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嘘を愛する女

2018年02月05日 | 邦画(18年)
 『嘘を愛する女』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)予告編を見て面白いのではと思って映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭の時点は、東日本大震災が起きた2011年3月11日。
 人々が、電車から駅のホームに吐き出されます。
 主人公の由加利長澤まさみ)が、満員の電車で気分が悪くなったのでしょう、通勤客の間をフラフラと歩いています。
 とうとう、階段の手すりにつかまりながらしゃがみ込んでしまいます。
 駅のアナウンスが「ゆっくり、慌てずに行動してください」と注意を呼びかけます。

 そこに男(小出桔平高橋一生)が現れて、「大丈夫ですか?」「ちょっと座りましょう」「ゆっくり息をして」と言いながら、由加利の顔を見ます。

 次の場面は、マンションの前。
 タクシーが到着し、運転手が由加利に「お客さん、着きましたよ」と声をかけます。
 それで、それまで寝ていた由加利は目を覚まします。

 車を降りた由加利は、自分の家の前まで来て、ベルを鳴らします。
 中から桔平がドアを開けて、「お帰り」と言って、由加利を迎え入れます。

 翌朝、由加利は「だるい」と言いながら居間に入ってきます。
 桔平がおもちゃの超合金ロボットのカタログを見ているのを見て、由加利が「また見てるの?」「それは持ってるでしょ」と言うと、桔平は「俺が探しているのにぴったりなんだ」などと答えます。
 その後由加利は「今日はまっすぐに帰ります」と言って、出勤します。

 由加利が勤務する食品メーカーでは、由加利が商品の味を調べたりするところを雑誌社のカメラマンが撮影しています。
 さらに、記者の質問に由加利が「半歩先の商品を開発するのが、私の仕事です」などと答えると、記者は「上手く行けば、2年連続でウーマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれるのではないでしょうか」などと持ち上げます。

 また、由加利たちの家。



 由加利が、「お母さん来るって」「表参道でパンケーキを食べたいだって」「キッちゃんもどおって」「一緒に食べたいんだって」と言うと、桔平は「うん」と曖昧にうなずきます。

 ですが、待ち合わせの時刻がかなり過ぎても、由加利とその母親が待つ店に桔平は姿を見せません。
 ここから、本作の物語が動き出しますが、さあ、どのように展開するのでしょうか、………?

 本作は、キャリアウーマンとして第1線でバリバリ働く主人公の女が、ふとしたきっかけで知り合った男と同棲しますが、5年後にその男がクモ膜下出血で倒れた時に、その男のすべてが嘘と分かり、主人公は探偵を雇ってその過去を調べていくと、…、という物語。過去を探る話はまずまずながら、判明した過去が2人のこれからの人生にどのような影響を及ぼすのかなどについて何も語られておらず、単に調べてみただけで終わっていて、一つの作品としてのまとまりに欠けているように思いました。

(以下では、サスペンス的な要素を持っている本作について、相当程度ネタバレしておりますので、未見の方は十分に注意していただきたいと思います)

(2)本作は、タイトルに「嘘」とあるからでしょうか、何かとわからなさがつきまといます。
 例えば、主人公の由加利と桔平との同棲生活は5年も続いているところ、その間、桔平の職業等に関するに嘘について何もバレなかったというのは考えられない気がします(注2)。

 本作では、由加利のところにやってきた刑事(嶋田久作)によって、桔平の持つ運転免許証の記載内容がでたらめであることを知らされ、さらに桔平が病院で着用していたはずの名札についても、由加利がその病院に行って尋ねるとすべて嘘だったことがわかります。
 とはいえ、運転免許証の記載内容について他人が確認することなど普通考えられないにしても、同棲相手の勤務先に5年間1度も連絡しなかったなどということがありうるのでしょうか(注3)?

 また、本作では、30歳を過ぎた由加利は、桔平とそろそろ結婚しようかと考えていて、母親が上京する機会をとらえて、桔平に母親を会わせようとします。
 そうであれば、由加利は桔平に、出身地やその家族や友人のことなどを、それまでに尋ねているはずです。少なくとも、「あなたのことをもっと知りたいから友人でも紹介して」というくらいのことは言うのではないでしょうか?
 でも、その後の由加利の言動からすると、デタラメにせよそうしたことを彼から聞いたフシがまるでうかがえません(注4)。
 なにしろ、桔平の過去を調査するに際し手がかりとなったものは、桔平が書いた小説だけなのですから。

 その由加利と探偵の海原吉田鋼太郎)による桔平の過去の調査行ですが、それによって明らかになった事柄が今後の2人の関係にどのように影響を及ぼすかが何も描かれていないために(注5)、単に調べただけに終わってしまっている感じがするところです。

 さらに言えば、タイトルが「嘘を愛する」とされていながら、ヒロインの由加利はどこまでも真実を追求する姿勢をとっているのはどうなのかな、と思ってしまいました。
 由加利が本当に“嘘を愛する”女であるのなら、勤務先とされる病院に「小出桔平」なる人物が存在しないとわかった段階で、桔平の“真実”などを調べようとはしないのではないでしょうか?その後の由加利の行動は、むしろ、どこまでも“真実を愛する”女の姿だったように思われます(注6)。

 とはいえ、由加利は、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたほどの優秀なキャリヤウーマンであり、ここまで主体的に道を切り拓いてきた女性でしょうから、自分が愛する男性が単なる嘘つきでいい加減だったと思いたくはないでしょう。
 それで、詰めの段階になって怯んだりすることもあったりしますが、由加利は、桔平の背後にはきっと何か重大な秘密があるに違いないとして、執拗な調査を続けてしまうのでしょう。
 そして、探偵の海原と一緒になって明らかにした真実を踏まえて、由加利は、意識を回復した桔平と暮らしていくことになるでしょう(注7)。

 その場合、由加利は、明らかになった真実を、意識が戻った桔平には漏らさないで、むしろ、彼が創作した話の方を信じるふりをして今後とも生きていくのかもしれません。
 でも、早晩、2人は結婚式をあげることになると思われるところ、結婚式やその披露宴に親類縁者とか友人を招待しようとした時に、嘘がバレることになる(あるいは、桔平は真実を告白せざるを得なくなる)のではないでしょうか(あるいは、婚姻届だけで済まそうとするかもしれません。でも、それを提出する時には戸籍謄本(あるいは抄本)が必要になり、それを取り寄せた際にバレることになるとも考えられます)?
 そうであれば、由加利にとっては、むしろ、桔平に真実を知っていることを早めに明かして、嘘をついて真実から目をそらすのではなく、真実に真っ直ぐに対峙して生きていくべきだと桔平を説得する方がベターではないか、とも思えるところです。

 それはともかく、ヒロインの由加利を演じる長澤まさみは、『散歩する侵略者』に引き続いて、なかなか質の高い演技を披露しているなと思いました。



 また、映画は、昨年ブレイクした高橋一生からその魅力をうまく引き出しているなと思いました。



(3)渡まち子氏は、「謎めいた疑惑で始まるが、着地点は少々拍子抜けしてしまった。長澤まさみ演じる由加利と、吉田鋼太郎扮する探偵のバディ・ムービーとして楽しむと、意外な味わいがあるかもしれない」として50点を付けています。



(注1)監督は中江和仁
 脚本は、中江監督と近藤希実。

 なお、出演者の内、長澤まさみは『散歩する侵略者』、高橋一生は『ゾウを撫でる』、吉田鋼太郎は『ミックス。』、川栄李奈は『亜人』、黒木瞳は『箱入り息子の恋』で、それぞれ最近見ました。

(注2)ただし、劇場用パンフレット掲載のインタビュー記事において、中江監督は、「高校時代に辻仁成さんのエッセイを読んだことがきっかけです。その中に実際に起きた事件のことを題材にしたエピソードがありました。その事件とは、50代のある男性が病気になりながらも全く病院に行こうとせず、その行動を不思議に思った内縁の妻が男の素性を調べたところ、名前はおろか、すべてが嘘だったというもの」と述べていて、実際にも起きた出来事が題材となっているようであり、本作で描かれていることは起こり得ないと言い切ることは出来ないかもしれませんが。
 なお、その中で言及されている「実際に起きた事件」とは、この新聞記事(1991年11月4日の朝日新聞)で書かれている事件のようです。

(注3)本作では、刑事の訪問の後に、由加利が桔平の鞄を漁って名札を見つけ、そこに記載されている病院に駆けつけることになっています。そうであれば、由加利は、5年間、1度も勤務先に連絡を取らなかったことになるでしょう。
 尤も、携帯で連絡し合うのであれば、わざわざ勤務先に電話をかける必要はありません。
 ただ、院内への携帯の持ち込みが制限されていたり、携帯が使えないエリアが設けられていたりして、外部から院内の医師に連絡を取るに際しては、病院の固定電話に電話をかける必要があるように思います(なお、医師が所持している「医療用PHS」は、院内での連絡に使われるものだと思われます)。

(注4)上記「注2」で触れた朝日新聞記事によれば、過去がわからない病死した男性は、桔平とは異なり、「「過去」について雄弁だった」そうですが。

(注5)例えば、桔平が隠そうとした事実を眠っている桔平の耳元で呟くことによって、桔平の意識の回復を促そうとするなど、過去のことが現在に関わりを持つように描くこともできるのではないでしょうか?

(注6)由加利は、眠っている桔平に対し、「自分も嘘をついていた」「自分も浮気をしたことがある」「おあいこだね」などと呟きますが、彼女が“嘘を愛する”女であれば、いくら相手に意識が戻っていないとしても、そんな“真実”を言おうとも思わないのではないでしょうか?

(注7)桔平が隠そうとした出来事の核心には、自分が医師の仕事に熱中してしまい家庭を顧みなかったことによって、妻が精神的に大層不安定になってしまい、その結果、愛娘が湯船で溺死してしまったのだ、要すれば、自分が愛娘を死に追いやってしまったという後悔の念があるように思われます。
 それで、桔平は、過去の自分を消去せずには生きていられなかったと考えられます。
 でも、そうであったなら、どうして桔平は、嘘の名前で医師になりすまそうとしたのでしょうか?医師の場合には、調べればすぐに経歴の嘘がバレてしまうのですから(それに、医師の仕事の忙しさが愛娘の死をもたらしたと考えているとしたら、そしてそれを悔いているとしたら、違う職業を選ぶのではないかと思います)。
 でも、他方で由加利は、桔平がそうした人物であることが判明して、自分の選択は間違っていなかったと考えたのかもしれません〔それに、桔平が、秘かに書いていた小説に登場する少女に由加利と同じような身体的特徴(耳の後のホクロ)を与えていることを知って、なお一層、桔平に対する愛を深めたかもしれません〕。



★★★☆☆☆



象のロケット;嘘を愛する女

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