Negative Space

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ミスター・ノーボディー:『対決の一瞬』

2015-12-27 | アラン・ドワン


 ウェスタナーズ・クロニクル No.32; アラン・ドワン『対決の一瞬』(1955年、RKO)

 原題は Tennessee’s Partner。ベネディクト・ボージャース製作になる一連の傑作群のひとつで、『悪の対決』と同じ年に同じジョン・ペイン、ロンダ・フレミング主演で撮られている。

 結婚式場を装った娼館のマダム「公爵夫人」(ロンダ・フレミング)のヒモであるいかさま賭博師テネシー(ペイン)がトラブルに巻き込まれた際、通りがかりの「カウボーイ」(ロナルド・リーガン)に救われる。「カウボーイ」は結婚のためにゴールドラッシュに賑わう街にきていたが、花嫁(コリーン・グレイ)の正体は賭博師と恋仲だった娼婦。賭博師はカウボーイを結婚詐欺から救うために金を餌に女を連れ出し、サンフランシスコ行きの蒸気船に乗せて逃げ帰る。賭博師に裏切られたとおもったカウボーイは賭博師の命を狙うが、賭博師の真意(「背中から狙う奴が嫌いでね」)を知って和解する。カウボーイは無実の罪を着せられた賭博師をリンチにかけようと追ってきた衆から賭博師を救うが、賭博師を狙った真犯人の銃弾をみずから受けて命を落とす。名前さえ知らぬ恩人によって人の道に目ざめた賭博師は、「公爵夫人」を妻に迎える決心をする。

 類型そのままの登場人物たちが織りなす図式的なメロドラマなるも、ブレット・ハート原作と聞けば納得がいく。本作は同じ原作にもとづいて1916年に撮られ、1924年にリメイクされた映画の再リメイク。著作権の切れた原著をミルトン・クリムス、D・D・ボーシャン、グレアム・ベイカー、テディ・シャーマンおよびドワンの5人がかりで脚色、ノスタルジックな香りは残しつつ、真逆のキャラクターどうしが固い友情で結ばれて精神的な変容を被るという、『血斗のジャンゴ』にもつうじる現代的なテーマを浮き彫りにし、「楽天的悲劇」(ピーター・“マイ・ファニー・レディ”・ボグダノヴィッチは「メランコリー」という形容を是とする)とでもいうべきユニークな味わいの佳作となった。

 ミニマリズム俳優ペイン(''Big girls don't cry.'')と世界一のセクスィー女優ロンダの息は相変わらずばっちりだし、リーガンのけっして荒立つことのない演技はドワンも高く買っている(政治家としてよりも演技者としてのほうがすぐれている?というボグダノヴィッチの意地の悪い質問にはお茶を濁しているが)。保安官役でレオ・ゴードン。アンジー・ディキンソンも出ているようだ(クレジットなし)。

 キャメラはジョン・オールトン。闇を効果的に使い、超低予算に似合わぬゴージャスな画面作りに成功している。ポーカーシーンではシャンデリア越しの俯瞰から賭博台にクレーンがゆっくりと下降していく。同シーンでのレンブラント・ライトも印象的だ。

 ドワンはすでにサイレント時代にダグラス・フェアバンクス主演でブレット・ハートの原作を映画化している(The Halfbleed)。エジソン社の映画などに原作を多数提供したハートは、『駅馬車』『三人の名付け親』といった映画にインスピレーションをあたえているともされる。