◎夢は「想像の翼」でつかめ
書店封筒の詩「こどもたちよ」読書の大切さ伝え20年
上記のような見出しで、当ブログ4月2日で取り上げたエピソードが、秋田魁(さきがけ)新報に記事としてとりあげられました。光栄なことと喜ぶとともに、偶然の不思議さをあらためて感じている次第です。
その回のブログは、ぼくが20年前に作った「こどもたちよ」(1月2日に掲載)という詩を、秋田の加賀谷書店さんが今も雑誌袋に印刷しているのを偶然知り、感激したという話でした。
加賀谷さんがぼくの職場に貼ってあった古いポスターを見つけた偶然。その場にぼくが居合わせて会話できた偶然。そして、秋田魁新報の記者が、このブログを見てエピソードを知ったという偶然。偶然は過ぎてしまえば必然だとは言うものの、その綱渡りぶりに今はただ驚くばかりです。(最初は加賀谷さんが魁新報社にブログを教えたと思っていたのですが、記者はまったく単独でこのブログを見つけたそうです)。
まず加賀谷社長に取材し、東京のぼくのところにも取材に来てくれました。
記事は秋田魁新報のネット版で見られます。「秋田魁 加賀谷書店」で検索すると「見聞記」のタイトルで見つかるはずです。そこには加賀谷社長とぼくの写真も載っています(恥ずかしながら……)。
ぼくの文中での扱いがちょっと格好よすぎる気もしないではありませんが、ここは素直に喜んで、文章だけですが以下に再録しました。なお、これまで自分はハンドルネームで通してきましたが、今回は記事どおり実名表記にしました。
ただ、ひとこと付け加えるなら、現状の書店業は、それこそ封筒一枚にもコストダウンが求められる厳しい状態にあります。そこの部分をくみ取った上で加賀谷書店さんの活動の意味をあらためて考えていただければ、と願うものです。
【秋田魁新報「見聞記」2008.5.11】より
読書の大切さを伝えようと20年前に作られた詩を封筒に印刷し、客に渡し続けている書店が秋田市にある。詩の作者は東京の出版マン、書店経営者は出版マンのかつての後輩。封筒は捨てられてしまう運命にあっても、詩に込めた2人の活字への思いは、静かに"読者"の胸に染み渡っている。
「こどもたちよ」と題したこの詩は、書籍流通(取次)大手のトーハン(東京)に勤める茨田(ばらだ)晃夫さん(51)=東京都大田区=が1988年、読書推進キャンペーンに合わせて作った。詩に登場する「私」は、わが子に残せるものを列挙する。その一つが「書棚の古びた本と、読書を苦痛に感じない習慣」だ。「私」は「読書を怠るな」「想像の翼を持たない者は、いつまでも夢にとどかない」と説く。
「もう一度書けと言われても書けない」(茨田さん)という詩は、出版業界誌の広告や、書店の店頭ポスターとなった。評判が良く、いくつかの書店から書籍用封筒に使いたいとの打診があった。その一つが、秋田市の加賀谷書店だった。
同書店社長の加賀谷龍二さん(49)は当時、3年ほど勤めたトーハンを辞め、妻の実家である同書店に入って数年というころ。詩の作者が同じ部署の先輩だった茨田さんと知って驚き、感心した。
加賀谷さんは当初、この詩を大きなボードに記して掲示。しかし、もっとたくさんの来店者に読んでほしいと考えた。多くの客が手にする「媒体」は何か―。思い付いたのが、書籍用の封筒だった。
書籍用の封筒は消耗品。多くの書店は、広告付きでコストを抑えられるものか、業者がデザイン済みのものを使う。だが加賀谷さんは、都内の業者にわざわざ詩を印刷した封筒を発注している。いわば特注品だ。
反響はすぐにあった。「誰の詩ですか」と問い合わせが相次いだ。今も時々、同じ質問がある。「1人でも2人でも、気付いて読んでくれればいいんです」と加賀谷さん。何人が手にしたのか尋ねると、「どれぐらいかなあ」。数を気にする様子はない。
加賀谷さんは一時期、詩を替えようと考えた。わが子を思い自ら筆を執ったが、その詩はお蔵入り。「茨田さんを超える自信がなくて」と苦笑する。
今年3月、久しぶりに茨田さんの職場を訪ねた加賀谷さんは、詩が載った広告が壁に張られていたのに気付き、今も封筒に印刷していることを伝えた。「社内でも詩の存在を知っている人は少ない。北国の後輩が自分の店で残していてくれたとは」。茨田さんは感激した。
活字離れと、それに伴う出版不況。良書を広めたい気持ちがあっても、本を商う環境が厳しさを増す中、思うに任せない書店は少なくない。
それでも加賀谷さんは「読書の楽しさを発信していくのは、活字に携わる者の務め」と、茨田さんの詩に自らの思いも託す。茨田さんも詩が今も命を与えられている喜び以上に、「彼が変わらない信念を持っていてくれた」ことに感慨を深めている。
詩にはこんな一節も。「幸いにお前は、インクの染みのような活字の羅列から、物語を想像できる力を持っている」。20年を経てなお色あせないメッセージは、これからも活字にこだわる2人の心意気を伝え続ける。(2008.5.11付)
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