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みなさん、さようなら

2013年02月14日 | 邦画(13年)
 『みなさん、さようなら』をテアトル新宿で見ました。

(1)昨年の大層面白かった『ポテチ』と同じ監督(中村義洋)‐主演(濱田岳)の組合せということで、映画館に足を運びました。

 物語は、小学校卒業式の前日の出来事がトラウマになって、団地(実に大きな団地で、その中には商店街まであって、何でも揃っています)の敷地の外へ一歩も踏み出せなくなった母子家庭の渡会悟濱田岳)を巡ってのお話(注1)。

 本作では、団地に住む子供たちの数が具体的に示されるところ、その出発点は、1981年(昭和56年)の卒業式の日。その日、小学校を卒業した107名は皆が団地の子供でした。
 それが17年経過すると、30歳(以下、年齢は推測です)の悟一人しか団地にいなくなってしまいます。
 その間、悟も、例えば16歳になると団地内で就職したり(注2)、団地内の同級生の女の子と付き合ったりと(注3)、それなりに努力してきました。
 でも、世の中の動きは激しく、団地内のいくつかの棟が取り壊されたり、商店街も大部分が閉鎖されたりしてしまいます。
 さらには、空いた部屋に外国人まで入居するように(注4)。
 いったい悟は、このままどう独りで生きていこうとするのでしょうか、……?

 本作の舞台は団地の中だけという大変大胆で特異な設定にもかかわらず、一人の人間が少年から青年に至るまでの多感な時期を生きていく様子を、様々なエピソードを交えながら実に巧みに描いていて感心しました。特に、人の一番変化の激しい17年間を濱田岳が一人で演じているのですから驚異です(注5)。

(2)本作は団地の中だけを描いているにもかかわらず、時代の変化はそこに押し寄せてきて、決して世の中の動きと切れているわけではありません。

 例えば、むろん原因がまるで異なっているでしょうが、地方都市における商店街のシャッター通り化(注6)と同じ現象が本作の団地にも見られます。

 また、上で触れましたが、本作では、外国人の入居者が出現していることが描かれています。特に、30歳直前の悟は、団地内のグランドで、ブラジル人の少女・マリアとサッカーを通じて親しくなります(注7)。

 ただ、各地の団地で大きな問題になっている住民の高齢化については、本作では余り触れられていないように思います(注8)。

 また、団地の自治会のこともあります。これだけ長く団地に生活しているのですから、その自治会との接触があっても良さそうに思われるところ(特に、悟は団地のパトロールまでしているのですから)、そんな場面はありませんでした(注9)。

 といっても、これらの点は、本作がことさら団地の社会史を描くことに主眼をおいているわけではないのですから、何の問題でもありません。

(3)渡まち子氏は、「一生団地から出ないと決めた青年の孤独と成長を描く「みなさん、さようなら」。団地という閉じた世界で時代の変遷を描く演出が上手い」として65点を付けています。



(注1)その前日に、学校が終わって悟たちが下校しようとすると、突然中学2年生の少年が教室に入ってきて、包丁でクラスメートを刺し殺します。悟は危うく難を逃れますが、これがトラウマとなってしまい、団地の外に出られなくなってしまいます(映画の中では、病院で「過換気症候群」だと診断されたとされています)。
 小学校で起きた事件と団地の外へ出られなくなったこととの関係性がよく分かりませんが(団地の中にも中学生は随分いたでしょうし)、とにかく団地の出口の階段にさしかかると、悟は体の自由が利かなくなってしまうのです。

 むしろ、悟がこの団地の外へ出ることとなる切っ掛けが、母親を巡る出来事であることに興味を惹かれます。先の『ループ』に関するエントリで取り上げた浅羽通明氏の『時間ループ物語論』では、ループを抜け出す切っ掛けとなる事件は恋愛絡みとされているところ、本作では、悟が一番好きだった緒方早紀倉科カナ)と一緒にカラオケボックスへ行こうとしてこの団地を出ようとしたにもかかわらず立ち往生してしまいますが、看護師の母親(大塚寧々)が勤務先の病院で倒れたことを知った悟は、なんのためらいもなく団地の階段を降りて病院に向うのです。
 こんなことからすると、悟が団地の外に出れなくなった引き金自体は小学校の卒業時の事件とはいえ、より深層心理的には、母親のそばから離れたくなかったこと(いわゆるマザコン)にあったといえるのかもしれません(下記の「注8」で触れる事件の後処理からもわかるように、母親も悟をしっかりと見守っているのです)。
 悟は、母親が書いていた日記の最後に「あなたなら、どこへ行っても大丈夫」と書かれているのを読んで泣きますが、母親の太鼓判があるせいでしょうか、その後しっかりとした足取りで団地を出て行くことになります。

 なお、母親は結局帰らぬ人となってしまうところ、東京だったら墓地をどう手当するのかがスグに問題となるでしょう。ただ、母親が書いていた日記の最後に“散骨”を望んでいることが書かれています。これなら、当面お墓の問題はなくなりますが。

(注2)悟は、団地に設けられている商店街の中の店屋(魚屋、理髪店など)に職探しに行きますがどこでも断られ、最後になんとか洋菓子屋タイジロンヌ(ベンガル演じる泰二郎が営んでいます)に就職します。




(注3)悟は、隣の部屋の松島有里波瑠)とはしょっちゅう話しますし(ベランダに吊されている風鈴を鳴らすのが合図)、好きだった緒方早紀とは、団地内で開かれた同窓会で再会し、婚約するまでに至ります(結局は、破談になってしまいますが)。




(注4)映画の中では、卒業14年目、入居者の増加策として、2DKの部屋に単身者が入居できることとなり、それに伴って外国人の入居も増えてきた、と説明されています。

(注5)なお、25歳になった悟は、泰二郎から洋菓子屋タイジロンヌの経営を任されますが、小学校の同級生の薗田が協力してくれます。尤も、薗田はゲイで、暫くすると精神に変調を来してしまうところ、そんな薗田に扮しているのが、『ふがいない僕は空を見た』で注目された永山絢斗です。



(注6)例えば、一昨年の『サウダーヂ』に関するエントリの「注3」をご覧ください。

(注7)悟は、マリアを誘拐しようとする3人組を、大山倍達流の空手でなぎ倒してマリアを救出したりします(大山倍達は、ブラジルの格闘技カポエイラと対決したことがあるという噂があるようです)。
 なお、1989年の入管法改正前後から、ブラジル人の日本流入が増加しますが(2007年に約32万人)、上記「注6」で触れた『サウダーヂ』でも描かれているように、日本の長引く不況により帰国者が相次ぎ2011年には21万人にまで落ちています(数字は、この記事によっています)。

(注8)例えばこの記事には、「高島平団地は人口16,292人中65歳以上の方が6,612人、高齢化率は40.6%になります(平成23年10月1日現在)。しかし高島平二丁目団地に限ると、高齢化率は実に70%を超えると公表されています(高島平二丁目団地自治会報による)」と記載されています。
 なお、本作でも、悟が団地内をパトロールしていたときに、郵便受けから新聞がいくつも抜き取られていない部屋を見つけ、心配になって新聞を取り出して部屋の中を覗いてみるというシーンがあります。
 尤も、悟がそこから中を覗くと、部屋にいたおばあさんと目が合ってしまい、“覗き”だと騒がれたのでしょう、勤めていた洋菓子屋を解雇されてしまいます(ただ、お母さんの熱心な取りなしで元に戻してもらいますが)。

(注9)評判の原武史著『レッドアローとスターハウス』(新潮社、2012.9)では、例えば、「ひばりが丘団地」の自治会について、「各棟から選ばれた運営委員からなる運営委員会が最高議決機関となり、運営委員会に提出された候補のなかから、総会で会長、副会長、事務局長や、文化部、厚生部、運動部、婦人対策部、広報部の各部長などの役員が選ばれた」と述べられています(P.178)〔尤も、東急沿線では、「中央線沿線ほど地域自治が活発でなく、政治意識は新保守主義的」などとも指摘されていますが(P.393)〕.

 なお、「ひばりが丘団地」は、日本住宅公団によって「西武池袋線の沿線で最初に建てられた大団地」で(P.159)、「総戸数は2714戸」 、「全戸賃貸で、4階建てのフラットタイプ、2階建てのテラスハウス、4階建てのスターハウスからなってい」ました(P.162)。
 ちなみに、1960年に当時の皇太子夫妻が同団地を視察されたことが同書に記載されています(P.169~P.172)。
(同書全体についての書評は、例えばこの記事を参照)



★★★★☆



象のロケット:みなさん、さようなら


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