「地中海の移民問題は、2つの重要な教訓をもたらした。第1に、欧州および国際社会は、立場の弱い移住者を保護する十分なシステムを有していない。第2に、そうしたシステムの欠如に際して、ポピュリスト指導者が民衆の恐怖に付け入り、70年を費やして作り上げられたリベラルで寛容な社会を弱体化させてしまうだろうということだ。
このため、今年は、欧州及び世界的なレベルでの精力的な活動が求められる。9月に国連の潘基文事務総長は、難民や立場の弱い移住者を保護する公平なグローバル体制の構築に向けた特別会合を招集する予定だが、各国には実効的かつ永続的なコミットメントを整えるよう期待したい。
昨年はこうしたコミットメントが非常に欠けていた。国際社会は約400万人のシリア難民を受け入れた隣国のトルコ、レバノン、ヨルダンに100億ユーロ(約1兆3000億円)程度の支援をしさえすれば、これら3カ国が難民への食料や住居、教育を担い、欧州への流入を減らすことができたはずだった。しかし、そうした支援をしなかった結果、ドイツ1国だけで今後数年にわたり、年間210億ユーロものコストが必要になったのだ。
昨年だけで4000人が落命
しかし、この危機がもたらした人的・政治的なコストに比べれば、資金面での話などまったくかすんでしまう。昨年だけで100万人以上が命懸けで地中海を渡り、約4000人が命を落とした。生き延びた人々も欧州の多くで入国を拒否された。
冷笑的な政治的指導者たちは、移住者が経験したうそ偽りのない体験を無視するか、それらを歪曲させてしまう醜悪なナショナリストのビジョンを掲げることで、大衆の不安な思いに容赦なく付け込んでいる。
過激派勢力は、いくつかの欧州の国々で政権をほとんど掌握するに至っている。ハンガリーとポーランドでは、反移民を掲げる政党が権力の座にあり、主流政党が反移民政策を取らざるをえなくなっている。
難民の対応に当たる欧州連合(EU)のプログラムは、たった190人を「移住させる」ことしかできていない。EUは愛国主義に過ぎ、そして無能であるように見える。
安全かつ合法的に難民が移住する手段の創出が最優先事項である。EUは入国を許可する移住者の人数について、もっと寛大になるべきであり、彼らの入国を手助けするための組織立った手段を講じるべきだ。
強固なグローバル体制構築を
また、国際社会は難民とその他の立場の弱い移住者を保護するための強固なグローバル体制を構築すべきだ。
先進国はその手段が再定住の支援であれ、人道的ビザ、学生ビザ、就労ビザなどの発給であれ、先進国で年間100万人弱の難民を受け入れられる合意に達すべきである。カナダ1国だけでも、5万人のシリア難民を今年再定住させると述べているが、この目標が達成可能なのは明らかだ。
同時に、国際社会もトルコ、ケニア、レバノン、ヨルダンなどの主要な受け入れ国における難民の地域統合を支援しなければならない。
移住者を保護するシステムを構築するために、気候変動のための対策と同じような国際的な行動を16年に起こさなければならない。2000万人の難民と、立場の弱い数百万人の移住者の生死を分ける問題であり、全世界の民主主義社会の健全さを問う深刻な試練でもあるのだ。」
http://toyokeizai.net/articles/-/101256
このため、今年は、欧州及び世界的なレベルでの精力的な活動が求められる。9月に国連の潘基文事務総長は、難民や立場の弱い移住者を保護する公平なグローバル体制の構築に向けた特別会合を招集する予定だが、各国には実効的かつ永続的なコミットメントを整えるよう期待したい。
昨年はこうしたコミットメントが非常に欠けていた。国際社会は約400万人のシリア難民を受け入れた隣国のトルコ、レバノン、ヨルダンに100億ユーロ(約1兆3000億円)程度の支援をしさえすれば、これら3カ国が難民への食料や住居、教育を担い、欧州への流入を減らすことができたはずだった。しかし、そうした支援をしなかった結果、ドイツ1国だけで今後数年にわたり、年間210億ユーロものコストが必要になったのだ。
昨年だけで4000人が落命
しかし、この危機がもたらした人的・政治的なコストに比べれば、資金面での話などまったくかすんでしまう。昨年だけで100万人以上が命懸けで地中海を渡り、約4000人が命を落とした。生き延びた人々も欧州の多くで入国を拒否された。
冷笑的な政治的指導者たちは、移住者が経験したうそ偽りのない体験を無視するか、それらを歪曲させてしまう醜悪なナショナリストのビジョンを掲げることで、大衆の不安な思いに容赦なく付け込んでいる。
過激派勢力は、いくつかの欧州の国々で政権をほとんど掌握するに至っている。ハンガリーとポーランドでは、反移民を掲げる政党が権力の座にあり、主流政党が反移民政策を取らざるをえなくなっている。
難民の対応に当たる欧州連合(EU)のプログラムは、たった190人を「移住させる」ことしかできていない。EUは愛国主義に過ぎ、そして無能であるように見える。
安全かつ合法的に難民が移住する手段の創出が最優先事項である。EUは入国を許可する移住者の人数について、もっと寛大になるべきであり、彼らの入国を手助けするための組織立った手段を講じるべきだ。
強固なグローバル体制構築を
また、国際社会は難民とその他の立場の弱い移住者を保護するための強固なグローバル体制を構築すべきだ。
先進国はその手段が再定住の支援であれ、人道的ビザ、学生ビザ、就労ビザなどの発給であれ、先進国で年間100万人弱の難民を受け入れられる合意に達すべきである。カナダ1国だけでも、5万人のシリア難民を今年再定住させると述べているが、この目標が達成可能なのは明らかだ。
同時に、国際社会もトルコ、ケニア、レバノン、ヨルダンなどの主要な受け入れ国における難民の地域統合を支援しなければならない。
移住者を保護するシステムを構築するために、気候変動のための対策と同じような国際的な行動を16年に起こさなければならない。2000万人の難民と、立場の弱い数百万人の移住者の生死を分ける問題であり、全世界の民主主義社会の健全さを問う深刻な試練でもあるのだ。」
http://toyokeizai.net/articles/-/101256