映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

コンテイジョン

2011年12月03日 | 洋画(11年)
 『コンテイジョン』を渋谷シネパレスで見ました。

(1)本作は、マット・デイモンが出演するのだから、これまでの作品(『アジャストメント』とか『ヒアアフター』など)からしても、そんなに外れることはないだろうと見込んで映画館に行きました。
 でも、その期待は大きく外れてしまいました。
 本作には、マット・デイモンだけでなく、マリオン・コティヤール(『パブリック・エネミーズ』)とか、ジュード・ロウ(『シャーロック・ホームズ』)、ケイト・ウィンスレット(『愛を読むひと』や『レボリューショナリー・ロード』)、グウィネス・パルトロウなど、主演級の俳優が引きも切らず登場するのです。
 当然、黙っていても面白くなるはずです。
 ですが、これはいったいどういう類いの映画なのだと言わざるを得ない結果でした。

 ある時、突然、得体のしれない感染症が蔓延し出し、ついには2千万人以上の犠牲者が出てしまう事態に陥ります。原因は、コウモリと豚のウィルスが混ざった新種のウィルスであることがつきとめられるものの、対抗できるワクチンはまだ開発されていません。
 さあこうした事態を、人類はどこで食い止めることができるでしょうか……。

 となれば、マット・デイモンが、医師とか医学研究者などに格好良く扮して原因を究明するとか、そうでなければ患者救援組織のトップとして縦横の活躍をする、といったことになるのが常識的でしょう。
 ですが、彼は単に、その伝染病に初期のうちに罹った女性(グウィネス・パルトロウ)の夫であって、ごく普通の人物として設定されていて、映画の大部分の時間は、病院に隔離され、ベッドに座り続けているだけなのです(なおかつ、なぜかその病原ウィルスに対する抗体を彼は持っているのです)(注1)。
 グウィネス・パルトロウは、中国滞在中に罹患し、アメリカに戻ってからすぐに死ぬだけのことですし(注2)、ケイト・ウィンスレットも、CDC(疾病予防管理センター)の感染症調査官ということで、患者の調査をしますが、その内に罹患して死んでしまいます。





 また、主役とされるマリオン・コティヤールはWHOの調査員に扮しますが、香港に出向いた際、中国衛生部に所属するフェンに拉致されてしまい、物語の中心的な動きからは外れてしまいます(注3)。



 要するに、主演級の俳優が次々と登場するものの、皆バラバラに短い時間行動するだけで、映画としてのまとまりは酷く悪いものとなってしまっています。

 なにしろ、CDCで全体を統括しているはずの人物(ローレンス・フィッシュバーン)も、自分の恋人に極秘の情報を流したかどで行動が制約されてしまうのですから。

 ただ、この映画であちこちに出没する人物は、ジュード・ロウ。フリージャーナリストとして、国際機関や政府機関の活動を混乱させる方向で動きまわります。



 彼は、政府機関の発表するものを端から疑ってかかり、それで彼のブログの読者が増えたことから、レンギョウの効果を吹聴して大儲けしたりするのです(注4)。
 といっても、感染症騒ぎの周辺部分で蠢いているだけの人物で、上記の人間とはコンタクトしないのですから、本作において接着剤の役目を果たしているわけではありません。

 そうこうしている内に、この病原ウィルスに対するワクチンがあっけなく開発され(注5)、結局はめでたしめでたしになるのですが、そんなことくらいなら、こんな映画をわざわざ作るまでもないのでは、と思いました。

 このように、映画が邦画の『Flowers』の如くたわいのない絵巻物のような作品になってしまったのは、出演した著名俳優の出演料が高すぎて、それぞれ拘束時間が十分に取れなかったことにもよるものでしょう(注6)。
 だったら、そんな有名人を使わずともと思いますが、制作会社の方針などもあってこういう映画となってしまったのではないでしょうか?

(2)「感染(contagion)」ときたら、邦画の『感染列島』(瀬々敬久監督、2009年;本年1月12日の記事の(1)で取り上げています)を思い浮かべる方が多いのでは、と思われます(注7)。
 こちらでも、日本に限定されてはいるものの1,000万人以上の患者が出たとされ、関与する医師(佐藤浩市など)たちも次々と死んでいきますが、研究者(カンニング竹山)の努力の甲斐あってワクチンが開発され、やがて感染症は収まります。
 ただ、本作とは、主人公の医師(妻夫木聡)には別れた恋人の医師(檀れい)がいて、この感染症の蔓延を機に再会するも、その恋人も病に侵されて死んでしまうとか、南の島に恩師(藤竜也)と一緒に病原体を探しに行くといった物語がしっかり描かれている点などで、大きく異なっているように思います。
 今更、こうしたロマンティックな物語をまともに持ってくれば、リアリティが酷く損なわれてしまうかもしれません。でも、本作のように、単に感染症が蔓延し、2,600万人もの死者が出たものの、ワクチンの開発によって克服できた、ということだけでは、いくら有名俳優がたくさん登場しようが、退屈極まりない作品となってしまいます。
 映画作品を制作する以上は、そこに観客を引き込む工夫が求められるのではないでしょうか?

(3)福本次郎氏は、「他人に働きかければ少なくとも現状に何らかの変化が起こるはず、映画はエモーショナルを排して彼らの姿を描写することで、己の価値観に従って行動する覚悟を見る者に突きつけているのだ」として70点をつけています。
 渡まち子氏は、「マット・デイモンやマリオン・コティヤール、ケイト・ウィンスレットなど、国際的な豪華スターが競演するが、映画は華やかさとは無縁。むしろ、淡々と進む不気味な演出に、スターが出演していることを忘れてしまいそうになる」、「派手さはないが、ドライな演出にリアリティを込めた、ソダーバーグらしいパニック・スリラーだ」として60点をつけています。




(注1)香港出張から帰ってきた母親(グウィネス・パルトロウ)と接触した息子は、罹患して死んでしまいますが、旅行中だった娘の方は助かります。そこで、父親のマット・デイモンは、娘を感染から守るために、厳重に彼女を隔離しようとします。

(注2)グウィネス・パルトロウは、実際には、香港でレストランの料理人からウィルスをうつされ、それをアメリカに運ぶという重要な役割を果たします(そればかりか、帰途、シカゴで時間ができたときに、マット・デイモンの前に付き合っていた男と浮気をしたというプライベートなことまで暴露されてしまいます)。

(注3)フェンは、自分の故郷の村の者にワクチンが支給されるようマリオン・コティヤールを誘拐し、暫くした後、ワクチン100本と引き換えに彼女を解放しますが、実は、中国政府の要請で、彼には偽のワクチンが手渡されたのでした。
 そのことを知ったマリオン・コティヤールは、本国に引き返すことなく、拉致されていた村に駆け戻ろうとします。

(注4)ジュード・ロウは、レンギョウが効き目があるにもかかわらず、製薬会社に儲けさせるために政府は嘘の情報を流している、などとTVで語ったりします。そんなことをしたために、彼は逮捕されますが、彼を支持する者たちからの献金で保釈金がととのい、釈放されてしまいます。
 ですが彼も、マット・デイモンと同じように、この感染症に対する抗体を予め持っていたために、レンギョウが効いたように見えたとされています。

(注5)単に、病原体ウィルスを猿に注入してできる抗体の効き目を探る、ということの繰り返しのようです。
 それでも、CDCの研究員(ジェニファー・イーリー)が、自分の体に「ワクチン57」を注射して治験をした上で、大量生産が行われます。
 本作では、上映時間の関係もあって、感染症が見つかってから1ヶ月くらいでワクチンが作られていますが、実際にはそんなに短期間のうちに製造されることはないようです。

(注6)劇場用パンフレットに掲載されている「Director Interview」の中で、ソダバーグ監督は、「この映画では、みんな短期間しか働かなくていいおかげで、なんとかなった。みんな、7、8日間しか仕事をしていないんだ」と述べています。

(注7)『感染列島』についての評価は概して低そうですが、クマネズミには決してそうは思えませんでした(何より、たくさんの物語を必死になってつないでいこうとする努力を買います)。




★★☆☆☆




象のロケット:コンテイジョン

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8 コメント

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こんにちは (愛知女子)
2011-12-05 15:02:58
クマネズミさん、拙ブログにコメントとトラックバック賜りましてありがとうございます!

この映画はそれぞれの立場での主役でしたね。
ただすごく短いですが…。

死ぬか生きるかの中間の役である後遺症に苦しむ人は登場しなかったですね。割とソフトでした。
最後に1日目のシーンを持ってきたのは世界に向けての戒めのメッセージなのでしょう。
私この後で、猿の惑星の映画を観ました…。

大物俳優を持って来る事でその役の立場の重要性が増すという事でしょうが…
あえて、はかない役や身動きの取れない役を演じる事で人間の命のあっけなさや無力さを知らしめたかったのかもしれません。
その他の意図は私にもよく分かりません。
この映画を見て海外のパンデミックの最前線で活躍する人達の苦労や危険を少し身近に感じる事が出来ました。



猿の惑星 (クマネズミ)
2011-12-06 06:48:33
「愛知女子」さん、TB&コメントをありがとうございます。
この映画の後で『猿の惑星』をご覧になったというのは、何か因縁めいたものを感じさせますね。クマネズミは見ておりませんが、漏れ伝わってくるところによれば、その映画でもウィルスが大きな役割を果たしているとのことですから。
なお、オフィシャルサイトを見たら、『インモータルズ』に登場するフリーダ・ピントも『猿の惑星』に出演しているとか。時機外れながら見てみたい気になってきました。
Unknown (リバー)
2011-12-07 02:53:00
TB ありがとうございます。

感染が起きたら どうなるか・・・
というシミュレーションのような作品でしたね

賛否 あるのは わかる気がします
Unknown (ふじき78)
2012-09-17 08:48:38
人間そうそうドラマのようにドラマチックには遭遇しないので、リアルでした。私はドラマチックでなくても面白かった口です。

無理にドラマチックにするなら、ローレンス・フィッシュバーンは「マトリックス」と同一人物で、ジュード・ロウ扮するエージェント・ウィルスを倒しにマッド・デイモンがコンピューター・ウィルスに感染する。ま、全く別の映画だ。
ドラマチック (クマネズミ)
2012-09-20 17:44:56
「ふじき78」さん、コメントをわざわざありがとうございます。
マット・デイモンが出演するのであればきっとドラマチックなものに違いないと思ったのがいけなかったのでしょう。そして、確かに、リアルには違いありませんが、マット・デイモンとジュード・ロウが免疫を持っているというの
も、なんだかご都合主義的だなとも思ってしまいました。

ドラマチックにするなら、「ふじき78」さんのように高踏的な路線に走らずとも、例えば、ローレンス・フィッシュバーンの指揮のもと、マッド・デイモンやケイト・ウィンスレットらの決死隊がミクロの大きさに縮小されてグウィネス・パルトロウの脳内に送り込まれ、ジュード・ロウ扮する病原ウィルスをやっつけるという古典的なものも考えられるところ、患者数が2,600万人では手の下しようもないでしょう!
Unknown (ふじき78)
2012-09-22 05:42:18
こんちは。

マッド・デイモンがウルトラセブンのコスチュームでグウィネス演じる松坂慶子の体内に入るとジュード・ロウ演じるダリーがいて、エメリウム光線を浴びせる、みたいなのを連想して夢想。

セブンがワクチンなら多数に行き届くんだな。

ジュード・ロウは財力を使って、感染しないよう注意してたから免疫がある訳でもないんじゃないですか?
コンテイジョンの評価、解釈。 (ノゾム)
2013-04-15 22:05:40
ワクチンが開発され安心、という描き方は成されていない。この展開で開発にこぎ着けなければ物語の収まりが悪くなるし、過去の例からも自然な結びと言える。英雄的人物のいない群像劇は、冷徹に人類とウイルスの闘争を描き、個々の人物設定にも無理がなく、パンデミックへの対応を考えさせる佳作の映画だと思う。以上、この方とは全く違う評価、解釈である。
Unknown (クマネズミ)
2013-04-16 05:31:14
「ノゾム」さん、わざわざコメントをありがとうございます。
ただ、本作が、おっしゃるように「冷徹に人類とウイルスの闘争を描き、個々の人物設定にも無理がなく、パンデミックへの対応を考えさせる」ような映画だとしても、それだけでは何の新鮮味も感じず、つまらなさだけが残ってしまいました。
特に、「パンデミックへの対応」については、そんな政府広報じみた要素をこうした劇映画の中に盛り込まなくてもという感じです。

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