Negative Space

日本映画、文語文学、古代史劇映画、西部劇、フィルムノワール、hip-hopなど。

ラストマン・スタンディング:『叛逆の用心棒』『馬上の男』

2015-12-25 | その他



 ウェスタナーズ・クロニクル No.31  アンドレ・ド・トス=ランドルフ・スコット二本立て!

 『叛逆の用心棒』(1953年)

 クァントリル強盗団のローレンス襲撃(1863年)場面で幕を開ける。逃げ惑う住民たち(強盗団はこのとき150人の住民を虐殺している)。現地の奴隷解放論者のリーダーらしき老人を強盗団が射殺する場面は画面に映らない。襲撃をお膳立てしたのは密偵のスコット。じぶんのしたことに嫌気がさして強盗団を去る。

 スコットはその後、かれの過去を知る男らにからまれた際、ジョージ・マクレディーに救われる(シャンデリアを落下させて闇のなかを逃す)。逮捕を逃れるためカンザスを離れてアリゾナのプレスコットに逃れるが、逮捕状の話はスコットを新天地に連れ出して夫にしようとしているクレア・トレヴァーの出まかせ。プレスコットにマクレディーを訪ねたスコットは、用心棒に雇われ、ふたたびスパイをやらされるはめになる(ノワール的な展開だ)。ときあたかもツーソンに州都が移り、町民が「州都」の看板に「元」という文字を自虐的に書き込んでいる。これは1867年のことであるから、ローレンス襲撃から4年が経っていることになる。クァントリルは1865年に死去しており、そのことはトレヴァーの台詞のなかでも言及されている。ちなみに十年後、プレスコットはふたたび州都の栄誉に浴するが、1889年にフェニックスにその座をもっていかれ、いまに至る。

 じつはマクレディーもクァントリルの一党であり、スコットとはちがい、いまなお「偉大な」クァントリルを信奉し、北軍の金をせしめるとの口実で駅馬車の金を強奪しようとしていた。

 マクレディーは地元の古株のワル(アフォンソ・ベドヤとボリス・カーロフふうの相棒ジョゼフ・ヴィテール)と張り合っていた。スコットは三十郎みたいに両陣営を殺し合わせようと画策し、マクレディーの狙う駅馬車をベドヤに襲わせるが失敗。ベドヤは殺され、スコットはマクレディーの手下リー・マーヴィンとアーネスト・ボーグナインに捕まる。スコットは単細胞の監視役ボーグナインを女の話でつって縄をほどかせる。ついで、マーヴィンに背後から銃をつきつけ、至近距離から撃ち合う。最後はサルーンが炎に包まれ、マクレディーは焼け死ぬ。駅馬車の宿場の娘に心惹かれていたスコットだが、はやくもかれを尻に敷く腐れ縁のトレヴァーに引き離され、トレヴァーとともに町を後にする。

 闇のシーン、見せない演出(友人の御者が拷問されるところは見せない)。本作は3D(名高い『肉の蝋人形』と同年の作品)ゆえ、キャメラに向かって頻繁に銃弾が発せられたり、パンチが繰り出されたり、ものが投げられたりする。馬車の移動シーンが必要以上に長いのも3Dを意識したものか。もともと縦の構図を活用する術に長けているド・トスだが、隻眼であることと無関係ではないらしい。
 
 ジェームス兄弟、ヤンガー兄弟も輩出(?)したクァントリルの “Raiders’’。 クァントリルは、ウォルシュの『暗黒の命令』(W・R・バーネット原作。クレア・トレヴァーはこちらにも出ている)でウォルター・ピジョンが、ドワンの『私刑される女』でブライアン・ドンレヴィが演じている。本作ではローレンス襲撃場面でジェームズ・ミリカンという俳優が演じているようだが、クレジットされていない。南軍の側に立つ西部劇が多いなかで、クァントリルを登場させることは政治的にデリケートな問題を提起するらしい。かれが信奉した南軍の大義を守るために、クァントリルを利己的な野心に憑かれたならず者と位置づけることが多いようだ。

 製作は『反撃の銃弾』『決闘コマンチ砦』などベティカー=スコットの“レナウン・サイクル”連作も手がけるハリー・ジョー・ブラウン。





『馬上の男』(1951年)

 同じハリー・ジョー・ブラウンの手がけた作品で、キャストも一部ダブり(アフォンソ・ベドヤなど)、スコットは同じような革のコートを着ている。出来はこちらのほうがよほど上。

 スコットの恋人(ジョーン・レスリー)がライバルの牧場主(アレクサンダー・ノックス)と結婚する。スコットはいざこざで負傷したところをレスリーの姉(エレン・ドルー)に救われ、恋心を抱く。ノックスの使用人でドルーに横恋慕するジョン・ラッセルがスコットをつけ狙うが撃退され、スコットへの嫉妬からドルーを罵ったところ、妻を罵られたと勘違いしたノックスに撃ち殺される。強欲だが妻を熱愛するノックスは、新天地へ旅立つ約束を妻ととりつけることを条件に牧場をスコット側に売ることを承諾するが、手下の一人に撃たれる。ラッセルとスコットの対決場面では、山小屋の屋根が崩壊したり、山の急斜面を三人ともにすごい勢いで転がり落ちるといったド派手なアクション。ラストは半端ない強風ふきすさぶなかでの対決。

 闇のなかでのアクション(ランプを消すしぐさが何度か登場する。これは『叛逆の用心棒』でも反復される)、クライマックスの台詞なしの長いアクションシーン。縦の構図(画面奥の男がカウンターに置かれた画面手前のグラスを撃つ、etc.)。

 原作は心理的な葛藤を描くのがとくいなアーネスト・ヘイコック(『大平原』『駅馬車』『インディアン渓谷』)。脚本は『叛逆の用心棒』ともどもケネス・ガメット。ランドルフ・スコットと多く組んでおり、ベティカーが開花させるスコットのキャラクターをクリエイトしたのはこの人だとされる。撮影チャールズ・ラングJr.。