Negative Space

日本映画、文語文学、古代史劇映画、西部劇、フィルムノワール、hip-hopなど。

ストリート・オブ・ノーリターン:『殺人地帯USA』

2015-09-03 | その他



 サミュエル・フラー『殺人地帯USA』(Globe Enterprises製作、コロンビア配給、1961年)

 少年の鋭い両目のクロースアップ。スラム街の大晦日の晩。路上に寝そべった酔漢から時計と財布を奪い、逃走する少年。そのまま初老の婦人のアパートへ逃げ込む。肉づきのよいスリップ姿の婦人はわけありの「酒場」のマダムで少年の母親代わり。赤ん坊の人形に話しかけている。「あんたが人形を可愛がるのは子供ができないからだよな」と少年。悲しげに顔を曇らせる婦人。窓外で喧嘩のもの音が聞こえる。スラム街の壁に殴り合う男たちの巨大な影が投影される(スタンバーグと表現主義へのオマージュ)。殺されたのは少年の父親だった。復讐を誓う少年。かろうじて目撃した敵の一人の家へ出向く少年。敵はちょうど刑務所入りしたところだった。じぶんも刑務所に入るためにわざと盗みをはたらいて逮捕される少年。孤児院、そして少年院と渡り歩き、やっと敵のいる刑務所へ入ったのは十余年を経てのこと。その間にかれ(クリフ・ロバートソン)は金庫破りのプロフェッショナルになっていた……。

 『ディパーテッド』みたいないっしゅの潜入もの(?)。フラーのフィルモグラフィーのうえではさしずめ『拾った女』の双子的作品。偏執狂的な一匹狼の主人公、主人公をとりまく二人の女性キャラクター(老女と娼婦)、ドラッグへの言及、等々において。

 トレードマークの超クロースアップと小刻みなカッティングが冴える。汚職警官の自殺の場面(弾丸が額の写真に命中する)。ヒットマンが目撃者の娘を轢き殺す場面(窓辺の母親にカットバック)。敵の一人が車に閉じこめられ、ガソリンで焼き殺される場面(恐怖に歪む顔のクロースアップをごく一瞬インサート)。いずれも死の瞬間をちょくせつ見せない。リアリズムを売り物に、「大人の」ギャング映画を謳った本作。PCA(映画製作倫理規定管理局)に提出したスクリプトは4稿におよんだ。見せない演出は[自主]検閲との妥協の産物だが、結果的に観客に想像力によっていやがうえにもヴァイオレンスのこわさを体感させることになる。

 少女殺害の場面は、主人公がプレゼントの剥いた七面鳥を布袋から取り出すキッチンのシーンへと繋がれ、ガソリンによる殺害場面の最後では、闇夜を照らして炎上する車をバックに、組織の親玉がヒットマンに一言。「火を貸せ」(Gimme a light.)。なんてブラックなギャグでフォローするところも辛辣きわまりない。ユーモアは、全員食べ物を頬張りながらの警察のミーティングとか、プールサイドのギャングたちといった描写にもあらわれている。

 もともと巻頭にはいかにもフラーらしいとほうもないアイディアが用意されていたらしいが、製作サイドにつぶされた(『映画は戦場だ!』参照)。女性キャラ(プラチナ・ブロンドと白い肌がまぶしいドロレス・ドーン)の設定も稿が改まるにつれておだやかなものになったが、スティック状の氷をしゃぶるなど暗示的な表現がぎゃくにエロティシズムをかもしだす。

 ラストはどうみても『勝手にしやがれ』の逆引用(?)であろう。撮影は巨匠ハル・モーア。

 本作は今月開催されるPFFの上映プログラムに入っている。同じ特集中に『ベートーベン通りの死んだ鳩』のタイトルもみえる。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿