バリん子U・エ・Uブログ

趣味、幸せ探し! 毎日、小さな幸せを見つけては、ご機嫌にハイテンションに生きているMダックスです。

お金持ちと二匹目の犬 完成版

2015-02-18 23:00:15 | お話 ペットロス
お金持ちが愛犬を亡くした。

一人目のお金持ちは、秘書に頼んで、同じ犬種の犬を買ってきてもらった。
新しい犬の、ちょっとした動作や癖に亡くなった愛犬の面影がよみがえった。
けれど、新しい犬の毛はさらさらしていて、撫でる手にしっとり吸い付いてはこなかった。抱き上げてもお金持ちの肩にあごを乗せて頬に顔をすり寄せてはこなかった。
亡くなった愛犬と同じ犬種の新しい犬を見るたびに、お金持ちは悲しくなった。



二人目のお金持ちは、科学者に頼んで、愛犬のクローンを作ってもらった。
クローン犬は亡くなった愛犬と、同じ顔で、同じ毛色で、同じ声で吠えた。
けれど、クローン犬はお金持ちが本当はつらいけれど、強がって笑っているときに、そっと寄り添ってはくれなかった。クローン犬はお金持ちの作り笑顔に騙されて、はしゃいでいるだけだった。
亡くなった愛犬とそっくりなクローン犬を見るたびに、お金持ちは悲しくなった。



三人目のお金持ちは、自分で動物愛護センターに行って、保護犬をもらってきた。
保護犬は毛づやも体格も、子犬の頃から手塩にかけて育てた亡くなった愛犬とは全く違っていた。
そのうえ、保護犬は仲良くやっていこうと手を差し伸べたお金持ちに向かって唸って吠えた。怖くて辛い思いをたくさんしてきた保護犬はお金持ちに信頼のかけらも感じていなかった。
亡くなった愛犬がくれた奇跡のような日々に感謝して、それから、お金持ちは保護犬に向き合った。
亡くなった愛犬とは違うのだから焦らずに、でも、亡くなった愛犬と同じように大切に保護犬に接した。
保護犬は少しずつ心を開き、お金持ちを信頼した。
そして、気が付くと保護犬は保護犬ではなく、お金持ちの二匹目の愛犬になっていた。
お金持ちも二匹目の愛犬も幸せに暮らしている。



ところで、クローン犬を作ってもらったお金持ちだが、幸せに暮らしている。
亡くなった愛犬とそっくりなクローン犬に邪険にすることもできず、しぶしぶ世話をしているうちにすっかりなつかれてしまった。
そのうちにお金持ちは、作り笑顔でも自分が笑顔になるだけで喜んでいるクローン犬がいじらしくなってきた。そして、はしゃいでいるクローン犬につられて、自分まで楽しい気持ちになっていることに気が付いた。
クローン犬はお金持ちの二匹目の愛犬になった。


ところで、同じ犬種の犬を買ったお金持ちだが、彼も幸せに暮らしている。
亡くなった愛犬の面影がある犬に邪険にすることもできず、しぶしぶ世話をしているうちにすっかりなつかれてしまった。
そのうちに、新しい犬は抱き上げてやると、決まって自分の鼻をペロッとひと舐めするようになった。そのたびに、お金持ちは「大好き!」と言われているような気持ちになった。
新しい犬はお金持ちの二匹目の愛犬になった。




「いいでしょ。お父さん、優しいでしょ。」
初めて家に来た日から、自慢そうな明るい声が、二匹目の犬たちの心に届いていた。
子犬だった二匹の犬はその声を本能の声だと思っていた。だから、お金持ちにすぐになついた。
保護犬だけは声の主を知っていた。だから、怖かったけれど、お金持ちを信じることにした。
「いいでしょ。お父さん、優しいでしょ。」
誇らしげに自慢する明るい声。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿