『THE WIRE / ザ・ワイヤー』シーズン3(HBO、2004年)
港湾地帯の人間模様をエキゾチックかつノスタルジックに描いたシーズン2につづき、シーズン3でも、あるしゅのユートピアの終焉が物語られる。
フリーゾーン “Hamsterdam“ は、犯罪率低下のノルマをドラスティックにこなすことを可能にしたが、コルヴィンの思惑は他所にあった。
ストリンガー・ベルの死も、やはりひとつのユートピアの挫折といえるだろう。正直、ベルがその投機的な野心ゆえに昔気質のギャングスタである相棒のエイヴォン・バックスデイルを裏切るといった展開を予想していたが、さすがは本シリーズ、そんなパロディみたいな現代資本主義論は鼻も引っかけない。
夜のビル街を眺め下ろしながら二人が最後に語り合う場面は、さながら『感情教育』のラストである。ガキの時分にバドミントン・セットをくすねた思い出(かれらの最初の悪事である)に笑い興じる二人。
ベルの殺害場面は、室内に飛び立つ鳩がジョン・ウーふう。死後にかれの本棚にマクノルティが『国富論』をみつけるディティールも味わい深い。
クリエイターは、権力にも犯罪者にも肩入れすることがない。すべてのキャラクターが敗北者である。けっして物語の表舞台に立つことのないカッティーの無垢なまなざしは、救いのないこのシリーズの世界に灯された炎ともいえ、もっとも印象に残る要素のひとつだ。最終話では、ファックするダニエルズとパールマンと、シャドーボクシングするカッティーがしつこくカットバックされる。
アーネスト・ディッカーソンがいくつかの挿話を演出しているほか、『トリーム』のパイロット版を手がけることになるアグニェシカ・ホランドが一挿話の演出を担当している。主題歌はネヴィル・ブラザーズによるレゲエ・ヴァージョン。