Negative Space

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ジパングへの道:『北西への道』

2016-07-02 | その他




 西部瓦版〜ウェスタナーズ・クロニクル〜其の伍拾弐 キング・ヴィダー『北西への道』(1940年、MGM)

 ミニ・シリーズ“『レヴェナント』への道”第三弾!

 1759年、ポーツマス。ハーバードを除籍になり帰郷した画家志望の青年(ロバート・ヤング)が地図作製術の腕を買われてレンジャー部隊の鬼隊長ロジャーズ(スペンサー・トレイシー)にスカウトされ、旧友(ウォルター・ブレナン)とともに先住民からの人質奪回をミッションとするカナダ行軍に参加する。

 『レヴェナント』よりも半世紀以上前、独立戦争以前の未開な新大陸が舞台。ロープでボートを引っ張り上げながらの山地の行軍、ヤブ蚊の群れなす湿地帯の踏破、人間の鎖にしがみついての激流の横断、早朝の先住民の焼き討ち、先住民の首を持ち歩く狂った隊員、げてものを煮込んだシチュー、人肉食を暗示する逸話、木の幹がベッド代わりの夜営といった、ときに生々しくときにシュールなエピソードの連続。

 企画が立ち上げられた時点ではトレイシー、ロバート・テーラー(その代役がマヌケ面のヤングというのが笑える)、ウォレス・ビアリーの布陣でW・S・ヴァンダイクが監督するはずであった。テレビシリーズ化もされたケネス・ロジャーズを描いた小説を原作に戴くが、脚本化(『ミズーリ横断』のタルボット・ジェニングスおよびローレンス・スターリングスがクレジットされている)は難航を究め、フランセス・マリオン、ジュールス・ファースマン,ロバート・シャーウッドなどが起用されてはお払い箱に。決定稿を待たずに38年5月にクランクイン。スター抜きのシーンを撮影したあと、『影なき男』の続編『第三の影』の撮影をひかえていたヴァンダイクが降板、ヴィダーにお鉢がまわってくる。強行軍のロケ撮影はアクシデントつづきで、ヴィダーとトレイシーの不仲もわざわいし、ロジャーズの敗北を描く後半部は撮影を断念。結果、メガロマニアックな(「日本に至る道」)イケイケのファシスト率いる虐殺集団を言祝ぐだけのろくでもないプロパガンダ映画に仕上がった。

 砦のご都合主義的な救出劇につづくラストシーン(これを蛇足と言う)はジャック・コンウェイが演出。アクションシーンを第二班監督のノーマン・フォスターが担当。ヤングの恋人役で『フィラデルフィア物語』のルース・ハッセーが顔を見せるほかはほぼ女っ気なし。

 正体不明のモノクロヴァージョンのディスクが出回っているが、テクニカラーに収められた大自然こそ本作の醍醐味なのでご注意を。