バリん子U・エ・Uブログ

趣味、幸せ探し! 毎日、小さな幸せを見つけては、ご機嫌にハイテンションに生きているMダックスです。

涙の海 完成版

2015-05-26 20:55:59 | お話 ペットロス
女の子の犬が亡くなりました。
女の子と犬はとても仲良しでした。
滑り台が大好きな犬のために、女の子は犬を抱いて、公園に行くたびに滑り台を滑りました。
抱きしめた温かい体。顔をくすぐる柔らかい毛。風を切って滑る爽快感。勢い余ってお尻から砂場に落ちることがあっても、女の子は決して抱きしめた犬を離しませんでした。何度も滑り台をせがむ犬に女の子も、喜んで付き合っていました。
草原を疲れて動けなくなるまで駆け回り、木陰でおやつを食べました。見上げる空。風に揺れる葉っぱの音。お花の香り。お花の根元に埋められた肥料の匂い。
犬はこの世界が大好きなようでした。
犬が死に、女の子は犬のために泣きました。
お母様が慰めてくれました。優しく抱きしめてくれました。
けれど、女の子の涙は止まりませんでした。


犬はいつも女の子に親切でした。
毎朝、目覚まし時計の鳴る3分前に、犬はぽわぽわの小さな前足で、優しく女の子の頬を叩いて起こしてくれました。
怖い番組を見た後で、びくびくしながらお風呂に入る女の子を、バスルームのドアの前で、犬はずっと待っていてくれました。
女の子が学校に行くのがいやでぐずぐずしている日は、叱るように、励ますように玄関まで誘導してくれました。
女の子は犬のいない世界で生きていける気がしませんでした。
犬が死に、女の子は自分のために泣きました。
お父様に新しい犬が欲しいと言いました。
お父様はお前が欲しいのは新しい犬ではなく、お前の犬だ。あの犬が帰ってくることはない。新しいお前の犬と出会えるときまでをお待ち。と、言いました。
つらくて、さみしくて女の子の涙は止まりませんでした。

泣いてばかりいる女の子を心配した両親は、女の子を海に連れて行きました。
どこに行きたいかと聞くと、海に行きたいといつも答える女の子でした。
だから、きっと、海に行けば元気を取り戻すと思ったのです。
けれど、女の子が好きだったのは、"海に行くこと"ではなく、"犬と海に行くこと"でした。犬が一緒でなければ、意味はありません。
女の子は海岸を歩き回りました。最初はつきあってくれていた両親も、旅館に帰ってしまいました。
「黒い小さな犬を見かけなかった?」
女の子は岩場で釣りをしていた男の子に声をかけました。
「迷子になったの?」
「死んじゃったの。」
男の子は驚いて女の子を見つめました。
「君たちを知っている。いつも、すごく楽しそうだった。」
「すごく楽しかったわ。」
「犬もそう思ってるね。」
女の子はこくんと頷くと、男の子の隣に座りました。
「あの子は海が大好きだったから、ここに来たら会えるかもしれないって思ったの。幽霊でもいいから、会いたいの。」
「じいちゃんは漁師だった。」
男の子は女の子から目を逸らしました。
「じいちゃんは海が大好きで、海で死んだ。」
男の子は海を見つめながら、ゆっくりと話します。
「1年間、毎日、来ているけど、じいちゃんにもじいちゃんの幽霊にも会ったことはない。」
「死んでしまったら、もう、会えないの?」
女の子は声をあげて泣き出しました。
「死んでしまったら、もう、会えないよ。」
男の子もこらえきれなくなって、泣き出してしまいました。
二人の子どもは一緒に声をあげて泣きました。
死んでしまったらもう会えないから、生きている意味があったのだと、男の子は気付きました。
もう会えなくなるところに、死ぬ意味があるのだと、女の子は気付きました。
二人の子どもは、あの頃と同じようには、大切な相手と会うことはできないのだと、初めて了解しました。
二人の涙はいつまでも止まりませんでした。


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