BAR BOSSA通信

渋谷のワインとボサノヴァのバーのバーテンダーが色々と話します。

美人の条件

2006-03-28 15:25:23 | Weblog
 その日系ブラジル人女性に出会ってほんの数秒間で、彼女が「上流階級出身だ」ということがわかった。


 私が昔働いていた渋谷のブラジリアン・レストランは、例えばN.Y.の日本レストランで働く日本人に様々な経歴の人間がいるように、色んな種類のブラジル人がいた。

 ほとんど騙されたような契約で来ている綺麗なモデル達。日本の田舎の工場で働くよりも刺激的な都会で働きたいと考えるオシャレな若いブラジル人。東京で学校に通いながら働く真面目なブラジル人。そして「実家はお金持ちなんだけど自分のルーツである日本でちょっと生活してみたいな」と気楽な気持ちでバイトをする日系ブラジル人。

 彼女はそんな典型的なお金持ちの日系ブラジル人3世で、おそらく気持ちは「まあちょっとブラジル・レストランでバイトでもして友達でもつくろうかしら」という感じだったのではないかと思う。


 彼女は私のことは他のブラジル人達から聞いていたようで、「あら、あなたがみんなが話していたブラジル音楽が好きでポルトガル語を勉強しているというシンジね、はじめまして」と言いながらサッと右手を出してきた。

 私は「握手の時は身分が高い人の方が先に手を出す」という国際ルールをその時身を持って実感できたし、彼女の「お友達になりましょうね」という微笑みが何故かとても光栄に感じた。

 たぶん彼女は私達一般日本人からは想像できないような豪邸で何不自由なく暮らしてきたんだろう。そして、彼女の周りにいた人達は「そんな上流階級の彼女と友達になれるなんてとても嬉しい」と自然と感じてしまうような環境の中でずっと彼女は生活していたんだな、とその瞬間に理解できた。

 階級や身分って、政治的な制度、あるいは経済的な裏付けで決定されるものではなく、こうやって個人と個人の関係で築かれていくものなんだな、とその時私は学んだ。


 
 これから書くことは、彼女にとってとても失礼なことだ。でも、このことを書かないと、この話しの核心に迫れない。

 彼女は正直な話し、全然綺麗じゃなかった。思い切ってもっと正直に言うと、彼女はいわゆる「ブス」とカテゴライズされるようなルックスだった。

 時々、日本国内ではあまり美人と思われるタイプではなくても、外国に行くとやたら男性にもててしまう日本人女性って存在する。本当に彼女には申し訳ないのだが、百歩譲っても彼女はそういうタイプでもなかった。 


 しかし彼女は自分がまるで絶世の美女であるかのように振る舞った。

 そして私達男性スタッフも何故か不思議なことに彼女を美人として扱った。みんなが心の中で「あっかんべー」をしていた訳ではなく、本当に心の底から彼女を美人として接していた。


 もしかして彼女は自分のことを本当は綺麗ではないと自覚していて、相当なコンプレックスを抱えていたのかもしれない。

 あるいは、先日、民間人の男性と結婚して話題になったある極東のプリンセスのように、自分のことを客観的に見ることなんて出来ないくらい上流社会という閉じた世界で育ったのかもしれない。

 あるいは、ブラジルならではの考え方で、「女性は常に自分が美人として振る舞うべきよ」という教育を小さい頃から受けてきたのかもしれない。

 その辺の本当のところというのは結局わからずじまいだったが、彼女は常に美人として振る舞い、私達はそれに従った。


 実際、私は彼女が美人であるかのように感じていた。例えば、私が彼女に何か冗談を言って、彼女がそれに微笑んでくれたとする。そんな時、私はまるですごい美人に笑ってもらえたかのような感覚で嬉しかった。→※


 そして私は気付いた。美人の条件は本当に美人であることではなく、「美人として振る舞うこと」なんだと。




 ※男性は理解してくれると思うが、差別的な表現で本当に申し訳ないのだけれど、すごい美人が笑ってくれるのと、普通の女性が笑ってくれるのとでは、微妙に意味が違う。これは恋なんかとは関係はなく、社会的な制度の問題だと思う。

目のやり場

2006-03-14 14:04:02 | Weblog
 発展途上国の男性は女性のお尻を、先進国の男性は女性の胸を性的対象として眺めるという話しはご存知でしょうか。

 例えばブラジルには「ブンダォン」という言葉があります。これは「大きいお尻」という意味なのですが、ブラジル人男性はこの単語を「すごく色っぽい」というような感覚で使います。ちょっと下品な表現で申し訳ないのですが、ブラジル人男性が「あの尻のでかい女さあ」と言った時、「あのすげえ良い女さあ」と言っていることになるわけです。

 そしてブラジル人男性は女性の胸に関しては、私達日本人男性が女性の「肩」に全く興味がないのと同じくらい全く興味を示しません。「胸?そう言えばそんなのあったね」って感覚です。彼らはお尻が全てなんです。→「何言ってんだ林!俺は女性の肩でご飯を3杯は食べられるぞ」という男性がいたらすいません。

 何かで読んだのですが、日本人男性も昔はそんなに女性の胸に性的関心を持たなかったそうです。結構、公共の場で赤ちゃんに授乳したり、ほとんど胸がはだけているような着物を着ていたりしても、決して淫らな雰囲気ではなかったそうなんです。しかし、戦後のアメリカの影響で日本人男性の女性への性的興味の対象は下半身から上半身へと移ってきたということです。

 この辺、文化人類学的にもっと突っ込んでいけば面白いことがわかりそうですが、もちろん話しはそんな高尚なところには向かいません。


 暖かくなってくると「困ったなあ」と思うことがあります。女性の服装が薄着になり、肌の露出が多くなることなんです。

 ちょっと告白しておくと、私は女性の胸に関してそんなに特別な思い入れはありません。それよりも上から下までのトータル的なバランスやその人オリジナルのかもし出す雰囲気とかの方に性的魅力を感じます。

 でも、でもですね、胸元のあたりがガバッと開いている女性とか、身体のラインにピタッと密着して胸のあたりが強調されている女性とかが目の前に突然現れると、「ええ!この人すごく大胆!」と思ってどうしてもチラッと見てしまいますよね、普通。

 バーで注文を聞きに行く時、あらかじめ「あ、この人すごく胸元が開いているから絶対に見ないでおこう」と考えていても、偶然チラッと見てしまったりすることってあるんです。すると、なんかそういう人に限って手で押さえて隠していたりするんですよね。

 どうなんでしょうか?やっぱり彼女達は私のことを「このスケベおやじ」と思っているのでしょうか?だとしたら納得がいきません。


 ちなみに妻に、「どうして彼女達はあんなに大胆な服装をするんだろう」と質問してみたことがあります。すると妻いわく「あなたみたいな男性がドギマギしているのが楽しいのよ」と言うことでした。

 うーん、困るなあ。

ヤング・グループがデビュー!

2006-03-07 11:56:03 | Weblog
 土信田くんが今度CDデビューします。

 このブログで友人のCD紹介みたいなものはやめておこうと決めているのですが、今回はうちの家族全員がお世話(PCを直してくれたり、ドライブに連れて行ってくれたりしています)になっている土信田くんなので許して下さい。

 土信田くんが「CDのコメントを書いてくれ」と言ってくれました。

 私はコメントを求められたら複数のパターンのテキストを書いて、アーティスト本人、あるいは事務所の人に選んでもらうというスタイルをとっています。

 で、今回もヤング・グループのデビューCDのために3パターン考えました。

 どれが採用されたかは是非CD屋さんの店頭でチェックして下さいね。



 ルイ・フィリップを初めて聴いた時、「もう昔のロック友達とは音楽の話が出来なくなっちゃったな」と思った。
 ベン・ワットを初めて聴いた時、「失恋して一人ぼっちになってもこの音楽があれば大丈夫」と思った。
 アントニオ・カルロス・ジョビンを初めて聴いた時、「世界中の友人と音楽の美しさについて話したい」と思った。
 ヤング・グループを初めて聴いた時、「こういう友人がいて良かった」と思った。



 普通20歳を超えるとバンドなんかやめてしまってギターは実家の押入れの奥でホコリまみれになってしまう。
 普通25歳を超えるとCDやLPも買わなくなってしまって、あんなに嫌いだったカラオケで歌えるようになってしまう。
 普通30歳を超えると新人の部下を相手に居酒屋で「昔のバンドブーム」の話なんかをしてしまうようになる。

ヤング・グループはこんな名前なのに平均年齢が35歳!デビュー・アルバム!
がんばれヤング・グループ!



 たぶんこのCDを買ったみんなも同じようなことを感じるんだと思うんだけど、ヤング・グループを聴くと「風」のことを思い出した。
 海から吹いてくる風とか、高原の風とかじゃなくてある時期のちょっと切ない「風」のことだ。

 まだ私が小さかった頃、近所のお屋敷に洒落た家族が引っ越してきた。遊びに行くとちょっと肥満児気味のさえない男の子がいて標準語をしゃべった。お母さんはとても綺麗で髪が長くて白いワンピースを着ていた。私は革張りのソファに座り、初めてミルクティというものを飲み、ハチミツがいっぱいかかったホットケーキを食べた。リビングは庭に面していて、その綺麗なお母さんが「外で遊ぶ?」と言ってガラス扉を開けた。広い庭は芝生で敷き詰められていて、テレビでしか見たことないような外国の大きな白い犬がいた。その肥満児気味のさえない男の子が「ジョン!」と呼ぶとその白い犬がすごく嬉しそうにこちらに向かって走ってきた。そしてその時、その「風」が吹いた。