白夜の炎

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書籍紹介『私は中国人民解放軍の兵士だった』明石書店

2016-01-20 15:34:11 | 
小林節子氏による『私は中国人民解放軍の兵士だった』(明石書店 2000円)を紹介したい。

 サブタイトルに、「山辺悠喜子の終わりなき旅」とある通リ、中国人民解放軍に看護師として従軍した山辺悠喜子の人生と活動を振り返った一冊である。山辺の一家は戦時中父親の仕事に伴って旧満州に移り、敗戦をそこで迎える。そしていわば生きるために人民解放軍の看護師となるのであるが、そこで初めて人間らしい生き方、きちんとした医療の勉強等を、今日から見れば過酷とも思える環境の中で成し遂げていく。

 何より日本との、そして国境の戦争で荒れ果てた中、中国の人たちが示した人間的な姿勢がすばらしい。行軍の途中の次のようなエピソードが山辺本人によって次のように語られている。

 「またあるとき、行軍の途中小さな村に立ち寄りました。村の人は皆路上にでて歓迎してくれました。私は年齢も幼く背も低く、その上足には肉刺(まめ)もできていて杖をつき、足を引きずりながら一番後ろについて歩いていました。・・・思うように前に進めません。ですから地面を見てゆっくり進むしかありませんでした。
 その時私の方に一人のおばあさんが近づいてきました。顔もはっきりみえないうちに、私の手のひらに何か暖かいものが感じられました。見るとそれは煮たばかりの卵でした。「こんなに小さいのに軍隊に入って、こんなに遠くまで歩いて、さぞやたいへんだったことでしょう。早くこれを」と言ったのです。私はあわてて辞退しながらいいました。「私はいただけません。私たちには規則があります。」しかしおばあさんは私の手のひらにその卵を握らせたのです。」

 当時農村は食料が欠乏し、容易ではなかったと思われる。しかしこの老婆は若かった山辺氏に卵を握らせ、その記憶は今日まで鮮明である。それは単なる親切をこえて、山辺悠喜子という人を作る一つの支えになったように思われる。

 山辺氏はその後日本に帰ってからの地も、日中の友好のため、あるいはかつての日本軍の戦争犯罪糾明のため、献身的な活動を続け今日に至っている。

 ぜひ一読を勧めたい。


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