニシノは「いいよ」と答え、ニシノはスポーツタイプのBMWでカナコの家まで出迎えに行き、そのまま伊香保温泉に行くのです(注13)。

(5)前田有一氏は、「多くの女たちから愛されては捨てられる男の女性遍歴を描いた「ニシノユキヒコの恋と冒険」は、そのタイトルとは裏腹に「女の子の、女の子のための、女の子が主役の映画」である」として30点をつけています。
 宇田川幸洋氏は、「この幽霊譚の枠組みは、うまく機能しているとは言いがたい。それぞれの恋愛エピソードのリアリズムに監督の本領がある」として★4つ(見逃せない)を与えています。
 萩野洋一氏は、「可愛らしくて可笑しくてせつない、そして残酷な映画」などと述べています。



(注1)最近では、竹野内豊は『謝罪の王様』、麻生久美子は『ばしゃ馬さんとビッグマウス』、尾野真千子も『謝罪の王様』、木村文乃は『小さいおうち』、成海璃子は『武士の献立』で、それぞれ見ています。

(注2)新潮文庫。原作は、10編の連作短編から構成されています。
 本作では、そのうちから5編〔「パフェー」(夏美とみなみ)、「おやすみ」(マナミ)、「ドキドキしちゃう」(カノコ)、「通天閣」(タマと昴)、「まりも」(ササキサユリ)〕が取り上げられています。

(注3)監督・脚本は、『人のセックスを笑うな』(2007年)の井口奈己。また、プロデューサーとして女性が3人参加しています。

(注4)映画で取り上げられている短編についても、原作に様々な変更が加えられています。
 例えば、映画の始めの方で、幽霊となったニシノがみなみのところに現れますが、短編「パフェー」でみなみは「25歳」とされているところ、本作では15歳の中学生とされています。また、同短編で夏美は夫とみなみと一緒に暮らしていますが(夏美は、夫の目を隠れて3年間ニシノと不倫関係にあったとされています)、本作で夏美は家出をしていて、みなみは父親(田中洋平)と二人で暮らしていることになっています。

(注5)ただ、パフェについては、本作のラストで、みなみが「パフェーなんか好きじゃなかった」と言うと、ニシノも「知ってた」と応じます。
 なお、原作の短編「パフェー」では、ニシノは「みなみが口を開く前にいちごパフェを頼み」、「いちごの季節でないときには、バナナパフェを頼んだ」とあります(P.13)。
 また、「パフェを「パフェー」とのばすように発音」するのはニシノの口癖とされています(P.14)。

(注6)場所は以前と同じながら別のシーンでは、ニシノが「なんでからくり人形になりたいの?」と尋ねると、マナミは「1日3回外に出てきて、また暗いところに戻る、それを繰り返す」などと答えます。

(注7)最初のコーヒーのシーンでは、まずカナコが忘れ物を取りに来たと言ってニシノのマンションに入り込んだところに、マナミもやってきます。

(注8)原作においては、猫の「ナウ」は、タマと昴を取り上げている短編「通天閣」ではなく、本作ではカットされているエリ子のことが書かれている短編「しんしん」に登場します。

(注9)本作におけるみなみは、鎌倉に住んでいるということでしょう(原作では、場所が特定されていません)。

(注10)付き合いの初めの頃は、ニシノが「僕のマンションに来ませんか?」と誘っても、マナミは「いいえ帰ります」と答えますが、しばらくするとマナミの方からやってくるようになります。



(注11)映画館の入口には、「社長太平記」とか「駅前旅館」などの看板(ポスター)が出ています。

(注12)喫茶店でササキサユリはニシノに対し、「『カサブランカ』で、ハンフリー・ボガードは最初からキャスティングされていたわけではありません。誰の名前が上がっていたでしょう?役者としてはそんなに有名じゃない人ですが、別の意味で有名な人」と質問しますが、彼が「わからない」と言うと、「レーガン大統領」と答えます(この記事の末尾の※参照)。



 なお、劇場用パンフレット掲載の「Production Notes」によれば、この件はシナリオに記載されているものではなく、撮影の現場でなされていた二人の会話から生まれたようです

(注13)ここで、カノコが「ユキヒコのこと好きだよ」と言うと、ニシノは「僕も好きだよ、でももう終わったんだ」と答え、それに対してカノコが「そうか、私たち大馬鹿だったね」と言うと、ニシノは「今でも大馬鹿だ」と答えます。
 なお、原作の短編「ドキドキしちゃう」には、「食事を終えて、あたしと幸彦は海岸に出た」(P.106)とありますから、二人の宿泊先が群馬県の伊香保でないことは確かです。



★★★☆☆☆




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