白夜の炎

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『「強欲な企業」と「人間」との戦い 』/田中優より

2016-01-25 16:23:39 | 国際
「『「強欲な企業」と「人間」との戦い 』

■パリ協定の真実

 昨年末の最後の大きなニュースといえば、地球温暖化をめぐる「パリ協定」成立
ではないだろうか。それまで何度も国際会議が開かれたものの、どの会議も法的拘
束力を持つ条約にはならず、毎回物別れに終わってきたからだ。ところが今回は法
的拘束力を持つ協定が、先進国だけでなく途上国も巻き込んで決まった。ここまで
できたことに各国のNGOは浮かれ、それを実現したフランス政府に称賛の声が送
られた。


 ところがさすがフランスというべきか、よく見てみると、この協定は二重底になっ
ているのだ。法的拘束力のある「合意」と、法的拘束力のない「決定」だ。その二
重底の中に対立をうまく隠したというのが正しい評価かもしれない。

 たとえば今回、「5年毎の約束草案の提出・改訂や会議前の目標提出・事前レビュ
ー」など、各国目標の上方修正を定期的に促す仕組みが取り入れられた。これを高
く評価する声は大きい。しかし、パリ協定では各国目標の通知は法的拘束力があるも
のの、達成は拘束力がないのだ。だから口だけで何もしないとしても、義務は達成で
きてしまう。

 一方、温暖化を進めたのは圧倒的に先進国側だが、米国の要求で『責任や補償と
いう議論をこれから一切やらない』という文言が「決定」に入り「合意」の方にも
ひもづけられた。破壊は先進国で、被害は途上国に大きいのに、その責任や損害賠
償はしないと『決定』され、法的拘束力のある『合意』にひもづけられているのだ。

 もし今回の協定の『決定』だけでも拘束力はあると考えたとすれば、この不平等
な『決定』にも従わなければならない。加えて温暖化の被害を防止するための資金
ですら、毎年1000億ドル支援というのもまた拘束力のない『決定』に書かれている。


 「パリ協定」最大の問題は、これが発効するためには、「55ヵ国及び世界の排出
量合計の55%を超える国の批准」が必要とされていることだ。これは実質的に「米
中ロシア」に発効の拒否権を与える。そうなると各国は「米中ロシア」の様子を伺
い、対策の先延ばしするだろう。恥ずかしてことに、これを強く主張したのは日本
政府だった。

 この二重底を徹底的に利用した場合、先進国はCO2削減計画を策定するが、それ
を達成しなくていい。しかも温暖化による損害の賠償もせず、資金援助すらしない。
資金援助は政治的に利用され、先進国に従わなければ支払いすらされない。そして
「米中ロシア」に批判が高まるなら、「パリ協定から離脱する」と言えば協定は発
効すらしなくなるのだ。



■地球温暖化を進める大事故


 アメリカ・カリフォルニアでは、廃坑になった地下深くの油田跡を天然ガスの貯
蔵施設として利用していた。ところがそのガスが周囲に漏れたのだ。天然ガスの本
体である「メタンガス」自体は無色・無臭で有害でもないが、ガス漏れに気づくよ
うに混ぜられた臭い成分で気分の悪くなった人が発生して問題になった。


 メタンガスが問題なのは、爆発性以外にそれが二酸化炭素の20倍以上に地球温暖
化を進めてしまうことだ。漏れ始めたのは10月23日だから、すでに2カ月以上経っ
ている。その二か月の間に漏れたメタンガスは7.3万トンで、温暖化の程度を二酸
化炭素で計算するとほぼ600万トンが排出されたのと同じで、それは実に毎日700万
台の車の排ガスに相当する。

 これが騒がれ始めたのは、アメリカのNGOが写真に写らないメタンガスを、赤
外線カメラで可視化して見せてからだ。その映像では真っ黒な煙が貯蔵施設の山か
ら火事のように立ちのぼっている。これは「赤外線カメラ」で撮っている。


 実は地球温暖化の原理は地球への熱の出入り量の違いによる。地球に届く紫外線
の熱量は変わらないのに、地球から出ていく赤外線の熱が温室ガスによって妨げら
れることで暖められてしまうのだ。入力量が変わらないのに出力量が減るのだから
温暖化する。もし地球に届く熱の入出力量が同じなだけなら、地球はマイナス15℃
の氷の惑星になっていた。温室ガスが出ていく赤外線の出力を遅らせているおかげ
で、今のように平均15℃の生命の宿れる惑星となっている。しかし温室効果ガスが
多くなりすぎれば、地球は温暖化を起こしてしまう。

 画面に映っていた禍々しい黒い煙は、正にメタンガスが赤外線を妨げるからこそ、
赤外線カメラでたなびく形で映すことができたのだ。



■「どん底への競争」へ

 こんな事故を起こしても、「パリ協定」で罰することはできない。これでは悪い
ことのし放題になってしまう。今、各国が「二酸化炭素の地下貯蔵」を良い方法だ
として進めている。石炭の豊富なオーストラリアは二酸化炭素を貯留することで問
題なしにしようと年間500万トンを貯留しようとしているし、すでにノルウェーや
アルジェリアでは2000万トンも貯留している。しかもされらは「天然ガス随伴」方
式で、今回の事故と同じなのだ。それが漏れたらどうなるのか。


 そう、今回と同じく罰せられない。「予想外の事故だから」と排出計画を守れな
くなった締結国は言い訳するだろう。それだけだ。しかし地球温暖化は加速され、
極地や高山での気温上昇が進んで現地に深刻な被害をもたらすだろう。今溶け方が
加速しているグリーンランドだけでも、溶けたら全世界の海水面を7メートル上昇
させる。私たちもタダではすまないのだ。


 関連する企業は「大丈夫」と、福島原発事故前までの電力会社みたいに言うだけ
だ。想定外だったと言うだけだ。パリ協定は「生存を守るために2℃以下に、でき
れば1.5℃未満に抑える」と口では言うが、その仕組みは上に述べた通り保障されな
い。

 これに「予想外の漏出」を加えたらどうなるのか。今回の事故だけで「700万台
の車」が毎日走る分の温室効果ガスを排出させた。問題なのは利益を優先して生
存を優先させない経済原理にある。私たちの敵は世界的な巨大企業なのだ。それ
らの利益のための競争によって、人間が滅ぼされる状態だ。地球は巨大企業による
「どん底への競争」の舞台となってしまった。

( 川崎市職員労働組合様へ寄稿したものを、好意を得て転載しています。) 」

田中優氏のメルマガより転載


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