奇想庵@goo

Sports, Games, News and Entertainments

イタズラなKiss

2008年05月26日 03時05分37秒 | 2008春アニメ
多田かおるの『イタズラなKiss』は、連載中にコミックスで読んでいた。それだけに作者急逝の報を聞いたときは愕然とした。それが1999年のこと。
その後、コミックス全巻を読み返したこともあったが、ここ数年、いや、7、8年くらいは読むことはなかったと思う。

アニメ化は意外だったが、アニメを見て改めてコミックスを読みたくなった。そして、読んでみて自分の記憶の不確かさを実感することとなった。
『イタズラなKiss』はヒロイン琴子のパワフルさが強い印象に残っていた。いつしか、最強のヒロインによる少女漫画らしいラブコメディというイメージが築き上がっていた。だが、読み直してそのイメージが虚像だと気付いた。

琴子は確かにパワフルではある。しかし、思い描いていた、どんな困難にも負けないくじけないヒロイン像ではなかった。落ち込んだりめげたりすることも少なくない。少女漫画のラブコメの典型的ヒロインと言ってもいいくらいだ。ただ、強烈なトラブルメーカーであることが他と区別される彼女の特徴だろう。
どう間違って思い込んでいたか簡潔に述べると、「成長」するヒロインと思っていたが、実際は「成長」しないヒロインだったと言えるだろう。これは決して非難ではない。むしろ「成長」させないまま描く強さが感じられた。安直にヒロインを成長させてしまうのではなく、トラブルメーカーで失敗を繰り返しながらも、それでも最後は立ち上がる力強さが琴子の魅力となっている。
改めて知った彼女のトラブルメーカー振りに唖然としながらも、それでも彼女に惹かれるのは一途さがあるからだろう。「成長」して得た強さではなく、「成長」しなくてもへこたれない強さ。最近では目にしないタイプのキャラクターと言えるだろう。

もう一つ、この作品を読み返して驚いたことがある。コミックス23巻にて絶筆となったが、琴子が入江直樹と結婚したのは10巻でだった。つまり、23巻中半分以上が結婚後の出来事である。
『イタズラなKiss』は正統派のラブコメディであり、ラブコメディは主人公たちがくっつくかどうかのやり取りが話の展開の軸となる。結婚はそう考えればゴールのはずだ。けれども、結婚後もラブコメであり続けた。端から見てつりあわないカップルだからという面もあるし、お互いの目標のために離れて暮らすといったこともある。周囲が二人を振り回したり、琴子が周囲を振り回したりしながら、その後もますます興味深い展開が続いていた。
今も数多くのラブコメが描かれているが、ワンパターンにしか見えないことも多い。確かに、新しい読者に向けたラブコメはそれでもいいのだろう。でも、こうした傑作と比べると、作り手の怠慢が透けてしまうこともある。

アニメ『イタズラなKiss』は作者急逝によって失われたその後まで見据えているという。楽しみでもあり、不安でもあるけれど、まずはそこまでをいかに描き切れるかが大切だ。原作同様に安直なラブコメの枠を乗り越えて欲しい。