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薄煕来続報-ロイターより

2012-04-15 13:44:09 | アジア
「[北京 11日 ロイター]

「この件を伏せておくことはできません」─。重慶市党委員会書記を解任された薄煕来氏(62)が、腹心の公安局長から繰り返しこう告げられた際、同氏の家族を巻き込むスキャンダルの幕が開けた。

中国共産党が10年に1度となる最高指導部の交代を数カ月後に控え、党のエリートらは神経質になっているに違いない。

10日に事実上すべての党職務を解かれた薄氏や、妻の谷開来氏に対する英国人ニール・ヘイウッド氏殺害容疑をめぐり、慎重に準備された中国の権力移行が動揺を受け、さらなる犠牲者を生み出しかねない政治劇に発展した。

北京在住のノンフィクション作家、戴晴氏は「党最高指導部で繰り広げられている壮大な政治劇を私たちは目撃している。第1幕は終わり、次の舞台の幕開けを待っているところだ」と述べた。

胡錦濤国家主席ら党エリートは、指導部内の亀裂をいかに防ぐか、苦境に直面している。特に薄氏の処遇をめぐっては指導部における分裂を白日の下にさらしたといえる。

元党幹部や指導部に近い関係筋は、こうした指導部内の分裂について、しばしばイデオロギーに基づく対立になっていると指摘し、左派(保守派)とリベラル派による対立と重なっている、と述べた。

薄氏を支持する左派は、中国が必要とする新しいカリスマとして同氏を擁護する。

一方、薄氏の失脚を後押ししていたグループは、同氏による犯罪組織一掃活動「打黒」や毛沢東時代への懐古趣味に根ざした「革命歌を歌おうキャンペーン」に警戒感を呼び起こしていた。打黒では、権力の乱用も疑われていた。

指導部内の意見の相違は、中国を不安定にするリスクをはらむ。

混乱が拡大する可能性を示すシグナルかのように、中国共産党機関紙・人民日報は論説で、党紀を乱したり、法律に反したりすれば、今秋に予定される党大会を前に職務を解く可能性があると党幹部に警告した。

薄氏の大衆迎合的な政治手法は、民衆の基本的な要求に応えていないとの感情をライバルに呼び起こさせ、反感を買っていたとみられる。

戴氏は、指導部は今のところ一致団結しており、薄氏の失脚に多くが安堵している、と明かす。ただ、必要な政治・経済改革を進める中で、指導部の結束を維持できるか、懸念が広がる可能性がある。

戴氏は「薄氏が失脚したことで、今秋の党大会はスムーズに進むだろう。同氏をめぐって、中央指導部は一応の意見の一致をみたためだ」と指摘。「ただ、第2幕を見極める必要がある。指導部の各個人は、自身の利益や、面倒をみなければならない利権集団を抱えており、間違いなく指導部内の亀裂は存在しているからだ」と述べた。

中国の指導部をめぐる今回の権力闘争は、1989年の天安門事件以来、最も激しいものとなっている。

<大衆迎合主義者に対する挑戦>

中央指導部の一部や多数の一般市民に賞賛された薄煕来氏のキャンペーンと、同氏の家族に対する疑惑の落差が、中国が直面する困難を示している。

この落差の説明を難しくしているのは、薄氏が中国共産党幹部の子弟らの集まりとされるグループ「太子党」に属しているためだ。同氏の父親は、共産党政権の樹立前後に毛沢東に仕えた薄一波氏。

複数の関係筋によると、全国の党幹部は、薄氏の失脚を伝える公式発表を前に、内部会議で同氏をめぐる疑惑の詳しい説明を受けたという。関係筋はいずれも、党規約を理由に匿名を求めた。

疑惑は、英国人ヘイウッド氏の死去や、薄氏と王立軍・重慶市公安局長(当時)の1月における確執をめぐる出来事に焦点が当てられている。これを機に、薄氏は王氏を解任し、王氏は重慶から約300キロ離れた成都の米国総領事館に駆け込む事態となった。

両氏を知るある関係筋によると、1月の確執よりも数カ月前から、2人の関係は悪化していたという。

ロイターがこれまでに報じた資料によると、王氏は、中央最高指導部入りを目指す薄氏が口封じのために自身を追い落とすことを恐れていた。

別の関係筋によると、王氏は自分の身を守るため、薄氏と同氏の妻に関する情報を集めていた。部下に命じ、市幹部の電話を盗聴させたり、薄氏との会話を隠れて記録させたりもしていたという。

王氏はこうした証拠を利用して薄氏に圧力を掛けようとしたが、同氏は王氏の圧力をはねのけた。総領事館駆け込み事件の約1週間前には、王氏はヘイウッド氏の死亡をめぐる疑惑を薄氏に突きつけた。

ビジネスコンサルタントだったヘイウッド氏は、薄氏の息子が英国の名門ハロー校に入学する際に支援した経緯もある。

薄氏と同氏の家族を知る関係筋は、当局幹部らの説明に基づく情報として、「王氏は薄氏に対し、毒殺が疑われるため、幹部4人がヘイウッド氏死去に関する報告書への署名を拒否したと伝えた」と述べた。王氏は「われわれはこれを伏せておくことができません」とも伝えたという。

それから数日後に薄氏は王氏を公安局長の職から外した。別の関係筋は「王氏の秘書や運転手、盗聴を実行した部下が行方不明になった後、同氏は生命の危険を感じ、成都に向かった」と述べた。

薄氏と同氏の妻は、薄氏が重慶市党委員会書記を解任された3月15日以降、公の場に姿をみせていない。

解任前に開かれた記者会見で同氏は、自身や妻、息子をめぐる詳細不明の疑惑を「汚い」「ナンセンス」として否定していた。息子の薄瓜瓜氏は米ハーバード大学で学んでいる。

<指導部が直面する「地雷原」>

中国共産党指導部は第18回党大会を控え、こうした自身の失脚につながる不祥事や疑惑といった「地雷原」をうまく通り抜けなくてはならない。

現・元当局者に近いある北京在住の編集者は、指導部は薄煕来氏の解職で一致したが、今後の対応で意見の一致をみるかは予断を許さない、とみる。

記者へのコメントが制限されていることを理由に匿名を希望したこの編集者は「(薄氏への対応をめぐり)寛大な措置をとるか、または厳しい措置をとるか、早急に処分するか、または時間をかけて検討するか、指導部内にはあつれきがあった」と指摘。「誰もが安定を望み、社会的混乱を招きたくなかった。ただ、例えば胡錦濤国家主席が後継者への影響力拡大を狙って薄氏の件を利用しようとしたりすれば、混乱を招きかねないだろう」と述べた。

中国共産党の不安を示す兆候もある。

最高指導部に近いある関係筋は、党が「権力移行期を短縮するため」秋に予定されている党大会の開催を延期することも検討していると明かす。通常ならば、秋に党の役職が決まり、2013年3月に政府における役職が正式決定することになっている。

胡主席の後任には習近平国家副主席が確実視され、李克強・副首相が温家宝首相の後任として有力視されている。

だが、元当局幹部の改革派によるエッセイを掲載することで知られる北京の雑誌「炎黄春秋」編集長の呉思氏は、その他の最高指導部ポストをめぐっては意見の隔たりが大きくなる可能性があると指摘する。

「最高指導部の選定方法は確固たるルールが決まっていない。古いルールでは時代遅れであるし、新たなルールも機能するか分からない」としている。

(Chris Buckley、Benjamin Kang Lim記者;翻訳 川上健一;編集 加藤京子)」


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